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組織イノベーションと「イノベーター理論」

マイクロ人事部長の髙橋実です。
(Noteの初投稿の記事を、2020年4月に改変してみました)

みずほらしくない人に会いたい

2019年採用から、みずほ銀行がこんな採用をやり始めました。

2019年のみずほFGの新卒採用人数は700名。
現在のみずほFGの社員数は約60,000名。
(現在は、人員削減策も打ち出していますので、当時と少し変化しています)

じつは、700名の新卒採用人数は、とても多いように思いますが、全体の比率とすればたった1%ちょっとのマイノリティーに過ぎないのです

果たして、仮に「みずほらしくない人(イノベーター)」が、入社してきたら、どうなるのでしょうか?

組織というものは、一人のイノベーションでは変わりません。
大手企業などの巨大組織になれば、なおさらです。

数字のマジックですね(笑)
テレビドラマでも大人気を博したこの二つ。古くは「白い巨塔」。金融機関を描いたのは「半沢直樹」。みんなイライラしたと思いますが(笑)、それは、まさしく大きな企業にイノベーションを起こすのは、とても難しいのです。

イノベーター理論と組織イノベーション

新しい発想や、新商品が市場に普及していく理論で、米国のエベレット・M・ロジャーズ教授が提唱した「イノベーター理論」というものがあります。1962年に提唱された古い理論なのですが、僕はこの理論は、組織イノベーションを起こす時にとても似ていると思っています。

このイノベーター理論によれば、

■イノベーター理論による消費者の分類
①イノベーター(全体の2.5%)

革新的な新商品を、いち早く購入する層。
②アーリーアダプター(全体の13.5%)
流行に敏感で、自ら進んで情報を集め、良いと判断した商品を購入する層。
③アーリーマジョリティ(全体の34%)
すでに話題になっているものを購入する層。
④レイトマジョリティ(全体の34%)
革新的な商品や新技術に懐疑的な層。
⑤ラガード(全体の16%)
最も保守的な層。

という分類がされます。

僕は、人事として組織改革を仕掛ける、言ってみればイノベーターなわけですが、組織イノベーションを起こすには、このイノベーター理論がほぼ当てはまるのです。

■組織イノベーションにおける社員タイプの分類
①イノベーター(全体の2.5%)

組織改革を仕掛ける人。周囲からは「この人、なにやってるの」と見られる。組織全体からの風当たりは強い
②アーリーアダプター(全体の13.5%)
本当は組織変革の必要性を感じているが、組織のしがらみが理由で動けない人。強力なイノベーターが出てくると、動き始める層。
③マジョリティ(全体の34%)
組織に不満は持っているものの、自分から動くことはしない。組織の大きな流れに身を任せる層。
④ノンチェンジ層(全体の34%)
今の状態を変えたくない。変わることは自分のリスクと思っている層
⑤レガシー層(全体の16%)
合言葉は「今まではこうだった」と、過去の成功体験をずっと引きずり、それが正しいと思考停止している層。

僕は、組織改革を進めて、「組織が変化が出てくるには、全体の40%が改革に向けて動く」ことを目標にして、動いています。
この「社員タイプ」の「アーリーアダプター」を動かすのでは足りなくて、「マジョリティ層の半数を動かす」のを、一つのベンチマークにしています。(おおよそ30%が動き始めると、マジョリティ層までのこちら側のメンバーが動き始める)。

そうすると、イノベーターとしての仕事は減り、社員の中でインフルエンサーが出てきて、社員を動かし始めるのです。

新入社員が組織イノベーターになるのは、遠い

前述のみずほ銀行の新入社員「みずほらしくない人」。彼らはイノベーターになれるのでしょうか?答えは、Noです。

たかだか1%の新入社員が全員イノベーター候補になったとしても、恐らく組織の現段階でのマジョリティに潰される。組織のヒエラルキーの最下層に位置する新入社員が組織改革のイノベーターになるのは、不可能に近い。

でも、この話、本当によく経営者の人は、口にします。
「今のうちの社員は、ぬるま湯に漬かっている。これからの組織の変革をしたいので、新入社員の採用を変えたい」と。

幻想は止めましょう。無理です。

長年かかっても変えられない組織を、ぽっと出の新入社員が、本気で変えられると思いますか?それを本当に思っている経営者の方のその発言は、残念としかいいようがありません。

仮にとても優秀なイノベーター候補の新入社員を採用できたとしても、組織のヒエラルキーの中で牙を抜かれて、いつの間にかマジョリティ層に落ちる。いや、人によっては諦めてしまい「ノンチェンジ層」に落ちてしまう。
折角の優秀な人材を潰してしまう組織の罪は、本当に重い。

そして、これは新卒採用だけでなく、中途採用にも当てはまる。
「中途人材のプロフェッショナルを採用すれば、組織は変わる」。
同じことを言われるわけです。とても優秀な中途入社の実績がある人が、うまくいかず潰される理由は、こうして起こります。そんな幻想に付き合わされて、折角の実力を持った人が潰されていくのを、僕は山ほど見ています。

組織は入口からではなく、中から変えろ

まあ「入口(採用)を変える」ほうが、楽だからなんですが、でも、本当に組織を変えたいのなら「今いる既存社員(中から)変えなければならない」。僕が、採用だけでなく、企業の中に入って一緒に組織改革を進めるのは、「中の人」として「組織の中から変える」ところに軸足を置いているからです。

組織改革には、経営者の本気の覚悟が必要。

僕はいつもご相談をいただく時には、「本丸は今いる既存社員の意識・行動改革。これは本当に難しい。そこに本気になれるのか。」とお話しして、本気度を問うています。経営者や、中にいた人にとってはとても耳が痛いことだと思います。過去を否定されているように聞こえてしまうかもしれません。でも、組織改革は「ゼロベースにして本質を考え直し、行動する」ことだからなんです。

銀行の組織改革のもう一つの視点

じうは、メガバンクがこうした採用の入り口を変えているのには、理由があります。みずほ銀行の人員削減について、データから読み解いた記事があります。

この記事では、人員数、人件費、人件費と物件費を経年で比較し、その中から今後の人員削減についての分析をしています。

みずほグループは、長年合併に伴うシステム統合がうまくいかず、組織統合の核ともいえるシステムに長年悩まされてきました。でも、ようやくそのシステム統合にもメドがついて、組織としての業務整理に着手できるタイミングになったということです。

銀行のリストラの大きな核は「業務整理」であって、オペレーショナル人材の統廃合が軸になっています。

冒頭の「みずほらしくない人に会いたい」は、これからの銀行として「手堅い企業イメージをもって、安定志向で淡々とルーティンワークをする人材はもういらない。これからは、イノベーション人材(優秀層)を集めていくよ」というメッセージだとも考えられます。

一つのメガバンクの人員削減という視点でこのような記事ですが、これは、今後の労働人口減少の中で大手企業が生き残っていく一つの打ち手になっていくと思います。ましてや、このコロナショックを受けて、afterコロナに生き残った企業は、ますます組織改革に舵を切ることになると思います。

組織改革は、オセロゲーム

僕が経営者の方と組織改革についてどう進めるかのお話をする時に「組織改革はオセロゲームをやるように進める」と伝えています。

組織改革で一番してはいけないのは「組織全部を変えることを目標にすること」なんです。どうしても一気に変えたくなる。だから「統一ルール」を作ったり「人事制度を改定する」となる。でも、それでは大概失敗します。目標が「ルールを作ること」「人事制度を作ること」になりがちだからです。

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オセロゲームの進め方は、どういうものでしょうか?

一番初めの打ち手は、必ず1枚。
そして、相手(黒)を白に変えられるのも、1枚。

まず大事なのは、はじめの一歩なんです。

そして、陣地をとっていくと、一気に変えられる(これが、組織のインフルエンサーが出てくる、ということ)。勝負がつくのは、おおよそ40%を確保してくるくらいで、「角(ここがレガシー層)」をとれば、勝つ確率が格段に上がる。

この「オセロゲーム」のイメージをしつつ、組織改革戦略を立てていく、そのために「既存の従業員がどの層にいるのか」を洗い出すことは、とても重要なことなんです。

コロナショックは、これまでの事業の前提を覆してしまう出来事でした(いや、まだ進行形ですね)。afterコロナになったら、確実に「組織を変えなければいけない」ニーズ、いや、must要件になると思います。

僕はこれからも、本気で組織を変えたい企業のイノベーターとしてやっていくつもりです。「うちは本気だけれど人事責任者がいない」。そんな経営者の方は、是非相談してもらえればと思います。このコロナショックの影響が大きいからこそ、やっていきたいと思っています。

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髙橋実@マイクロ人事部長
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