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【本の紹介】柴崎友香『あらゆることは今起こる』(NDC916)

医学書院から出版されている「シリーズ  ケアをひらく」の1冊。

「科学性」「専門性」「主体性」では語りきれない地点から
ケアの世界を探るという趣旨のシリーズで、既刊は48冊。
シリーズ自体が第73回毎日出版文化賞(企画部門)を
受賞している。

柴崎友香さんは、大阪出身の作家。
本文は大阪弁で、柴崎さんの困りごとや特性が綴られていく。

ここで書くことは、私がADHDと呼ばれる脳の特性があるとの診断を通じてとらえたり考えたりした私自身の感覚だったり認識だったり今までの経験です。
発達障害やADHDと診断がついたりその要素がある人でも、特性も表れ方も、困っていることも困っていないことも、すごく多様です。

19頁「ここでちょっと一言」より


Ⅰわたしは困っている
Ⅱ他人の体はわからない
Ⅲ伝えることは難しい
Ⅳ世界は豊かで濃密だ

柴崎さんの場合、動けないADHDだという。

頭の中で、
しゃべり続け、
常にランダムに複数の考えが流れ、
外からの刺激でさらに思い浮かぶという「多動」が起きている。

脳内で多動が起きて動けなくなるせいで、
何もしていないのに疲れるし、
一日にできることがとても少ない。

この多動は、外からは分からない。
動けないことで、人からは「落ち着いている」と言われるが、
内面は大混乱で、
焦れば焦るほど間違った選択をしたり
突飛な行動や発言をしてしまうのだ。

柴崎さんは『片づけられない女たち』を読んで、
約二十年間、自分はADDに違いないと考えていた。
四十代後半という年齢になり、迷いはあったが
睡眠障害がひどくなったことがきっかけで
2021年に診断を受けたという。

見えない部分でどういうことが起きていて、
どういった困りごとがあるのか。
どの部分が、なぜ困るのか。
具体例を挙げて言語化されていることで、
多様なADHD特性の一端を知ることができる。

柴崎さんは二十五年以上のキャリアをもつ作家で、
自身の書く資質についてこう表現している。

なんかわからんけど気になる、どう言えばいいのかわからないことを、五年も六年も考え続ける、考えるのが好きだから、私はたぶん小説を書くことになった。
何十年も保留というか、近くに転がしておけるのが、自分の作家としての資質のように思う。

192頁より

「Ⅲ 伝えることは難しい」の「6 わからないこととわかること」の章は、現代アートのイベントでの出来事から話が始まり、小説を読むことや書くことの話につながっていく。

書き方や読み方も
多様でいい。
多様がいい。

「複数の時間や世界が並行して存在している」頭の中で
一緒に過ごしている感覚になる。


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