アナンシと五
ずっとずっと、大むかしのことです。ジャマイカ島に、アナンシがいました。
アナンシというのは、ときどき、人間になったり、ときどき、大きなクモになったりするのですが、とにかくわるいやつでした。
アナンシの近くに、『五』という名まえの魔女が住んでいました。
五は、自分の名まえが、大きらいで、もっといい名まえで、呼んでもらいたい、と、思っていました。でも、みんなは、やっぱり、五と呼ぶので、五はいつも、腹をたてていました。
ある朝、アナンシは、魔女の家のへいの穴から、そっと、中をのぞいてみました。
魔女は、大なべで、魔法の草を煮ているところでした。なべから、煙が、たちはじめると、魔女は、魔法のつえをふりあげて、おそろしいじゅもんを、となえました。
「五ということばを、いったものは、その場で、死んでしまえ。その場で、息がたえてしまえ。」
それを聞いて、アナンシは、にやっと、笑いました。
「いいことを聞いた。こいつを、うまくつかえば、ごちそうにありつけるぞ。」
あくる朝、アナンシは小川にそった道へ、やってきました。市場に、赤い豆や白い豆を買いに行くものが、かならず、通る道でした。
アナンシは、サツマイモの山を五つ、道ばたにつくって、だれかが通るのを、まっていました。
そこへ、アヒルのおくさんが、通りかかりました。
「おはよう、アヒルのおくさん。ごきげんいかがですかね。」
と、アナンシは、声をかけました。
「ありがとう、アナンシさん。おかげさまで。あなたは、ごきげんいかが。」
「ええ、それがねえ。」
と、アナンシは、さも悲しそうな顔をして、見せました。
「ごらんの通り、サツマイモをつくったんですがね。ところが、頭がわるいものですから、いく山とれたか、かぞえられないんですよ。すみません、かぞえてみてくれませんか。」
「いいですとも。」
アヒルのおくさんは、サツマイモの山を、かぞえはじめました。
「一、二、三、四、五」
アヒルのおくさんは、『五』といったとたん、魔女ののろいにかかって、ばったりたおれて、死んでしまいました。
わるいアナンシは、アヒルのおくさんを、まるごと、ぺろりと、たべてしまいました。
そして、また、道ばたにすわって、だれかが通るのを、まっていました。
そこへ、ウサギのおくさんが、長い耳を、ぱたぱたさせながら、通りかかりました。
「おはよう、ウサギのおくさん。ごきげんいかがですか。」
「ありがとう、アナンシさん。」
「ねえ、しんせつな、ウサギのおくさん。サツマイモをつくったんですけどね。頭がわるくて、いく山とれたか、かぞえられないんですよ。ひとつ、かぞえてくれませんか。」
「ええ、いいですとも」
ウサギのおくさんは、長い耳を、しとやかにふって、かぞえはじめました。
「一、二、三、四、五」
五といったとたん、ウサギのおくさんは、ばったりたおれて、死んでしまいました。
アナンシは、ウサギのおくさんを、骨ひとつのこさず、たいらげてしまいました。アナンシは、ふくれたおなかをさすりながら、まだ、そこにいました。
しばらくすると、こんどは、ハトのおくさんが、きれいなピンクの足で歩きながら、やってきました。
「おはよう、ハトのおくさん」
と、アナンシは、声をかけました。
「おはよう、アナンシさん。ごきげんいかが。」
と、ハトのおくさんは、聞きました。
「それがねえ、ハトのおくさん。」
と、アナンシは、悲しそうな声をだしました。
「わたしは、バカなもんで、サツマイモをつくったのに、いく山とれたのか、かぞえられないんですよ。」
ねえ、おやさしいハトのおくさん。私のかわりに、かぞえてくれませんか。
「ええ、いいですとも。」
そういうと、やさしいハトのおくさんは、かわいいピンクの足で、サツマイモの山にとびのりました。そして、山から山へと、とびうつりながら、かぞえはじめました。
「一、二、三、四、それから、わたしの乗っているぶん。」
アナンシは、くやしがりました。
「ハトのおくさん、あんたのかぞえかたは、おかしいですよ。」
「まあ、ごめんなさい、アナンシさん。それじゃ、もう一回、かぞえてあげるわ。」
ハトのおくさんは、また、かぞえました。
「一、二、三、四、それから、わたしの乗っているぶん。」
「ちがう、そんなかぞえかたじゃ、だめだ。」
アナンシは、歯をぎりぎりいわせて、おこりました。
「ほんとうに、ごめんなさい。アナンシさん。もう一回、やってみますわ。」
やさしいハトのおくさんは、また、かぞえなおしました。
「一、二、三、四、それから、わたしのすわってるぶん。」
アナンシは、まっかになっておこりました。そして、思わず、さけびました。
「なんて、バカなハトだ。なんて、まぬけなハトだ。こうやって、かぞえるもんだ。・・・ 一、二、三、四、五。」
『五』と、いったとたん、アナンシは、ばたっとたおれて、しんでしまいました。
●ジャマイカの昔話より「アナンシと五」