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コロナ禍で人事としてやるべきBCP対策

「マイクロ人事部長」として、4社の企業で「週1出勤人事責任者」に従事し、「本気の複業」を行っている株式会社モザイクワーク 取締役COOの髙橋実です。

さて、首都圏を直撃した昨日の台風は、予想を超える被害をもたらしました。
今日は、このような時に、人事(会社によっては総務)がどう動くべきなのか、という話をしたいと思います。

僕は、企業人事で10年以上働いていますが、自身のキャリアで大きな経験は「総務の仕事」も併せて担当できたことです。
2011年、東日本大震災があった時、某金融会社の東京本社で総務人事マネージャーをしていて、事務局としての対応を経験しました。被害が本当に大きく辛い出来事でしたが、この時の経験は僕のキャリアの中で本当に大きく、この経験から、BCP(Business continuity planning:事業継続計画)についてのノウハウを山ほど得ることができました。

匿名ではありますが、その時の対応を後日取材してもらいました。
この記事にある「寺岡課長」は、僕です(笑)

人事キャリアの中でも、総務(特に、人が絡む非常事態)に対応できるかどうかは、「売れる」キャリアの一つではないかと思います。
人事パーソンが担うべきは「泥をすくう仕事ができること」。人事は、言ってみれば「番頭」であり「門番」です。この「緊急時の対応」も、僕はその一つだと思っています。誰しもがやりたがらない仕事だけれど、事業においては極めて重要な仕事。これをやるのが、人事パーソンです。

企業にリスクが発生する可能性があるものからいかに逃げて(リスク予防)実際に起こってしまった場合に最小限にリスクを留めるか(リスク対処)、は、人事パーソンとして重要な必要スキルだと思います。

今回の関東直撃台風の事例をとって、どのような対処が人事として必要だったかを、振り返ってみましょう。

まず、ここ数年(特に東日本大震災以降)企業のBCP対策は大いに進んだと思います。ここ数年の気象変化もあると思いますが、明らかに進んでいる。今回は台風が朝方関東直撃だったこともあり、交通機関も含めて予想以上に混乱しましたが、これでも以前に比べると格段の進歩をしているのではないかと思います。

●(以前と比較すると)勤務自由度は圧倒的に高まった

多くの人が定時出勤を目指して出社するよう頑張ったとはいえ、僕の周囲では在宅ワークや出勤時間をずらすなどの対応が多かったように感じています。「まだまだ日本は社畜対応だ」という声もありますが、以前に比べればかなり進んでいるというのが僕の実感値です。
クラウドネットワークをはじめとした在宅ワークができる環境もかなり進んできているので、さらに環境は良くなっていくのではないかと。

しかし、一方で、、、

●まだまだ会社組織の決断が機能していない

進んでいるとはいえ、結果的に多くの人が交通機関の混乱に巻き込まれ、多くの所要時間を費やして、相当なストレスを抱えて出社した人も数多くいます。

某路線では、あまりに混乱する電車の中で排便をしてしまった人がいるとか。
これ、笑いごとではありません。そうまでして出社しなければいけないという状態は、明らかに異常です。

今回、出社時に混乱が生じ、極めてストレスのかかる出社をする人たちが出たことは「社員に対して企業側が的確な指示を出せていない」ということに尽きると思います。この状況を想定して決断するのは非常に難しいことですが、それをやらなければ、下手をすれば社員の命に関わることになるかもしれないのです。人事パーソンは、それを忘れてはいけません。

不確定要素が多い中(気象状況などは本当に難しい)決断をすることは、とても難しい。でも、そのために事前に準備し、シミュレーションをしっかりとしておくことで、できることは山ほどあります。

●働き手(社員)の、個の責任感の強さ

日本人は、本当に真面目です。僕がアジア諸国に行ったとき、時間のルーズさに辟易としたことがあります。でも、交通事情だったり、様々なことが未整備の中で無理をすることと、ストレスを抱えたり命が安全になることとどちらがいいのか、ということです。僕は、「大概の仕事は今すぐやらなければいけない仕事ではない」と考えています。こういう言い方をすると誤解を招きますが、「何かあった時に優先順位を変える」ことが日本人はとても下手だと思います。

でも、人事パーソンは、この文化的側面を肯定して「仕方がない」と割り切るのではダメだと思うんです。それを前提として、どんな打ち手があるのかを考え実行していくことが、プロフェッショナルの人事パーソンには求められます

<人事パーソンとして考えるべきポイント>

BCP発動しなければいけない時に、人事パーソンが考えるべきポイントは、以下の2つのことです。

**①社員を第一に考え、社員の身の安全を確保する

②事業継続に向けたリスクを矮小化する**

この2つのことを、

**・リスク(組織側と社員の双方の観点から)

・コスト
・事業継続**

の3つの要素で、バランスをとりつつ決断することが求められます。

でも、不確定要素が多い(近い)未来のことを決断するのは、本当に難しい。今回のケースは、どうするべきだったのでしょうか。

今回難しかった決断ポイントは、

a) 台風が月曜日の早朝だったため、事前の社内協議が土日となった
b) 想像以上に影響が大きく、交通機関等のマヒが、ここまで想定できなかった

このあたりかもしれません。

打ち手として次回以降に活かすとすると、以下のような打ち手になるでしょう。

(1) 緊急時の社内の決定プロセスを、対面でなくてもできるようにしておくこと

僕の経験で言えば、これは結構重要なことです。今回のように決断を土日にしなければならなくなると、休んでいる担当者も上位の決定プロセスにある上司も、プロセスを決めるだけでなく、その決定プロセスに「慣れる」ことが必要になるからです。

例えば「月曜日に緊急対応がある場合に備えて、台風が月曜日に来る場合は連絡を取り合いましょう」というレベルでは、全く機能しないのです。

決めなければならないのは、

・どのようなケースになった場合、緊急時の対応を行うのかガイドラインを策定する(より具体的に)
・ガイドラインに乗るか決定が難しい場合の、判断プロセスを決めておく(悩んでしまうケースの判断プロセスを決めておく)
・緊急時に行う対応方針を想定できる範囲で細かく決めておく(事業継続をしなければならない業務は何か、対応に必要な人員とその確保の方法、対応社員の出社方法、その他の社員に対する対応方法など、細かく決めることが必要です)
・対応方針決定プロセスの簡略化(権限委譲して誰で決めるかを決める。できる限り最少人数で対応方針を決定できる状態が望ましい)

特に重要なのは「決定プロセスの簡略化」だと思います。
これを複数の人数で決める状態にしておくと、烏合の衆になり、色々な意見が出て決められなかったり、お互い連絡が取れず、決定スピードが遅くなってしまうことが往々にしてあります。また、この「決定者」同士は、緊急時の連絡にスピード感をもって連絡ができることに「慣れる」ことも重要です(上司が緊急連絡に慣れておらず決定が遅れるケースはよく聞きます)。

(2) 組織は、そこで行った決断を尊重すること

緊急時の対応は、絶対に当たるとは限りません。今回のケースも、台風の進路が少しずれたり、進む速度が速くなれば(もう数時間通過が早かったら)間違いなく同じような状況にはならなかったはず。それほど、決定自体が難しいことを組織として認識するべきだと思います。

そして、当たらなかった場合も、その決定者を責めないことです。
(これにより、決定者の決断が鈍ることは、その後の決断に大きく響きます)

社長や周囲の「今回はこんな対応はいらなかったんじゃないか」とか「なんだ、今日はみんな全然出社していないじゃないか(俺は出社しているのに)」という余計な言葉は、今後の決断者の決断を鈍らせることになります。

(3) 決断プロセスの要素を「上書きする」

今回注目すべきは、交通機関の決断基準です。
恐らく、大半の人は、前日の交通機関の決断(前日20:00頃にJRや私鉄は運航休止を決め、翌日も一部運休等を決めた)は「やりすぎなのでは」と感じたこともあったはずです。

でも、冷静に考えれば、交通機関が決定をすれば、何らかの出社影響が出るわけで、「どんなケースにおいても交通機関の対応を尊重する」ことは、今後の対応に意味があると思います。

交通機関そのものも、この決断プロセスを「上書き」しています。東日本大震災以降、交通機関は徐々にしっかりとリスクを考慮した判断になっています。ただ、僕は、これが「リスクマネジメントの最前線」であると考えます。それに応じて、自社のリスクマネジメント基準も、「上書き」する必要があるのです。

「交通機関が●●という判断をしたら、●●という対応とする」くらい、分かりやすくシンプルにしておいた方がいいでしょう。

(4) 社員への連絡方法の整備と、緊急時に向けた「練習」

基本原則として、社員の緊急連絡網と連絡手段は、徹底的に整備をしておくべきです。これができていないと、一切が機能しなくなります。

連絡先を知っていても「連絡手段」も決めておくべきです。それも、複数の連絡手段を決めておくことです。そして、連絡は、会社からの通知と「本人の確認した結果を会社側に通知する(会社が確認したことを確認できる)」状態まで精度を上げておくことです。

メールでの通知では、会社は、見たか見ないか確認ができません(個人的には、あまりお勧めしません。「既読が確認できる」状態までもっていかなければいけないため、やるのであれば、「メール返信を義務付ける」ことが重要です)。できれば、SNSや緊急連絡システム等を活用して、「できる限り社員が簡単に、負荷をかけることなく」対応できる仕組みを準備する必要があるでしょう。会社によっては、「携帯電話をかけまくる」ことが、一番連絡網として機能する場合もあります。ツールに頼らず、自社に最適な形をとる。この最適解を選ぶのも、人事パーソンとして重要な役割です。

(5) 事業継続のための事前準備をしておく

これは、もしかしたら一般的な人事パーソンが一番苦手なことかもしれません。なぜなら「事業を理解していない人事パーソンは、意外に多い」からです。

BCPにおいては、人と組織のことだけでなく、事業のリスクに直結するのです。従って、対応する人事パーソンは、しっかりと事業を理解し、状況を見定めて整理をしておかねばなりません。

事前にやるべきは、「事業を最低限継続させるために必要なもの(ヒトモノカネ)を社内で方針共有しておく」ことです。

①事業継続のために、絶対に回さなければならない業務は何か?
②そのために、必要な人員はどんなメンバーが何人必要か?
③そのメンバーは、どこに住んでいて、交通機関に影響が出た場合、出社できるか(もしくは在宅ワーク等で対応できるか)?
④業務が困難な場合、困難にならない方法を事前に手配しておく(重要な社員に宿泊を依頼し、そのための手当等を整備するなど)

これを現場任せにせず、「人事パーソン自らも理解し、一緒に作る(自身も事業リスクをしっかりと理解しておく)」ことが、極めて重要になります。

さて、いかがでしたでしょうか?
もちろんBCP策定、運用は、とても奥が深く、色々なケースがあると思います。会社によっても方針ややり方が異なるでしょう。でも、昨日のような緊急時に、そしてまた東日本大震災のような大規模災害の時に困らないように、今から様々な打ち手を社内検討し、そしてそのリードを人事パーソン自らでできるようにしてみてはいかがでしょうか?

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髙橋実@マイクロ人事部長
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