花の香りの抽出方法 : アンフルラージュ
植物から香り成分を抽出し、香料を得る方法のひとつに「アンフルラージュ」がある。
これは油脂に香り分子を吸着させる製法で、古代エジプトなど古くから用いられていたが、香水産業が盛んな南仏グラースで18世紀半ば以降、盛んに行われた。
アンフルラージュには温めたオリーブオイルなどリキッド状の油を用いる「ホットアンフルラージュ(温浸法やマセラーションとも呼ばれる)」と、バーム状の獣脂を用いる「コールドアンフルラージュ(冷浸法)」がある。今日単に「アンフルラージュ」という場合は、冷浸法を指すことが多い。
グラースを代表する植物のうち、熱に弱いが収穫後も香りが長持ちするジャスミンやチュベローズには冷浸法、オレンジフラワーやミモザ、ローズには温浸法が用いられていた。
↑アンフルラージュの工程を収めたゲランのビデオ
冷浸法のアンフルラージュは木枠に収められたガラス板に、脱臭した牛や豚などの獣脂を載せ、その上に花を置いていく。花は1日〜2日ごとに取り替えられ、脂が飽和状態になるまで1~3ヶ月ほど繰り返す。(花を変える頻度や、作業期間は資料によって異なるので、幅を持たせている)
こうして得られた香りのつきの脂は「ポマード」と呼ばれ、そのまま香水製造業者などに販売されたほか、ポマードをアルコールに浸して香りを移したあと、アルコールを蒸発させ「アブソリュート 」とよばれる香料を得る。
かつては大量の女性労働力を動員して行われた花の交換作業だが、あまりにも手間とコストがかかるため、「溶剤抽出法」が登場すると急速にとって変わられた。溶剤抽出法はヘキサンなどの揮発性有機溶剤に香り分子を溶け込ませる手法で、アンフルラージュよりもより多くの匂い分子を効率的に抽出できる。グラースでは1800年代の終わりに導入され、1920年ごろにかけて新設備のための工場拡張や新設が盛んに行われた。
1940年ごろまでにほぼ消滅したといわれていたアンフルラージュだが、ゲランやロベルテのSNS発信にあるように、近年復活をとげている。伝統技法の保存の意味合いが強く、生産は小規模で、高級ラインの香水などに限定的に使用されている。
グラースで1875年に創業した香料大手のロベルテでは、動物性脂を植物性脂に置き換えた製法で蘇った。
近年、香料・香水業界では環境や倫理に配慮したよりクリーンな製法や原料を求め、動物性原料から植物性への置き換え、より安全性の高い化学物質の研究などが進み、その流れの中でアンフルラージュの原料も現代的にアップデートされている。
今年の5月にグラースに行った時、香料植物の栽培者たちからも、サスティブルな技術を開発のために、香料会社の研究者たちはしのぎを削っていると聞いた。グラース近郊の香料会社で働く研究者たちは、もともと自然が好きで化学者になった人も多いとも。
来年の取材では、ぜひ香料会社の研究者に話を聞いてみたいなと思って、友人たち(花の生産者)にも紹介をよろしく頼んでおいた。
どんな話が聞けるか、今から楽しみにしている一方、自分の科学知識と語学力でどこまで理解できるのだろう、誰か協力者いないかなと、辺りを見回してる今日このごろである。
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Studio Naaeによる写真: https://www.pexels.com/ja-jp/photo/17795179/
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