【掌編小説#11】全肯定botミステイク
「この店のランチ美味しそうね」
「うん!めっちゃ美味しそう!今度一緒に行きたいね!」
「今度の休みはどっか遠出したいな」
「いいね!ドライブしながらどこか遠くに行こうよ!」
「このコート可愛くない?」
「可愛い!きっと似合うよ!」
全肯定bot。
僕は彼女の言葉を全て肯定する。
本音はどこかに置いて来た。
もともと人に意見したり、否定したりして口論になるのが苦手でそういう衝突を避けてきた。
これまで付き合ってきた彼女とは口喧嘩したりすると何日も気分が落ち込み憂鬱な時間を過ごしていた。その度に意見をぶつけた事を後悔してきた。
最近付き合い始めた年上の彼女とは穏やかな毎日を送りたい。
喧嘩なんてしたくない。
意見の衝突、それはつまり事故だ。事故なんて起きないに越したことはないんだ。
そんな思いが僕を全肯定botに仕立て上げた。
今日も楽しくランチ。彼女が好きだというカフェで過ごしている。
彼女はアニメ好きで好きなアニメの話題がよく出る。僕も好きでよく観ている方だ。
「ねぇねぇ!『ブレイキングストーリー』観た?」
「うん!観たよ」
つい最近観たばかりのアニメだ。
「私も最近観たんだけど、どうだった?」
「………。」
『どうだった?』
これは質問だ。
いつもと違う展開。いつもは言い切りで話す事が多く、僕に質問したりする事なんて無いのに…。
今日は僕の感想を先に求められている。
後出し全肯定botの僕に。
(どっちだ?)
彼女と意見を違えたくない。その思いが頭をよぎる。
彼女は『ブレイキングストーリー』を肯定的に観たのか、否定的に観たのか。
僕の正直な感想は『星1』。原作ストーリーが良かっただけに改変されたストーリーを受け入れる事が出来なかったし、展開のテンポも悪くて、お世辞にも面白いとは言えなかった。
でも彼女はどうだろうか?
わざわざ話題に出すという事は「面白かったよね」に続くのか。
「私も最近観たんだけど、どうだった?」
「…………う、うん。お、面白かったよ」
「そっかぁ。私は星1って感じ。原作ストーリーが良かっただけに改変されたストーリーを受け入れる事が出来なかったし、展開のテンポも悪くて、お世辞にも面白いとは言えなかったなぁ。」
…僕も同じ感想だよ。今更言えないけどね。
〈完〉
【解説と言う名の言い訳】
掌編小説11作目。
一部に自身のエピソードを交えつつ、『全肯定bot』というキャッチーな単語を使いたくて書かせて頂きました。
自身の小説に対して多くを語るのは良くないという意見も見かけたのでこの程度にしておきます。
読んでくれた全ての人へ!
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ご感想などお寄せ頂ければ励みになります。
『全まではいかないまでも肯定botでミスした者』
ミノキシジルでした。
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