
ミモザの花と心の余白
映画を観た帰り、
「そうだ、花を買って帰ろう。」
と思いたった。
朝、いつもの習慣で開いた月星座占いの本に書いてあったことをふと思い出したからだ。
月が双子座にある日は、小ぶりで、スカイブルーやレモンイエロー等のパステルカラーの花がツキを呼ぶらしい。
花屋にミモザがあったら、迷わず買おう。
可憐だけれどその鮮やかなイエローに、圧倒的なエネルギーを感じるミモザは、私の好きな花の1つ。
電車の乗り換えで通る駅中の小さな花屋には、珍しく客が誰もいなかった。
ミモザはひと枝だけ残っていた。
「ミモザ、ください」
店員を呼び、そう言うと、
「ご自宅用ですか」
と尋ねられた。
「はい」
「ビニール袋は要りますか?」
「手でそのまま持って電車に乗るわけにはいかないので…」
「紙では、包みます」
「電車の中で、服に花粉がつくかな。」
と言うか言わないかのタイミングで店員の口から発せられた次の言葉に心が凍ってしまった。
「ビニールはいるんですか?いらないんですか?いるなら5円かかりますが」
この人は「通い合わない人だ」と瞬時に思い、今度は私が店員の言葉が終わるか終わらないかのうちに
「ビニール付けてください」
と答え、レジに進んだ。
狭い店内には私の他に客はいなかった。混んでいる店内では、店員と会話などせず、サクッと買い物を済ませただろうけれど、私が客として発した言葉は、許容の範囲ではなかろうか。
いい映画を観た帰りだっただけに、ちょっと残念な気持ちだけど、ミモザの美しさには変わりない。
『この世の中には、いい人や悪い人は存在しない。ただ、余裕がある人とない人がいるだけだ』
との言葉を思い出した。
気持ちの余裕、時間の余裕、金銭的な余裕…
余裕は、余白と言い換えてもいいかもしれない。
何か大切なものを受け容れるための隙間。
私は書道は嗜まないが、書作の美しさは、余白を含めてのものである。
いい映画を観て、自分には心に余白が生まれたのだと思う。
「花を買って帰ろう」
「残念な言葉よりもミモザの美しさを受け取る」など、余白があったゆえに思い得たこと。
いつもいつもは難しいけど、時々「余白」を意識して生きていきたいと心から思わされる出来事だった。