永遠瞬間製造 Co.Ltd
ゆーじは町工場で精密機器の部品を作っている。旋盤を回して夏は汗だらけで。
ゆーじは僕の小さい頃を知っていたけど僕はゆーじを知らなかった。
初めて会った時に「ずいぶん大きくなったんだな」って言われて、知らない人だけど僕を知ってくれていることに安心したのを覚えている。
ゆーじの作る部品で街の中心にあるでっかいビルの耐震構造とかが造られているらしい。
ゆーじはすごい仕事をしている。ゆーじは世の中の役に立つ仕事をしている。
僕は学校に行っていない。
学校で教わることもまわりの人たちが話す言葉も僕には受け入れられず、一日でやめた。
ゆーじは何も言わなかった。
旋盤を回すゆーじを見ながら僕は飛びちる火花を絵に描いた。
ゆーじはそれを工場の壁に貼った。
壁の絵は一枚一枚増えてゆく。
ゆーじはネジを削っている。
昼の工場、夜の工場。
オレンジ色のナトリウム灯が部屋中を照らしている。
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ある日、誰かがシャッター扉を開ける。
おびただしい壁の絵と床に散らばった部品のネジを見つける。
そこには誰もいない。
誰もいない部屋中をナトリウム灯が
ただ 照らし続けている。
世界のすべてはいつかの時間の残骸と
影みたいな動く「もや」でできているから
実態の無い、映し出された映画を
見ているようなものなのです。
ふいに声が聞こえたり大きな音が響いても
それはただの幻です。
いくら皆でそれを確かめ合ってどこかに書き付けたとしても、本当にそれをみつけることはできません。
それでも、いつか確かにそこにあったはずの
記憶を取り戻すためのきっかけは、ちゃんと残されているはずです。
何ということもない、誰も気にもとめないような場所に、それはさりげなく置かれていることでしょう。
なので、あまり顧みられずに消えてしまうことが大半ですが、それは形を変えて、人の夢の中や無意識の中に潜りこんだりしているようです。
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