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AI採用の限界~組織の”曖昧さ”~

ロイター記事によると、アマゾンがAI採用を打ち切った、との記事が出ています。

現段階でのAIの限界が露呈しましたね。
AI採用は、既存(過去)の優秀な社員のプロファイルを学習する(ディープラーニング)というプロセスなので、現段階(もしくは過去)のケースを前提としたアウトプットはできるけれど、もし、そのケースそのものが間違っていたり、ノイズがあった場合、寧ろそれが顕在化する結果になってしまう。つまり「過去の成功事例に基づく採用」となり、「本来正しいもの」を導き出してくれる技術は(現段階では)ないのです。

AIは、ロジックを定義して精緻化することができるため、採用における人間の目のノイズ(評価の揺れなど)は排除できるけれど、正しいものを導き出すものではない。

今回のアマゾンの事例は、「人事の領域でこれまで人が曖昧にしてきたもの」を顕在化してしまった結果です。過去が正しくなければ正しく機能しない。

人事の領域は、理論だけでなく、「人という不確定なもの」の要素が入り、かつそれが「集団としての組織」になった時に、もっと複雑化します。

しかも、組織における決断は、時として「正しくないこと」を選択したり、「曖昧なまま置いておく」こともよくあります。

これまで人事という立場から、多数の組織を見てきましたが、この組織の”曖昧さ”に基づく決断を山ほどしてきたように思います。

よくある話が、経営者が「自社の組織を健全化したい」というニーズから、「人事制度を正しく修正しよう」とか、「ルールを作って正しく運用しよう」という発想になり、まずルールから変えてしまうケース。

経営者は、組織を綺麗にしたがるんですね(笑)
しかも、これを一気にやろうとする。

そして、破綻する(笑)

組織には一定の「曖昧さ」があり、制度やルールは、その「曖昧さ」を反映しつつ、統一化できる「最大公約数」で作っているケースが大半です。だから、その組織においては「正しい」ことが、世の中的に「正しくないこと」になってしまうケースはよくある。

一般論で「正しい」ことは、全ての組織に当てはまるわけではない。人事という立場は「その組織において施策を”最適化”し、事業側で結果を出すもの」。企業が永続的に継続し、事業に資するものでなければ、組織としてのルールを入れても意味がない。

性善説に則って組織を変えていくやり方ももちろんあります。
でも、それは経営者の極めて強いコミットメント(導入途中に一時期歪んだとしても継続する強いマインド)がないと、厳しい。

なので、人事パーソンの立場で組織を変えていくためには、まずは組織の「状態」を正しく把握し、ずれを細かく変えていく作業のほうを優先するべきなのです。経営者が「制度を作りたい(変えたい)」というから、人事パーソンもそれを受けて拙速に制度やルールを「一般論として正しく」作り直すと、多くの場合失敗する。このアマゾンのAI採用の件も、それと同じような話だと思っています。

誤解を恐れず言えば、今のアマゾンでは「男女格差」が存在し、「今はそれで(概ね)うまく回っている」ということだと思います。でも、多くの組織でそのようなずれや矛盾は存在し、建前だけでは片づけられないくらいその組織に根深く残っていることが多いのです。

<組織改革の失敗パターン>
①現状の組織の状態を知る
②「曖昧さ」が気持ち悪くなる
③「曖昧さ」を是正しようと、制度やルールを作る
④「曖昧さ」を抱えたままの現場が、制度やルールとのギャップで苦しむ
⑤社員が疲弊し、(よかれと思って買えたのに)組織状態が悪くなる

あるあるですよね(笑)

では、どういう形で進めたらいいのでしょうか?

<組織改革のあるべきパターン>
①現状の組織の状態を知る
②「曖昧さ」を抽出する(組織課題を抽出する)
③「あるべき姿」を議論する
④経営方針(「あるべき姿」)を決める
⑤現状と「あるべき姿」のギャップを正しく認識する
⑥ギャップ解決の打ち手を決める(制度やルールでなく「定着させるための打ち手」)
⑦経営からの「ブレない強いメッセージ」を出す
⑧現場と対話し、「あるべき姿」のイメージを共有し、ズレを修正する
⑨社内インフルエンサー(味方)を増やす
⑩(最後に)制度やルールを作る

この「順序を間違えない」ことが大事なのです。

いくつかポイントがあります。

まず、④のギャップ認識の時、そのギャップを「事業戦略に対して正しいか」という視点でみることです。「正しい」あるべき姿が、誰に対して正しいのか。あくまで「事業戦略上必要となる」という点にフォーカスしないと、一般論で議論してしまうと寧ろ足を引っ張るあるべき姿が出てきて、本末転倒になってしまいます。

⑥もポイントで、ここで「建前論」で議論してしまうと、現場との乖離が激しすぎて整理できなくなります。「今の現場の状況を正しく認識した上で」実行可能な「あるべき姿」を作る必要があります。

そして、重要なものが⑦。折角考えても、組織を大きく変える時には「揺るぎないトップメッセージ」を「継続していくこと」が必要です。徹底的にトップが日和らないこと。これがないと、変えられるべきものが変えられなくなります。

制度やルールは、ある程度下地が浸透してから最後に出すのがいい。そうすればルールを作っても「そりゃそうだよな」になる。

もともとアマゾンのAIの話でしたが、今回僕は「組織において正しいことは何か」「正しさの浸透方法」に視点を置いてみました。

皆さんはどうお感じになりますか?

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髙橋実@マイクロ人事部長
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