オンライン授業をやった非常勤講師が思うこと
コロナ禍の中で、上期(春学期)兼任講師として大学1年生に授業を全てオンラインで行いました。
コロナ禍で急遽オンライン化が決定したこともあり、準備も本当に大変だったのですが、何とか終えることができ、ほっとしています。実際にやってみて「オンライン授業の可能性」を強く感じました。下期以降もオンラインが続いていくと思うので、振り返りを書き留めておこうと思います。
(オンライン授業の機材準備と試行錯誤は、このnoteをご覧ください)
どんな授業をやったのか
僕が講師をしたのは「キャリアデザイン入門」という授業です。
大学1年生の選択科目です。
授業開始時期は4/7から4/21開始へ変更され、大学への立ち入り、対面授業が禁止。想定していないコロナ禍で、大学システムの拡充が必要になり、学生もオンラインの準備が整っていない。様々な混乱があり、オンライン授業が実質的に開始されたのはGW明けでした。
当初のシラバス上では全14回の授業でしたが、変更が認められました。
授業形態は講師にほぼ丸投げ(笑)。どう進めようか悩みましたが、教室での授業に近づけるために、授業予定時間の月曜日の2限にZoomでのリアルタイムオンライン授業を実施しました。
しかし、大学側から「学生が通信環境が整わないので、リアルタイムオンライン授業開始はGW明けでないと認めない」という通達があり、4月中は3本のパワポ動画を撮り、Youtubeを使った学生への配信をしました。
5月以降は、1回を除き全てリアルタイムオンライン授業としました。
出席状況について
履修者数は140名。出席率は98%と、リアル教室の昨年は88%だったのですが10ポイント上がりました。
出席はZoomのレポート機能を使いました。これ、便利でした。ログイン時間も分かるので、ズルができない(笑)。他の先生にお伺いしても総じて出席率は高かったようです。
学生との連絡方法
まだ大学入りたての一年生が対象で、大学にも行けていない中でのやりとりだったので不安ばかり。
学生との連絡は、全員への連絡は大学の学内システム、個別にはメールを使いました。初めは、学内システムもメールも閲覧度が低く、反応も乏しい(見ていない)ので、やりとりはかなり苦戦しました。
効果があったのは、学内システム掲示板を使った「自己紹介」です。まずは僕の自己紹介を掲示板でしてみんなに自己紹介を募ったところ、90名ほどが自己紹介をしてくれました。まじめな話題でなく「趣味」とか「あだ名」とか、プライベートのやり取りができました。でも、面白いですね。僕が「好きな食べ物」を書くと、書いてくるのはみんな「好きな食べ物」ばかり(笑)。でも、「これは書いていいよ」と自ら示してあげると、反応が良くなります。
連絡が取れるようになったもう一つのポイントは、僕がすべての学生コメントにRESしたこと。学生もコミュニケーションに飢えていたのか、学生との距離がぐっと縮むのを感じました。
ちなみに、Zoom授業の不具合の非常手段として、大学からGoogle Classroomの利用を指示されましたが、結果全く使いませんでした。
大学システムと連動していないので使いにくいんですね。様々なシステムを学生に強いるのはかなりハードルが高いと感じました。
非常事態だったので仕方ないとは思いつつ、講師が授業内で学生にシステムの利用方法を教えなければならないのは非常に苦痛でした。授業の時間の最大20分ほど割かれてしまう。これにより、本来学生への授業の時間が奪われてしまうのは本当に勿体ないと思います。
やはり、インフラ面は大学がしっかり学生に伝えることが必要かと。
学生との「個別連絡」は理解度を深められた
効果が高かったのは、「学生との個別メール」です。昨年のリアル授業では個々の学生とのやりとりはほぼ皆無でした。
リアルタイムオンライン授業では、どうしてもインプット型になりがちで、学生の反応も見えない。大学側がプライバシーに配慮して(そこまで配慮すべきかは議論が必要だと思います)カメラオフを認めたことで、学生の顔が見えない授業は、はっきりいって辛かったです。
僕は、授業開始時に「こんにちはと言って手を振ろう」と、無理やりカメラオンにさせていました。
授業内では、Zoomのブレイクアウトルームを多用して、学生同士で議論させました。ただ、140名という大所帯。毎回30組近くの様子を見るのは不可能に近い。
コミュニケーションが取れずにお通夜になっているルームもありましたが、ここに講師が介入するようなことはほぼ不可能です。ルームに講師が入ると、学生が緊張してコミュニケーションが遮断されてしまうこともありました。
結果的に、一番学生の反応が見えたのは個別メールで、提出物の精度が落ちていたらメールで指導したり、講師側から積極的な投げかけをするメールを多く活用しました。
意識したのは、事務的にならないようにすること。事務的なメールには事務的な内容しか返ってこない。「どうした?」とか「どう思う?」など、学生が返信をしなければならないような書き方にすることがポイントでした。
でも、はっきり言って、大変でした(笑)
メールのやりとりをした学生の数は、全体の60%になりました。授業より、こちらの方が大変だった(笑)。
しかし、これが圧倒的に学びのレベルを上げることに繋がりました。
学生の理解度が、圧倒的に上がったことを実感しました。
本来「教える」対象は「個人」ではないか
考えてみれば、当たり前のことかもしれません。
教室の授業は、企業でいえば「集合研修」みたいなもの。集合研修だけで成長はできないから、OJTをしたり、1on1をしたりする。本来の教育は「個人単位で」行うものではないかと。
当たり前ですが、それぞれ、レベル感も違えば、特性も違う。これまで自分が行っていたリアル授業は、個を見ていなかったと強く感じました。
コロナ禍で、多くの人は、これまでの授業やり方はインプット型であることを気づいてしまったのではないでしょうか。
想定していた授業コンテンツは、オンライン化になったことで、ほぼ全面的に内容を修正しました。資料を見たら伝わるレベルまで粒度を細かくしました。見直してみると、リアル教室でやっていた僕の授業の中で「雰囲気でテキトーに伝えていたこと」が多くあることに気づきました。
課題に追われる&友達ができない学生
オンライン授業になって、本当に学生が可哀そうだと思ったのは「課題に追われる学生」と「友達ができない問題」です。
①課題があまりに多く、いつも追われる学生
授業が進むにつれ、学生が他の授業での課題に追われている様子が見て取れたのです。僕の授業は「自分自身を見つめる」課題が多くあり、そのためにしっかり時間をとらなければならない。でも、課題が多くて、時間をかけられないという学生の声が多くありました。
課題提出期限を延ばしたり、精度が低い提出物には再提出するように指示したりしましたが、それが結果的に学生の負担を大きくしていたかもしれません。
講師側からは、他の授業でどのくらい課題が出ているか分からないので、負担感が分からない。学生が課題に追われる中で「これで本来の大学に戻った」と言い放つ方もいらっしゃいましたが、それは本質ではないと感じています。多忙になることより、質の高い学びをすることが重要だと思います。
②友達ができない問題
これは本当に可哀そうでした。大学一年生は大学にも行けず、友達も作ることができない。講師は、友達にはなれません。
後期もまたオンライン授業が継続されるそうです。この状況が長く続くと、大学に行った意味を感じられないと思います。メンタル面も心配です。
講師は、変わらなければならない
僕の目から見ると、講師の人たちはとても頑張っていたと感じています。Facebookで大学を超えてコミュニティでどう対応するか議論したり、平時ではなかった横のつながりで対応をしていました。
でも、これは、あくまで「オンライン授業の手法の話」。
暫定対応に対する打ち手をやっていただけです。
オンライン授業運営のためのセミナーがあり、僕も何回か参加しましたが、そもそも「Zoomってどうやるの?」と、セミナー中に質問が飛び交う。でも、Zoomの使い方なんかは山ほどネットに出ているわけで、今までのやり方から脱皮できない講師の方が多くいました。
もうお歳を召したベテラン講師の方が、テクノロジーを学ぶのは厳しいかもしれません。でも、講師も、もっと変わらなければなりません。
本当に難しいのは、「ハイブリッド授業」
コロナ禍で実施したオンライン授業は、新たな可能性をたくさん示してくれたと思います。僕は「オンラインは個に向き合うツールとして有効」だと確信ができました。リアル授業で「なかなか学生に伝えきれないな」と感じた点をカバーできる可能性を感じました。
(実際、学生の成績分布が、大きく向上しました)
後期は引き続きオンライン授業が続きますが、これから難しいのは、コロナ禍が徐々に終息し、リアル回帰が始まった時です。大学側からは「リアルとオンラインのハイブリッド実施の可能性」が示唆されていますが、じつはこれが一番難しいのでは?と思っています。
大学の教室は、完全にリアルを前提に作られており、オンラインをどう絡ませるか、僕にはまだ全くイメージが湧きません。リアル授業が開始されれば、学生が大学のシステムやメールから遠ざかることは想像できます。
今回は「完全オンライン」だから、学生も講師もそこに集中できた。「ハイブリッドがいいよね」、簡単に言われますが、このダブルスタンダードが、僕は一番難しいと思っています。
とはいえ、主役は学生。
来年の授業もまた受け持つことが決定したので、来年に向けて引き続き精進していかねばならないと思っています。
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