スピード感が武器になる経営
企業は社会の変化に応じて変化する顧客の欲求に対応することが絶えず求められます。顧客の欲求を満足させ続けることが大切でこれが企業の持続性につながります。スピード経営とは事業環境の変化に対して情報収集・意思決定・実行のプロセスを迅速に回していくことです。
経営の多角化・市場ニーズの多様化・技術革新が進む現代においては事業や商品のサイクルが短縮しており、そのスピードについていけないと機会損失や過剰在庫が生じます。自然災害やパンデミックが起こるとこれから先はどのような想定外の事態が起こるか誰もわかりません。
事業はやってみなければわからないものです。新規性の高いものはなおさらです。最初から正解だけを追求しようとすれば他者がつくった正解を追うしかありません。過去、パナソニックはソニーを自社の研究所扱いをして後から市場シェアを狙っていましたが、後追いで勝つ戦略は今となっては過去のものです。実際は先行者が勝つケースが圧倒的に多いです。だから企業が生き残るには新しい何かにいち早く挑戦する姿勢が必須なのです。
これまでの経営は完璧さが求められてきました。これは失敗を恐れ即座に前に進むことより着実に進むことのほうが美徳とされてきた日本において当たり前の価値観だからです。その完璧さの獲得には当然時間がかかります。慎重にならざるを得ません。創業から年数を重ねるにつれ保守的・官僚的にならざるを得ません。
ところが現代に求められるのは完璧さではなく、むしろスピード感です。誰もが納得する確立された正解より誰もが思いつかないうちに正解ではないかと思われるものを投げかけ失敗しても陣族に対応することのほうが重要視される時代、つまりそれは失敗をも視野に入れた対応を含めた行動が求められる時代なのです。
Amazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏は「失敗は後悔しないが、トライしなかったことは後悔する」と言いました。様々なアイデアと先進的なビジネススタイルを世界に提供してきたジェフ・ベゾス氏もまた失敗を恐れずにむしろそれを内包することによって成功を修めてきました。失敗を恐れチャレンジせずに完璧で安全な道を歩くことを否定した彼が見ていたものは即応性と先進性の果てにある未来の世界です。即応性のあるスピード感をもった分析とは過去をみて後悔することでなく未来を予測することに他ならないのです。
新たな試みを前に進めるには経営トップの積極的なコミットメントが絶対条件にあります。変革のキーワードである「スピード経営」「デジタルシフト」は各部署の従来の進め方につぶされてしまうからです。組織は保守的であり慎重なものです。変革にはどんな業務より経営トップの強いリーダーシップが必要です。
経営トップの積極的なコミットメントに加えて、組織が「スピード経営」「デジタルシフト」に適応して機能しているかをかじ取りする事業推進プロデューサーも必要です。セクショナリズムな組織に横串を刺し横断的にプロジェクトが前に進められるように多様な知見をもったゼネラリスト型人材も必要です。
これは決して社内にこだわる必要はありません。背景の異なるプロフェッショナルを社外から起用して客観的視点を取り入れることも効果的な選択肢となります。人事評価も新たな試みによって従来基準で評価できない等の壁が出てきますが柔軟な対応ができるような組織体制に変更できるように経営陣がしっかりサポートすることも必要です。
下北沢にあるスタートアップ企業「yutori(ユトリ)」は、もともとアパレル通販を主事業としていましたが、Z世代をターゲットにしたコスメ事業を展開して話題になっています。SNSを常時チェックし、コメント欄をみてニーズをつかみます。従業員にはインフルエンサーも多数在籍しており市場ニーズの嗅覚に長けています。深く考えるにより新鮮な感覚を採用することを優先します。自社コスメ「minum(ミニュム)」を1.5か月で商品開発しました。この商品は10-20代に人気となり、量販店に販売を拡大し9月には約2300店で商品が販売される予定です。経営もスピード感があり、2018年に創業しましたが2023年に東証グロース市場に上場しました。
これまでの経営は結果に対して施策を考え行動してきました。しかし、今はリアルタイムで答えを出し続けなければ競争に生き残れない時代です。失敗を恐れず即応性をもって迅速に動くという、これまでにない経営価値観の創造をいかにもたらし、それを価値づけていけるのか。いかにそれを企業システムの全体最適に結びつけていけるのか。新興企業ほど新たな価値観とスピード感を武器にしています。
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