ジェンダーのペテン師
うまい話に便乗しようという魂胆は、誰にでもあるもの。それが社会の趨勢であれば、なおさらでしょう。
「飯・風呂・寝る」で象徴されるように、日本では「女性は乱暴な命令で仕えてくれるもの」と思う男性がまだまだ多いことが観察できます。
私の夫も「飯・風呂・寝る」とは言わないまでも、それ系だったのですが……。その無礼が全面的に彼の責任かといえば、そうではありません。同様な親と社会にも原因があることは、否めないからです。
前回、「育児を成功させるために、夫婦の関係に波風立てないことを選んだ」と書きました。さっさと諦めた理由は、彼の生い立ちにあります。
兄弟4人が全員男。加えて、いつも一緒だったという従兄弟たちまで、見事に男ばかりなのです。新年会で集まったのを見たら、15人はいたはず。つまり、対等な立場の異性がいなくて、女性といえば世話をしてくれる大人ばかりな環境。
私の弟がうちに泊まりに来た時に、驚いたことがあります。弟に朝食を作るために寝室を出ようとした私を、夫が慌てふためいて止めたのです。「そんな格好で!」と……。
え? そんな格好? 確かにネグリジェではありますが、別にスケスケのお色気ルックとかではありません。「なんで?!」と考えたら、すぐに思い当たりました。そうかこの人は、歳の近い異性が生活圏にいたことがないんだ……と。
この時には既に、夫の別人種ぶりは知っていました。疲労困憊から家事協力をお願いした私に、「収入が同じならね」と平然と答える人でしたから。
今考えたら当時の収入は、それほど変わりません。私は芸能関係だから低めではありました。それでも英語を使う仕事なので、同業クライアントの女子たちから高給を羨ましがられていたほど。
対してフォトグラファーの夫は、バブル当時の業界中ではいい方でなかったはず。だけど私は、同朋と認識していた夫から酷いことを言われたショックで、反論する気力がありませんでした。
同様な夫側の発言が、今では批判の対象になっているのをちらほら目にします。世の中、ちょっとずつでも変わってはいるよう。
そんな夫の異人種ぶりが決定的になったのは、娘が小学校の高学年になった頃。私ばかりが大好きな仕事をセーブする状況が10年続いた末のことでした。
「子どもの手が離れれば夫が協力してくれる」と待っていたけれど、一向にそんな気配はなく……。相変わらず仕事のスケジューリングに四苦八苦な私。辛抱も限界で、ついに話し合うことに。
「今までずっと私が仕事をセーブしてきたから、今度はそちらがたまには都合してくれてもいいのでは?」と持ちかけた私に、夫が何て答えたと思いますか?
「そんなこと考えてたの?」と、真顔で……。
え? え?「そんなこと」って?! 男女の不平等を受け入れて、自分だけ多大なチャンスと年収を失ってきた私の言うことの、どこが「そんなこと」?!
「もうダメだ」と思ったのは、この時です。そんな風に育ってしまった人は、説得不能だと……。
途中の経緯はすっ飛ばし、現在東京の家では、夫が全面的に家事を担当。私はリクエストし放題。なぜなら、老後の展望が多少あるのは、夫よりも私だから。
妻にリスペクトのない夫には、どうせ頼れません。放っておいて、自分のステータスを上げるのが早道!
夫は生い立ちが同情要素とはいえ、男尊女卑の世相に便乗した点では明らかに非があります。だって、家の中は男にかしづく女ばかりだったにせよ、学校に行けば掃除当番などは男女で平等だったはずだから。
保険金詐欺などのペテン師は、意外にもペテンに引っかかるのだそうです。なぜなら、およその手口を知っているので「自分が引っかかるわけはない」と油断するから。
まあ、うちの夫婦もそんなところです。私は夫の手口を真似させていただくペテン師。夫は敢えなく引っかかっています。
殊勝に主夫をやっている夫を見ると、根っからの極悪人ではないのかも。夫の料理は、なかなかのものです。
今、モラハラ夫に悩んでいるあなたへ。「美味しそう!」に見えてオーダーした料理が「全然」なのは、よくあること。あなたのパートナー選択が悪かったのではありませんから。
ジェンダーなんて、元々実態のないペテンみたいなもの。ハイエナのように女尊男卑なヒエラルキー社会もあるし、条件次第でオスになったりメスになったり性転換する魚は多種あります。
Netflix ”究極のペテン師: 人を操る天才たちの実像”↓
このドキュメンタリー・シリーズを見れば、私の夫がやってきたことはまさしくペテン師。妻の自由を奪い、劣悪な条件で働かせ、借金を重ねる……。普通の人たちがなぜこんな奇しげな人物に引っかかって、何年もお金と労働を捧げるのかと思いますが……。
そこが人間の心理であり、「天才(男性)」がつけ入る隙でしょうね。私もやられました。
このドキュメンタリーを見れば、たぶんあなたも逆転ペテン師を目指す気になるでしょう。