今、円安対策をやりすぎると円安が加速する
円安が進行している原因は日米の金利差を背景に投機筋が円キャリートレードに走るということが言われています。自民党の河野太郎氏がブルームバーグのインタビューで「円は安すぎる。価値を戻す必要がある」と語り、日銀に政策金利引き上げを要求したと報道されました。円安対策に日銀が利上げも視野に入れて検討していますが、本当に利上げすれば円安は是正されるのでしょうか。
7月の日銀政策決定会合のポイントは3つあります。第一は利上げの有無です。賃金と物価の好循環をデータで見た上で利上げを決めるのが王道ですが、円安対策に財務省と歩調を合わせて利上げを行うのかどうかに注目が集まります。個人消費が不調な状態が続く中での利上げは景気悪化につながるだけです。円安を是正するために利上げは相当なリスクを伴いますので政治家と財務省の圧力から日銀の考えはどうなるのでしょうか。
第二は展望レポートについての考察です。実質GDPの伸びが0.5%という状況で輸出企業にとって有利となる円安に歯止めを掛ければ日経平均への影響は避けられないです。ドル円が160円から150円台前半に円高となっていますが、円高により輸出企業の業績下方修正や株価の下落リスクがあります。もともと保守的見通しを立てていた日本企業の業績見通しと新NISA導入による個人投資家の証券投資動向など日本経済の展望についてどう考えるのかに注目です。
第三に国債買い入れ額の減額です。日銀の植田総裁はまず、国債の買い入れ額を減額すると発言しています。そのスケジュールについては7月の会合を経て明らかになりますが、政府の債務GDP比率は250%を超えており国債の半分は日銀が保有しています。日銀が国債の買い入れ額を減額しても減額分は市中銀行が代わりに保有することになるようです。また、国債金利が上がっても日銀や市中銀行が国債の買い入れを続けられるのかについても疑問です。現在、日銀が国債の買い入れを6兆円/月からどのように減らしていくのか。金利動向も含めて最終目標がない中で予見性のある計画提示が市場から求められています。
個人消費が停滞しているので日銀が利上げ判断まで至ることはないと思います。賃金と物価の好循環は、最低賃金がインフレ率と連動して変わるという裏付けがないので過去最大の賃金上昇は一時的かもしれません。さらに問題なのは最低賃金額が一日8時間、働いてギリギリ生活できるレベルで1500円の時給であるにも関わらず、今回の最低賃金上昇は過去最大の50円アップといっても1000円をわずかに超えただけです。最低賃金の目標が1500円というのは何とも情けないとしか言うほかなく、個人消費を回復させるに十分な最低賃金額とは言えません。欧米では最低賃金額が3000円以上になっていることを考えるとここでも政策の悪循環が続いている限り、賃金と物価の好循環は起こらないでしょう。
結論として、政府と日銀が円安対策として現状で利上げを行うと日本は景気悪化の悪循環からますます円安が加速します。低すぎる最低賃金によって個人消費が停滞の泥沼から抜け出せず、企業業績と時価総額が落ちるからです。日本経済にとって円安は仕方がないと考えるのではなく、円安によって再生するという考え方に立たない限り、無理に円安対策をすればするほど円安が加速することになります。上場企業のほとんどが上場に値しないPBR1倍割れというのは稼ぐ力がないことを意味していますので無理に生き延びるようにするよりも倒産させた方が良いです。新NISAで株式投資を薦めても米国株を個人投資家が買うのは当たり前で、この政策も円安が進んでいるのです。与党は企業の声を聴きすぎるがゆえに個人消費を改善する考えとは正反対の政策を続けてこれまでの経済政策を間違ってきたのです。