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魔女と牛の乳
今回のお話は1985年に採集された話です。民話じゃなくて、世間話のような感じです。
この年を、昔と思うか最近だと思うかは、これを読んでくださっている皆さんが当時何歳だったかにもよるのですが(いや、まだこの世に生まれてきてない方もいらっしゃいますね。若っ!)個人的感覚ではそれほど昔じゃないんです。
私がランドセル背負って学校に通っていた頃、遠い遠い彼の地では、普通に魔女がどうのこうのと語られていたのがなんともいえない不思議な気分。
それでは はじまり はじまり
「太陽が沈むとね、(魔女は)嫌がらせするつもりの女の所に行くんだよ。牛の乳をもってさ、その家まで行って自分の家まで続く印をつけるのさ。そうするとその家の牛の乳は全部自分のものになるんだよ。だから、そこの家では牛が乳を出さなくなるのさ。魔女が全部自分のモノにするからね。
あの女はバターをいつも真夜中、12時に作ってたよ。近所の女たちがこっそり出かけて真夜中に一体何をしているのか、見に行ったからね。そりゃぁ、もう魔女に決まってるさ。
うちの牛の乳もとられたさ、牛が乳を出さなくなったんだからね。あの女は自分のところの牛の乳をもって、反対のお隣さんのところにも出かけてさ、小屋の端っこから牛の乳で自分の家まで道筋をつけたのさ。そうすりゃ、そこの牛の乳が自分のところのにくるからね。
ええと、ちょっとまって、どうやっていたかねぇ?
あぁ、確か自分のとこの牛の乳をペチコート(裾除け)で濾して、月が出てる晩に家の柵に引っ掛けるのさ。月の光だ、そうそう。どこかしらにこのペチコートを月の光に向けてひっかけて、でさ、この月がそういう魔法を引き起こすんだよ。」
おしまい
太陽が沈んだ後に物を貸すと、借り手が魔女だったらその家の良い運も持っていかれる、という話はあちらこちらで聞くのですが、これって裏を返せば『夕方以降、人にものを借りるんじゃない』とも読めるし、今だったら『夕方以降、皆が休んでいるときに人の家に行くんじゃない。モノを借りるなんて七面倒くさいことをするんじゃない。迷惑なんだわよ』という戒めなんでしょうかね。
どちらにしても、よその家の牛が乳を出さなくなったのを自分のせいにされてもとっても困るんです、と思った私でした。