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【本の紹介】高橋一清『芥川賞・直木賞をとる! あなたも作家になれる』(NDC901.307)
『あなたも作家になれる』(KKベストセラーズ、2008年)を改題・改稿し、2015年に文庫化。
わずか203ページの文庫に作家の心得が凝縮され、小説家専用の方位磁石を手に入れた気になる。
それもそのはず。
高橋一清氏は文藝春秋の「文學界」「文藝春秋」などの編集部に所属していた。日本文学振興会主催の「芥川龍之介賞」「直木三十五賞」「大宅壮一ノンフィクション賞」などの社内選考委員を務め、責任者として運営や進行もおこなったという。
小説が生まれる現場に立ち会い、それが文学賞の選考対象になるまで関わった編集者の言葉に、頭のなかがどんどんクリアになっていく。
作家とのやり取りや、
白熱する選考会の様子など、
臨場感たっぷりに内情を知ることができるうえ、創作アドバイスが具体的に書かれている。
目次
第一章 芥川賞と直木賞で作家デビュー
第二章 作家デビューするまで
第三章 新人賞選考の内情
第四章 新人賞通過のための条件
第五章 冒頭の十枚だけで落とされる応募原稿とは
第六章 新人賞は出発に過ぎない
第七章 プロ作家たちの現実
第八章 これからの時代、作家になるには
小説のジャンルを編集者視点で定義すると、
「エンタテインメント小説は、「私が知らないことが書いてある」と、読者を喜ばせるのが仕事」であり、
「芥川賞および純文学は、今日生きている者の愛と苦悩を書き、「まるで自分のことが書いてあるみたい」と、読者を共感させ喜ばせてほしいジャンル」である。
さらに「書きたいことはどっさりあるが差し障りがあって公表は無理という人は、時代小説を使うのもひとつ」というアドバイスもある。
第四章の「あなたの応募作が予選落ちする理由」「あなたの応募作が二次選考で落ちる理由」「あなたの作品が最終選考で落ちる理由」は、選考者目線の基準が提示されている。
たとえば、
出し惜しみしている作品は弱いであるとか、
額縁小説(現在より過去にさかのぼって始め、最後に語り始めた時間に戻ってどうしたで終わる話)は弱いので工夫が必要であるとか、
映画を参考にして伏線を入れるであるとか、
落ちる理由と改善案を例を挙げながら具体的に示してくれる。
第八章の「これからの時代、作家になるには」のなかで、高橋氏はライトノベルやケータイ小説がなぜ廃れたかを考察している。
印象的だったのは、作品の登場人物が多くなると、複雑そうに見えて複雑ではないという指摘だ。
本当の複雑とは一人の人間の中に、善も悪も、そのどちらでもない中立性も、さらにそれらのどれでもない何かが混沌としてあることだからだ。
「残る作品」には「人間」が描かれているという言葉が響いた。