【3分ショート】カップ麺を待つ間に
「よし!後は待つだけ!」
電気のポットくんはお湯が沸いたことを知らせ、私は彼を持ち上げて蓋を開けておいたカップ麺にお湯を注ぐ。
私のお気に入りは、シーフード味のカップ麺。お湯の量は麺が浸るギリギリで注ぐのをやめ、若干少なめの湯量で待つのがワタシ流の作り方。
ポットくんの口から沸騰したお湯がカップに注がれる。私は仕掛けとしてカップに入れておいた、とろけるチーズに上手くお湯を掛けながら適量注入する。
カップの口からシーフード調味料の風味を巻き込んだ湯気が、私のメガネを一気に曇らせる。メガネユーザーにはよくある光景だ。
「視覚じゃなく嗅覚で楽しむもんね」
そう言いながらも、メガネを外して曇ったレンズを拭き始める。よし、これで大丈夫だ。
「いや、大丈夫じゃないから。蓋閉じてないから」
状況と心理に自らツッコミを入れる独身29歳。蓋を閉じるテープを何処かになくしてしまったので、ローテーブルに置きっぱなしの参考書を手に取り、カップ麺の蓋を押さえるために乗せた。
仕事を家に持ち込むのはナンセンスとか上司は言うけど、そんな事知ったこっちゃない。仕事を家に持って帰る事なんてしばしば。参考書を片手にパソコンで資料をまとめる。営業先に持っていくプレゼン用の資料もそのひとつ。気付けば日を跨いでいる事なんてよくある話。もちろん自炊して食費を押さえるとか、健康に気を遣う必要があるとか言われるけど、私には仕事をする時間が必要なのだ。
「いや、違う。仕事ではなく自分自身への時間の投資なんだよね」
何やらカッコよく言ってるけど、目の前にあるのはシーフード味のカップ麺。小生意気にとろけるチーズをトッピングして、麺にチーズが程よく絡み始めている少し手間をかけたカップ麺。まぁ、こんな忙しい日は手っ取り早く作れて、後片付けが楽なカップ麺が私にはちょうど良い。
「でも、ただただお湯を注ぐだけじゃつまらないじゃない?」
誰に言い訳をしているのか、単純にシンプルな味に飽きたのだ。そこに偶然冷蔵庫に取り残されていたとろけるチーズを、勿体ないから入れてみた時からのはまり様。とろけるチーズをトッピングするだけの行為を『自炊』と言わないだけ良しとしよう。
「自炊はするよ?でも、1人分だけ作るの難しいんだよ」
確かに私は料理が嫌いな訳じゃない。調味料も買い揃えてるし、電気調理器具もちゃんとある。上手く自炊している同僚の話では、がっつり作ってタッパーに小分けしたり、お米は3合炊いて、ラップに小分けして冷凍するとか…
「いやいや、その小分けする時間が勿体無いんだってば」
ここまでくると、単に面倒くさがりなだけだ。だから未だ独身なんだろう。
「余計なお世話だ!」
私はソファに脱いで掛けたままのシャツを横目に、少し膨れっ面でそう呟いた。
3分の待ち時間は案外長い。カップ麺を作る時の私はいつも、この3分の待ち時間を使ってタイムトライアルをしている。ズボラな私の部屋が足の踏み場もない様な凄惨な状態にならないのは、この3分タイムトライアルを活用し、部屋の片付けをしている事が功を奏しているのかもしれない。
「え?単に部屋のものが少ないから?うーん…」
ミニマリストとまではいかないけど、必要以上に物は買わないし、身につける小物は最小限に押さえ、衣服は状態の良い物は同僚にあげている。オシャレに興味がない訳じゃ無いけど、休日は完全にオフモードに入るので、インドア派の私は、部屋で楽に身につけられる服装を好む。よって、オシャレ着よりかは断然部屋着の方が多いわけで…。結論、物を増やさなければ片付ける量は増えないと言う何とも安直な考えで私は上手く生きているので、今更このスタイルを変える気なんてさらさら無い。そう言う理由から、この3分のタイムトライアルはある意味、私のライフスタイルには欠かせない物なのだ。
もっともらしい理由で偉そうに言っているが、単に自炊を面倒くさがって、カップ麺を食べる事への正当性を取り繕っているだけである。
「はいはい、おっしゃる通りですよー」
さて、そろそろタイムリミットの3分!さっきお湯を少なめに入れていた理由は、仕上げに牛乳を入れるため。私のお気に入りはミルクシーフードヌードルのチーズトッピングなのだ!とろ〜りとろけるチーズが麺に絡まってめちゃ美味しそう。
蓋の上に乗せておいた参考書の表紙が熱気で少しふやけてしまったことと、摂取するカロリーの多さを後で後悔するんだろうけども、とりあえず今は!
「いただきます!」
1,832文字(600文字/1分 約3分ショートストーリー)