民話で独りコラム ~マジャンナ 春の訪れ~
ポーランドの春分の日(3月21日)といえばマジャンナ。古代スラブの時代から現代まで続いている民間信仰で、冬に見立てたマジャンナの人形を川に流し込み春を迎えるという行事です。といっても地域差がありまして、この人形マジャンナがスラブの死を象徴する女神である、とするところもあれば妖怪としているところもあります。
秋、自然界が死を迎え、静けさだけが耳に響くのはマジャンナのなせる業。だからマジャンナは冬を象徴するもの。民間信仰では、彼女の死が冬の終わりを意味し、すなわち春の訪れにつながるとされています。
マジャンナの人形は藁で作られ、服を着せられたり首飾りをつけたりと装飾されます。昔は各家庭を周り、家で用意された桶の水に人形を漬けて『冬』の溺死を象徴していたようですが、近年は(人の数も増えましたからね)村の中央からそのまま運び出され村の境界線、もしくは川岸まで運ばれて人形に火をつけて川に投げ込まれていました。
この地域の民の春を待ちわびるその情熱はすごいものがあります。日本に住んでいた頃にはあまり理解できなかったのですが、20年近くこの地域に住んでしまうと今では彼らの気持ちが痛いほどわかる。夏至から冬至にいたる間、日に日に日照時間が短くなり、太陽を拝める日すらどんどん減っていくんです。正直、神経に触り始めます。1月後半にもなると本当に太陽が恋しくなり、2月になれば切ない恋心、というよりは狂気に満ちた恋慕ですかね。苦笑
ちなみに、今でも幼稚園などでこの行事を催すところもありますが、川を汚すから等の理由で川に投げ込むことはなくなってきているそうです。自然愛護団体の言い分も最もなのですが、なんとか妥協点を見つけて子供たちにこの風習を続けさせてやることはできないものか、と思ってしまいます。
妥協点といえば、この風習はキリスト教からすれば、すざまじく異教のもので、カトリック教会側からは何度も批判されていたそうです。まぁ、想像は難くないですですな。
そして現ポーランドとチェコの国境沿いあたりでは、この時期に魔女の疑いがかけられた若い娘を川に放り込んでいたという記録があるようなことをどこかで読みました。(う~ん、どこで読んだかが思い出せない。ちゃんとメモに残しておくんだった)
『魔女嫌疑のかかった娘を川に放り込むことで、春を迎える』ということで、教会側とスラブ風習存続の落としどころとされたのでしょうか。
だとしたら、なんとも後味の悪すぎる春の迎え方ですな・・・。
こちらの春の迎え方が狂気を含んだ渇望や歓迎なら、日本の春は穏やかな訪れを招きいる、という感じでしょうか。
その土地の気候や風土が、春の受け入れ方まで人間を変えてしまうというのは、自然の底知れない力に畏怖の念を抱いてしまいます。