
はじめての抽象画
コーヒーで絵を描いている自分が
絵を描いていくなかで
いろいろ体験したことを書いています
「抽象画ってむずかしい」
「よくわからない」
そんな風によく聞きます
わたしはプロフィールにも
「人物画と抽象画を主に描いている」と
のせてあるのですが
絵を見てくれた人が
抽象画が好きなのか
人物画が好きなのか
結構ハッキリ分かれているときは
どちらか一つにしないのか?と
言われることがあります
けれど、どちらも
わたしにとっては
欠けてはいけない
大切なものです
ただ
ずっと絵が好きでいても
自分のために
抽象画を描くという機会は
なかなかありませんでした
ここでは
私がはじめての抽象画を
描いた日のことを
思い出してみたいと思います
抽象画って本当に
すごいと思うんですよ
前に、わたしは
コーヒーで絵を描き始めたころに
ヘアメイクのアシスタントを
やっていたことがある
と書いたのですが↓
抽象画は、このアシスタントを
やっていたときに
はじめて描きました
ヘアメイクのアシスタントをやっていたというと
じゃあ美術系の学校には行っていないのか
絵を描いているなら
美大に行ったんじゃないのかと
言われることがあるのですが
美術系の大学には行っていました
学校では塑像彫刻が好きだったのですが
卒業してから彫刻家になるというわけにもいかず
かといって自分が企業で仕事ができるとも思えず
ヘアメイクだったら
ちょっと彫刻っぽいんじゃないかと
そんな安易な理由でした
いま思うと
自分でもなかなか謎な選択なのですが
その当時はとにかく
手を動かして仕事がしたくて
右手がムズムズしていました
なんとなく
「絵ばっかり描いていたら
1人ぼっちになっちゃう」
と思ったのも覚えています
すこしでも人の間で仕事をしないと・・
と、そのときは思っていたような気がします
そんなわけで
就職活動をしている時期に
大学と並行して
メイクの専門学校へも通い
卒業してから
通っていた専門学校のインターンを経て
渋谷にある美容施設へ就職し
その後ヘアメイクの
アシスタントになることになるのですが
とにかく現場では
本当によく怒られていました
毎日のように怒鳴られ
殴られ、蹴られ、物を投げられ・・
とにかく毎日緊張していて
気持ちに余裕がなく
いっぱいいっぱいでした
その日も
買ってこいと言われて買ってきた
防水用コーキング剤を
「やっぱりこんなのいらない」と
突き返され
仕方なく自分で買い取ったものの
・・でも、わたしもいらない・・と思いながら
部屋に入ったときに
今でも何でだか分からないのだけれど
その時 部屋の真ん中に
キャンバスが落ちていました
どうしてそこに
キャンバスを置いていたのか
全く覚えていないのですが
フローリングの床に
2枚のキャンバスが転がって
西日があたって光っていました
そのキャンバスをボーッと見ていた私は
今日も怒られたし
昨日も怒られた
そして明日もきっと怒られると思うと
たまらなくなり
仕事に行きたくなくて行きたくなくて・・
気がついたら
コーキング剤の栓をあけて
キャンバスに思いっきり塗りたくっていました
粘度のあるコーキング剤は
生クリームのようなツノをつくって
どんどんキャンバスに
吸い込まれていって
夢中で描いているうちに
気がついたらコーキング剤を
全て使い切っていました
そして
出来上がった絵を前にして
気がついたら
ものすごく気持ちがスッキリしていました
・・キャンバスってすごい!!!!
こんなに懐が深いなんて・・
出来上がった絵よりなにより
なんでも、どんな思いも
丸ごと受け止めてくれる
ただの木枠に貼った白い布が
とても頼もしく見えたのを覚えています
もともと大学で
現代美術のゼミをとっていたので
抽象画を見る機会は多かったし
自分でも好きでいろいろ見ていたのですが
それが自分の手を使って描いてみると
ますます色んな抽象画を見るのが楽しくなり
その後、コーヒーでも
抽象画を描くようになります
アシスタントは辞める日まで
毎日、変わらず怒られる日々が続いたわけですが
あのことがなければ
自分のために抽象画を描くことは
なかったのかなぁと思います
思えば
1人が好きでマイペースな自分にとっては
きっと
ものすごく向いてない場所だったんだと思います
逃げ出しちゃだめだと
歯を食いしばって耐えていたつもりだったけど
きっとまわりにとっては
迷惑だったんだろうな
本当に
申し訳なかったと思っています
でも美しいものを
たくさん、たくさん
見させていただきました
そして
あのときは
「絵ばっかり描いていたら
1人ぼっちになっちゃう」
という
恐怖心から無理を重ねていたけれど
なんと
その後、絵ばっかり描いていたことで
いままでのどんなときより
安心して沢山の人が
側にいてくれるようになりました。
わたしがやっていることは3歳の頃と
何も変わっていないのに
人は結局
自分らしいところに
自然と帰っていくものなのかも
しれませんね
抽象画は
心の中のものを全て出す感じがあります
だから、もし
言葉にならない思いが
胸の中に詰まってしまったときには
上手く描こうなんて思わなくていいから
キャンバスに向かい合って
とにかく描いてみて欲しいと思います
忘れたくない思い
忘れて消化したい思い
全部が絵となって出ていきます
そしてそこで美しく結晶になっている感じ
ポートレートが新しい人や情報と
出会っていく
「吸う息」に似ているとしたら
抽象画は
わたしにとっては「吐く息」と同じで
どちらもないとダメなんです
だから私の抽象画には
ぜんぶ背景に
理由や感情や
伝えたい思いやストーリーがあります
そのことを知っていて
わたしの抽象画を
好きでいてくれる人は
作品一つ一つにこめられた
裏ストーリーを聞くことも
楽しみにしてくれたりしていて
そんな思いを共有してもらえることも
いま、とても幸せに感じているのです