行動分析から建築を設計する
僕たちMACAPでは住宅や商業施設などの建築設計と並行して
「人々の行動行為の収集・分析(行動分析)」
・・・という活動をしています。
※通常の設計業務などのお仕事依頼は下記リンクをご参照ください。
調査対象地、建築物、空間においてユーザーがどのように行動し、自由にふるまえているか・・・を評価する手法として行なっています。
つまりは「場所や空間の使われた方調査」のようなものです。
(以下、関連記事)
すでに完成した建築物の使われ方を調査するという活動自体も
建築業界ではまあまあレアではあるのですが、
最近、既存の分析評価だけでなく、新しくデザインをするために行動分析を行なうようにもなったため、
本記事では「行動分析からデザインすること」について書いてみたいと思います。
01. 建築物の使われ方を分析する、ということ
社会は人の行動によって維持され、世界と自然は人を含めたモノ・ゴト・動物・植物などのふるまいによってつくられています。
建築物も、日々の行動やふるまいの反復によって使用され、維持されていますし、
逆に建築物は特定の行動やふるまいを作り出したり、増幅させたり、
時には制限したりもします。
つまり、建築物にとって行動やふるまいは切っても切り離せないものなのですが、
完成した後の建築物がどのように使われているか、
その実態調査や分析は、
泥臭くて野暮ったい、もしくはダサいというイメージがあるからなのか、
特に建築設計者はあまりやりたがらなかったりします。
でも、完成当時キラキラ輝いていた建築物が、その後ちゃんとキラキラしつづけているのは気になりますし、
もしかしたら予想外の使われ方をしているかもしれません。
「建築物がユーザーによって自由に使われているか?」
「その自由さはどのような特色を持っているか?」
「もしかしたら逆に、ユーザーの自由を奪っているのではないか?」
・・・このような「ユーザーの自由さ」を
建築物の公共性(オルタナティブ・パブリックネス)と、僕は呼んでいますが、
(以下、別記事参照)
その実態は、実際に分析・調査してみないといつまでも想像の域を出ないです。
「ユーザー」
つまり建築物を使い関わる主体についてですが、
これは人間に限る必要はないのかなと考えていますが、
ただ「脱人間中心主義」の話が絡むと話が逸れてしまうので、
一旦「ユーザー」とだけ表現しておきます。
・・・とりあえず、このようなことを考え
これまで以下のような「建築物や場所の使われ方を調査し分析する」という活動を
設計の仕事と並行してやってきました。
02. 行動分析からデザインをスタートさせる
このように、行動分析はもともと場所や建築物の「評価手法」でしたが、
最近は「デザインの一環」として行動分析を行なうようにもなりました。
商業施設やショールームなど、様々なユーザーになるべくきてもらいたいという建築物や空間には相性がいい手法なのかな、と思っていますが、
今回はそのうちの1つ、
現在実施中のプロジェクト「KAITEKI Project」について紹介してみたいと思います。
「KAITEKI Project」は横浜青葉台にある株式会社三菱ケミカルさんのショールーム「KAITEKI Palette」の改修のプロジェクトです。
正確には改修だけでなく、
ショールームのブランディングやオペレーションを総合的にデザインするプロジェクトなのですが、
僕たちMACAPはそのうちの3次元的な、空間デザインを担当させてもらっています。
元々はシンプルに内装や什器のデザイン案を提示していましたが、
三菱ケミカルの皆さんと色々議論するうちに
「いきなりデザインを実現するのではなく、改修前のショールーム空間をベースに行動分析を数回実施し、その結果をベースにデザインをするのがいいのではないか?」
という話になりました。
具体的には、
・・・という流れを繰り返し、行動分析をデザインに繋げていきます。
ここでいう「仮説」とは、
「展示台の位置関係や他ユーザーの位置など、ユーザーの行動行為が発生する理由」
のことであり、
これを「仮説」と呼んでいるのは、次以降の実証実験で試してみないと本当にそれが行動行為の理由か、
説を立証してみないと、実際のところは分からないからです。
三菱ケミカルの皆さんの多大なご協力もあり、今のところかなり楽しく実験と分析をやらせていただいていますが、
このように行動分析をしていると、
ユーザーの行動行為が、デザイン側の都合で切り取られ、制限されているように感じるようになりました。
以下では行動分析で得た気づきについて考えてみたいと思います。
03.行動行為には、いわゆるスケールが存在しない
建築における行動行為というと、
(イスに)座る、(テーブルに)物を置く、(窓から)風景を見る、(廊下を)歩く、
・・・などがパッと思いつくかと思います。
それらの多くは、「アフォーダンス」と呼ばれる、特定の行動を促進するような設えによって「建築における行動」としてフレーミングされたものになります。
しかし仮に、この「建築における」という限定を外して、実地で実際に行動行為全体を観察してみると、
当たり前ですがそのフレームには収まらない、膨大かつ大小長短様々なユーザーの行動行為を発見することができます。
「KAITEKI Project」を例にすると
ショールームを見学するの中に、足をグネグネさせながら見学をする人がいました。
この行動の理由を考えてみると、
①ショールームにイスが少なく、展示台に寄りかかることもできないため、足が疲れるため。
②歩く時間より立ち止まっていなくてはいけない時間が長いため、足が疲れるため。
③平日の仕事の後にショールームに来ているため、すでに疲れた状態で来場している。
・・・などが考えられるかと思います。
「足をグネグネさせる」
これ自体は末端部位の小さな行動に見えますが、
上記①、②を考慮すると建築的な大きさの行動にも見えますし、
③を考慮すると、非常に長い行動や体験のほんの一部が「足をグネグネさせる」として表出している
と仮説を立てることもできます。
他にも逆に、一見すると建築的な大きさやアフォーダンスで括るには大きすぎる行動に見えて、
実は小さな話が絡んでいることもあったりもします。
つまり、「建築のデザイン」という前提でユーザーを見ていると、
省かれてしまう、しかし実際は建築物や場所の設えと大きく影響し合っている行動行為がいっぱいあることになります。
アフォーダンスや寸法体系は建築物/プロダクト/ランドスケープデザインと、ユーザーとの間に、安定した視点を与えてくれますが、
カタログから商品を選ぶようにそれらを設計に当てはめていると、ユーザーの行動行為が建築(もしくはプロダクト、ランドスケープ)に親和性のあるスケール感でフレーミングできるものと錯覚することがあります。
しかし、実際にユーザーの行動行為に実地で触れ、事細かに観察し、分析をすると、
行動行為には建築のような特定のスケール感は存在せず、伸びたり縮んだりする「ヒモ」のようなものとして捉えることができ、
(下記リンク内の「バリュージャーニー」などが参考になるかも)
フレーミングによって、行動行為がもつ質や実態の大部分を失ったり、勘違いして捉えているようにも思えてきます。
デザイン対象物(建築、プロダクト、ランドスケープなど)から行動行為を捉えるのではなく、行動行為から建築を解釈することで、
MACAPらしいデザインができるのかなと、考えています。
04. なぜ建築家は行動行為を追いたがらないのか?
このあとは、なぜ建築設計者は行動行為を調査したり分析したりしたがらないのかについて、
少し考察してみたいと思います。
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