1.プロローグ
物心がついた頃には、母の髪の毛は薄くなっていた。
父の度重なる暴力の中で
母は髪の毛をつかまれ、頭を大きく振られ
暴力が止むと部屋中に髪の毛が散乱していた。
朝目覚めると、母の片目瞼は紫色に腫れあがっていた。
時には眼球が赤く染まっていたこともあった。
我が家は母の我慢の中でかろうじて成り立っていたが
家庭崩壊までの時間稼ぎに過ぎなかったと、今は痛感している。
父は、祖父が作った小さい会社の跡を継ぎ
若いうちに「社長」と呼ばれる地位に就いた。
社長といっても、財産はなく借金ばかりで
会社といっても、従業員はオーバーステイ等の不法入国者を集め
朝昼晩働かせるようないわゆる3K(汚い・危険・キツい)の工場だった。
母は、その土地でも裕福な人しか住めないような場所で生まれ育った。
「親の決めたところに嫁ぐ」
小さい頃からそれが当然のこととして教えられていた。
父と母は、全く違う家庭環境で育ち
全く異なる価値観を持っていたにもかかわらず
親同士が決めた縁談で結婚した。
この時から、母の長きにわたる地獄が始まった。
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