はじめに
先週の5月20日土曜日に、大阪弁天町で行われた「情緒不安定」という怪談イベントに行ってきた。
出演者の一人である、「怪奇少年団」の富田安洋くん(仮名)とは小中学校時代の同級生で、
(参考: #8 ゲスト: 怪談師の「富田安洋」くん - 名無しの長話 | Podcast on Spotify)
そんな彼の怪談を生で聴きに行こうと思ったのがキッカケで、僕自身は怪談のイベントに行ったのは初めて。
ここ数年、有名人も自分のYouTubeチャンネルで怪談を取り上げたり、エンタメ界でちょっとした怪談ブームが来ている事は認識している。
でも、その割にというか、リアルの自分の知り合いの中で、実際にイベントまで足を運ぶ人にはまだ出会っていない。
後で打ち合わせの席で富田くん(仮名)から言われたけど、地元の同級生で怪談イベントに顔を出しに来たのは僕が初めてらしい。
まあ、YouTubeで怪談噺の動画を聴くお手軽さと比べて、実際に会場まで足を運んで3時間のイベント内容でチケット代3000円かかるコストは確かに割高に感じるかもと思った。
浅草の寄席が、昼の部と夜の部でそれぞれ同じく3000円で、個人的にも「3000円」のチケット代は全然安くないと感じているので、この料金は割とハードルが上がる。
総括
で、肝心の怪談の印象だけど、今回出演した4名の怪談師さんが、全員話がかなり上手くて、そこにまず驚いた。下手なお笑い芸人よりも断然上手い。
でも、合計12席のうち、率直に自分が「怖い」と感じた噺は4つも無かった気がする。
もちろん感じ方に個人差はあるだろうけど、これはそもそも最近の怪談は最初から怖さを志向していない場合が多いのではと思った。(傷つけない笑い的な)
それに関して、中山市郎氏は「オカルト解体新書」という自身のYouTubeチャンネル内の動画で、「怪談ニュージェネレーション2022」の最高顧問を賜った際の感想で、
「出場者の若手怪談師の噺が怖くない」
と、苦言を呈している。
【(9) 【最高顧問の見解】怪談ニュージェネレーションを拝見して感じた事 怪談を語るうえで心得て欲しい事 怪談とプロレスの共通点!? - YouTube】
上記の動画内で、「"不思議"というテーマ内であっても怖い怪談は語れるはずだ」と中山氏は指摘しているし、個人的には分かる部分も多いけど、そもそも運営側も、演者たちの怖さを志向しないトレンドに同調する意図があるからこそ、"不思議"をテーマに据えたように思えるし、怪談師としても「ガチの怖い話をぶつけたところで、難しい割にお客さんに引かれる」という空気もあるような。
で、お客さん的にも「怖い噺をしてくれる怪談師がいない」ってニワトリタマゴの状態にある気がする。
少なくとも、今回のイベントではそんな雰囲気を(勝手に)感じた。
まあ、そういう空気を打破する人が、得てしてカリスマ扱いを受けたりするんだけど、SNSで地道に草の根運動している都合上それもリスキーだしねー。まあ信者ビジネスにならざるを得ないのは仕方ない部分も多いのかなと思う。
というか、「怪談」ってジャンル自体がそもそも伝統芸能的な要素が大きいし、伝統芸能って太客の常連からおひねり貰ったりといった信者ビジネスでずっと回っているので、あとはファンとの関係性でどういった怪談師に焼き上がるのかは、それぞれのコミュニティ次第というか。客と演者の距離が近いほど、合わせ鏡の関係になる。
客にどこまで合わせるかは演者それぞれで違うし、どんなお客さんに支持されたいかは、各々で決めることだ。
若手をチヤホヤしたい客側の需要と、お客さん達にチヤホヤされてタレント扱いを受けたい怪談師たちの利害が一致しているので、それで全く何も問題無いじゃないか!
だから、僕たちの地元の同級生とか、一見さんがイベントに来にくいのもそういった事情かなと思います笑
ジャニーズのライブ会場にはジャニヲタだらけっていう、至って当然の光景。
総括してはそんな感じ。
`
各論
前置きが長くなりましたが、ここからは具体的に一つ一つの怪談に対して、ずぶのド素人が偉そうにレビューをしていきます。
僕自身怪談イベント自体行ったのは初めてで、そもそも怪談噺を聴いてきた絶対数も圧倒的に少ないけど、まあそういう人が会場に出向く事も珍しいと思うので、そんなニワカの一意見として読んで頂けたらと思います!
5/20 情緒不安定 配信チケット - プレミア配信 (twitcasting.tv)
※6月3日まで
ウエダコウジ 「怖い、怖い、怖い…」
イベント当日の5/20の17時台は、まだまだ普通に気温が高くて、更に左右に照明も焚かれているのに、ウエダさんは革のライダースを着ていたので、まずそこがずっと気になっていた。
基本的に「夢の話」は、どのジャンルでも受け手は萎えてまともに取り扱う気が失せる人が多くて禁じ手に近いので、極力避けるべきというのは不文律としてあるはず。
で、それに加えて、怪談の中の登場人物が
「怖い、怖い、怖い…」
と言っていた描写は、恐怖を演出する方法として流石に工夫が足りなさすぎると思う。
3000円払った有料イベントで、この怪談を聴いた瞬間に、固定ファン以外の一見さんなら即帰ってもおかしくないレベルだと思うので、一発目に持ってくる噺としてはあまりに不適切では。
あと、配信アーカイブから録音した音源を、Pixelの自動文字起こしから手直ししてみたけど、あまりに手間がかかるのが分かったので、以降は誤字脱字以外はほぼ手直しせずに口語のままで行きます。
富田安洋 「病室のベッド」
またもや二連続で夢ネタ。
怪奇少年団は、土曜日に弁天町まで足を運んで3000円のチケット代を払っている観客のことを、
「よっぽど自分たちが好きな信者の集いだ」
とか考えて、あまりにもどっぷり甘え過ぎでは?
実話怪談でも、夢で見た話だったら何でもアリになるからタブーにした方が良いと思う。
というか、怪談界隈もそこそこ歴史があるっぽいのに、2023年5月現在で、まだ禁じ手になっていないのが不思議。
遊戯王のヤタガラスなんてすぐ禁止カードになっていたのに。
この時点で、
「3000円のチケット代でこれかあ…。」
とぶっちゃけ凹んでいました。知り合いが出ていなかったら帰っていたかもしれない。
ここからは、
「くだぎつねの会」
のターンです。
クダマツヒロシ 「ルービックキューブ」
文字起こしだと伝わらないけど、話のトーンもちょうど良いところに割とキーを置き続けているし(車やバイクのパワーバンドみたいなイメージ)、一定の間隔で同じ単語を繰り返し出して反復させるテクニックも上手かった。
肝心の話の内容は、霊感がまるで無い自分的には、
「まあ、そんな不思議な体験も世の中にはあるかー」
程度の受け止め方で、まったく怖いとは感じなかったけど、クダマツヒロシ氏の語り口は落ち着いていて良かった。
さすが、「怪談ニュージェネレーション2022」覇者の期待のホープ怪談師だなと思った。
突然のスピーカーからの異音というハプニングにもアドリブで臨機応変にユーモアで対応したり、機転も効くので今後もお客さんが付きそう。
八重光樹 「I駅」
状況描写の情報が細かくて多いので、聞き手は話の情景を想像しやすい。
小説の執筆だと、情景描写をいかに細かく正確に伝えられるかが、作者の文章技術の物差しになるので、その基準だと、今回出演していた4名の中で八重さんが一番テクニシャンという事になると思う。
この、「I駅」も関東に住んだことのある人ならすぐに候補が浮かぶし(おそらくJR埼京線の◯橋駅)、情報提供者の名前も「マカリヒロミ」とか仮名かもだけどフルネームで出したりと、八重さんはリアリティにこだわりがあって、怖さとは切っても切り離せないと捉えているところがあるのかも。
最初の前置きで、
「デスボイスのボイトレに通っているんですけど~」
と自己紹介をした矢先に、そのボイトレ仕込みのデスボイスを怪談噺のサビに遺憾なく盛り込んできて思わず笑いそうになってしまったけど、笑いと恐怖の感情は紙一重なとこがあるので、良い線行っているのではと思った。
"デスボイス若手怪談師"ってキャッチコピーは、普通に人気出そうだもんね。
「喜怒哀楽」(一巡目)
ここからは、「喜」「怒」「哀」「楽」のカードをランダムに引いて、それぞれのテーマに沿った怪談をその場で話すという流れ。
クダマツさんは、「怒」にちなんだ怪談が無いとずっと嘆いていたけど、それが結果的に前フリになって彼はしっかり「怒」のカードを引いていた。
(しかも二回連続であまりにもよく出来すぎた展開だったので、「ヤラセだったのでは?」と密かに疑っている)
あと、怪談内容の文字起こしも面倒なので、このブロックからは割愛します笑
ウエダコウジ 「喜」
知り合いの女性の子供の一人かくれんぼの話だったけど、冒頭のツカミで「僕はよく女性にモテるんですけど~」
の導入で、またもや人妻とその子供の話だったから、もしやウエダさんはそういう性癖の人なのか?とそっちに意識が向いてしまった。
「その子がかくれんぼをしていた相手が、先日亡くなった自分の母親で、母が孫に会いに来たけど、その時の姿は若返っていたので、子供は"お姉ちゃん"と呼んでいた。だから、霊で化けて出る時は若返るんです!朗報でしょ!」
っていう、まさかの平日お昼のワイドショーみたいな怪談だった。
怪談界のみのもんたとか宮根誠司とか、はたまた綾小路きみまろみたいな、奥様方の心を掴んで離さない独自の怪談師の道を進むのかも。
普通に需要ありそう。
クダマツヒロシ 「怒」
「"怒"にまつわる話がない」
とずっと嘆いていたけど、結局
「30年ほど前のバブル期の広告代理店という超絶ブラックな職場で、深夜に残業していた時にトイレで見た軍隊の霊の話」
をしていた。
クダマツさんの頭の中で、怒り=軍隊という連想がとっさに浮かんで、この話をチョイスしたのかも。
最後は、同僚の先輩の河合さんも、そのトイレの軍隊の霊に引っ張られて向こうに行ってしまったのでは…といった匂わせるようなオチだったけど、僕自身は霊感が全くないので、この手の霊的な話は一切信じておらず、よって特に響かなかった。
バブル期の広告代理店勤めの会社員とか、キツすぎて失踪した人なんて別にいくらでもいたでしょと思う。
八重光樹 「哀」
八重さんは、第一部のフリーテーマの怪談では東京のI駅(おそらくJR埼京線の◯橋駅)の話だったけど、今回は仕事で大阪に出張に行った時に、
「小鳥屋なのに、なぜか鳥を飼っていない」
という、まさかのモグリっぽい同業者と知り合った話。
やはり八重さんの怪談は、情景描写の情報量が他の人達よりも断然多くて解像度が高い。
こういう語り口はプロ受けしそうだけど、一般ウケするのかは不明。
(※ちなみに、お笑い界だと情報量が多くて解像度の高い話をする芸人よりも、クロちゃんとかの方が売れやすい。以下の動画では、永野がその現象についてクロちゃん本人を目の前にして嘆いている。
(9) 【放送事故】テレビ業界への不満を聞くつもりが大喧嘩に - YouTube)
富田安洋 「楽」
「怪談は怖い話だけじゃない」
というツカミで始まったけど、それはまずめちゃくちゃ怖い怪談を放り込んでからじゃないとツカミとして機能しないやろと思った。
また夢っぽい話か、とは思ったけど今回のカマキリの話は許容範囲だったかな。
ちなみに、余談だけど、さっき「カマキリ 人」でGoogle検索で調べてみたら、「韓国官能秘話 かまきり3」というポルノ映画が出てきたので、「カマキリは人」って、韓国ではよく言われていることなのかもしれないと思った。
「喜怒哀楽」(二巡目)
いよいよ、イベント二部の最後。
今のところ、「怪奇少年団」の二人は変化球の怪談ばかりで、
「あんまり真っ向勝負はしてこない怪談師なのかな?」
という疑念が自分の中に湧いていたので、二巡目でそれを払拭してくれることを期待していた。
平場でのフリートークは普通にこなれていて上手いけど、一応"怪談師"であってタレントさんでは無い訳であって、やっぱり怪談の出来有りきだと思います。
それでは、一つずつ見ていきましょう。
富田安洋 「喜」
二回連続の富田くん。
「プロ金縛リスト」と、「店の高級シャンパンを勝手に質屋に入れた錬金術師」の青山さんの話。
はい、昔から知っている同級生だからハッキリ言うけど、完全にふざけています。
彼の今回話した3席の怪談は、全て「夢」が絡んだネタしか演らなくて、これは到底一般ウケはしないと思った。
別に固定ファンに甘えたその姿勢を否定する気は毛頭ないけど、一見さんの僕は
「知り合いだからといってそんな身内びいきで評価が惑わされたりしないよ」
という気分になった。
夢って何でもありで、富田くんに怪談噺を提供する人は、せん妄とか統合失調症とかヤク中みたいな、認知の歪みが凄まじい人しかいないのかもと少し心配になった。
富田くん自身が、違法薬物に手を染めないようにファンの皆さんは監視し続けてあげて下さい。
八重光樹 「怒」
「スクール水着を着た写真をFacebookに投稿したり、ホームレスになったり、留置所に入れられたりしている変人のおっさんの勾留中の話」
で、その話を直接対面で聴いた人は、死神に取り憑かれた人の頭上に浮遊している黒い玉が見えるようになる…。
だから、八重さんから直接聴いた我々観客にもその能力が伝播して、これから黒い玉が見えるようになるかもってオチ。
なるほど笑
このおっさんも完全にアタオカっぽいから、そんな変な話もいくつか持っていそうですよね。
ここまで聴き直してふと思ったけど、やっぱ又聞きの時点で怪談って怖さが7割くらい大幅減になると思う。
この話も、本人から聴くと臨場感がまるで違うはず。
で、「怪談師」という立場なら、そんな本場の体験談を直で直接聴ける機会に恵まれるから、怪談師活動を続けているってのは動機として大きそう。
基本的に悪趣味な人じゃないと怪談師なんて務まらないんだろうな。
クダマツヒロシ 「哀」
詐欺男に引っ掛かりそうになった話とか、ブラック企業勤めの話(二回連続)
後半の、
「ブラック企業勤めで自殺しかけたけど、今は東北の方で自殺防止の支援団体を立ち上げて活動している。」
って話は、昨今の都内でのWBPC問題の騒動があるので、世間的にNPO団体=公金タカリ集団というイメージがついている人も多いと思うので、前半の
「詐欺男から、死んだおばあちゃんが私を守ってくれた」
みたいな良い話を聴いたあとで、その感動が目減りしてしまった。
僕の中でも、NPOとか一般社団法人という存在はまったく信用していない。
でも、最後にこういう話を前後半分けて語ってきたのは上手いなと思った。
ウエダコウジ 「楽」
ラストはウエダコウジさん。
1話につき10分前後ある怪談噺を12席すべてレビューするって、思いつきで始めてみたけどけっこうキツかった。もう二度としない。
最後の最後で、かつ「楽」というテーマなのに、よりによって今回一番ヘビーな噺を持ってきやがった。
しかも、ついさっきクダマツさんが自殺防止にまつわる噺を披露した直後に、電車の車掌が飛び降り自殺者を轢き殺しまくった話とか、こいつ頭おかしいんか。
今回トップバッターもウエダさんで、第一部はフリーテーマだったから、それこそ一発目にこれを持ってきたらツカミとして最適で良かったのに、もう無茶苦茶。自由すぎる。
ウエダさんの支離滅裂な怪談チョイスも含めて、諸々今回の「情緒不安定」のイベントの中で一番面白かったです。