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もうイギリスにいられないと思ったらクラシックカーのお祭りに行くことになった


 コーヒーで絵を描いている自分が
 絵を描いていくなかで
 いろいろ体験したことを書いています


2015年 ヨーロッパ放浪
〈イギリス 2〉

なりゆきで行くことになったヨーロッパ
「君はすぐに日本にかえりなさい」
と突然、告げられた

(↓くわしくはこちら)


「僕はドイツにいかなくちゃいけなくなったから、君はあした飛行機をとって、すぐに日本にかえりなさい」
青天の霹靂

え、、あした?え??
ウソでしょ???

飛行機って,そういう感じで
のるもんだっけ???
頭がバグってくる
直前だとバカ高いのでは。。?
よく分からないけど

突然,明日をも知れぬ身になって
みるみる憂鬱な気分になっていった

もともと、いつまでいるか分からなかったので
帰りの飛行機は
観光ビザで行けるマックスの
3ヶ月後に予約していた
(帰りの飛行機を持ってないと
入国できないかも知れないと思ったからだ)

えーっと飛行機の便を変更して、、
キャンセル料とかかかるのかな
で,明日の飛行機を予約して
空港まで行って・・

考えるだけでつらい

でも仕方ない
もともと、いつ帰ることになっても
おかしくない旅だった

「いいか、旅もできたし城も見れたし、、」
しょんぼりしながら


とりあえずその日
最後の観光に行くことになった

あああ、あったかシートのジャガー
君とももうお別れか

あったかいシートが生き物みたいで

「かわいいねーありがとうー」と
毎回ナデナデ
感謝していた日々が懐かしい

そして最後の観光に行こうと
車に乗り込むと


・・・あれ


・・・・あれれれれ


ジャガーが動かない


「ああ、なんてことだ!」
老紳士が悔しそうに隣でうなっている


「バッテリーがあがってしまった!」


どうやら前日
ライトをつけっぱなしにしてしまったらしい
かわいい濃紺のジャガーくんは
うんともすんとも言わなくなってしまった


「¥(/:&@@9?;:/¥¥:(&&,:6&)&@」

あわてて早口でまくしたてる老紳士が
何を言ってるか聞き取るには
私の英語力はこころもとなさすぎた

え??隣の人に??
助けを??
隣の人??なにそれ?だれ???

しきりにカーレディー,カーレディといっている
え?どゆこと??

よく分からないままポツンと1人で
車の横に残された
とりあえず待っていろということらしい

ぼーぜんとして
しばらくつったっていると

城の方から
太陽みたいに元気な笑顔をした
60代くらいの
ゆるくウェーブがかかった黒髪をボブにした
小柄で
上品な女性が
こちらに近づいてきた

本当に
小さい太陽が
歩いてきたのかと思った

「カム!カム!」

え?だれ????


よく分からなかったけど
どうやら
ついてこいと言ってるらしい


なんだろう

言われるままについていくと


城の反対側の部屋に通された


その部屋は日当たりがよくて
いつか見た
古い映画のように
可愛らしい内装をしていた

天井が高い


「わたしの友達も来ているんだけど」

言われたとおり
そこにはもう1人
赤毛の、ちょっと気の良さそうな
婦人がすわっていた


「さあ、お茶にしましょう」


可愛すぎるティーセットで
その女性は
美味しい紅茶をいれてくれた


・・なんだろうか
この状況は。。


突然ほおりこまれた
不思議なお茶会


わたしは
むかし、ヘアメイクさんの
使えないアシスタントだったときに
慣れない撮影現場に
放り込まれたときを思い出して

全神経を張り詰め周りをうかがいつつ
とりあえずニコニコしていた

「あ、わたしやります」

お菓子をとったり
お茶のおかわりをついだり

しばらく
現場かのような
動きをしながら

婦人たちと談笑した


わけがわからないわりに
そのお茶会はとても長かった

体感で2時間くらいたって
いいかげん慣れない英語での会話の
ネタもつきてきたころ


部屋に
素晴らしく美しい
グランドピアノがあるのに気がついた

「息子はね、ピアニストを目指していたくらい
ピアノが上手なの」


それを見てわたしは
おもわず
「弾いていい??」
ときいた


会話だけでは
間がもたなくなっていた
というのもあるけれど

一曲だけ覚えていた曲を
どうしても
弾きたくなったのだった

ベートーベン「月光の曲」

母方の祖父が


唯一、覚えていたという曲

若いころは
絵に描いたような昭和の頑固親父で
あだ名は「瞬間湯沸かし器」だったという
祖父が
ポロンポロンと出だしのところだけ
いつも弾いていたのだそうだ

怖かった父親の意外な一面ということで
母には印象に残っていたらしい

小学校のころ母に頼まれて
練習して
祖父に誕生日プレゼントで演奏した
思い出の曲


近所の子が習ってるから
なんとなく、はじめたピアノは
ぜんぜん真面目に練習しなくて
よく怒られていたけれど
なぜか、この曲だけは
弾けるようになっていた


てんてんてん、てんてんてん、てんてんてん
何度も聞いた3連の音符を弾き始めると

「ムーンライトソナタね!」

とご夫人たちが、嬉しそうにいってくれた
ベートーベン、オマエすげえな!

すっかり音楽で国境を超えた後
(ここで演奏がめちゃくちゃ上手いとかっこいいのだろうけど、もちろんそんなことはない)

ご夫人は笑顔で
「それで、、あなたは誰なの??」
と言ってきた


・・もしかして
これは、、チャンスなのでは、、???

急にピンときたわたしは
一生懸命に自己紹介をはじめた



「こうこう、こういうわけで
イギリスにきて、、
でも、、、
あしたから、、
行くところがないのーーーー」

必死で話す私を見て

一瞬の間があったあと
マダムが
笑顔でこういった

「なんだ、そんなこと
よかったらウチに泊まればいいじゃない」


ほんとにーーーーー?????!!!



後でわかったことだったのだけど
お城といっても
いまは王様がいるわけではないので
1人で維持しているわけではなく

中の部屋を分譲して
アパートのようにいろんな人が
住んでいたらしい

かつて使用人の人が使っていた部屋も
きれいにリノベーションされて
別荘として持っている人がいたりして

はじめにとまった老紳士は
城の中で2番目に良い部屋を持っていた人だった

そして今回会ったマダムが
1番いい部屋を持っている人だったのだ


お隣さんといわれて
最初は,隣の城??と意味が
分からなかったけれど
城の中でのお隣さんというのは
どうやらそういうわけらしかった

しかも、さらに後にきいたことには
あのとき私が「月光の曲」を弾いたことで
ある程度の教育を受けて育った
ちゃんとした素性の人間なのだろうと判断して
泊まればと言ってくれたようなのだ

おじいちゃん、ありがとーーー!!!!


そして
不思議なお茶会が
すっかりわきあいあいと馴染んだあと
ずいぶんと時間がたってから
老紳士が帰ってきた
車が動くようになったらしい

お礼を言って
マダムのもとをさる
足どりは軽かった

よかった、とりあえず
明日からいられる場所は決まった

命拾いをしたような気持ちだ

昨日まで感じていた
原因不明の肩や頭の痛みが
ウソのようにひいていた



だが、次の日
朝になって
また老紳士は
慌てた様子でこう言った

「やっぱり君は彼女の部屋には泊まれないよ!
いますぐ飛行機をとって帰りなさい」


えーーーどゆことーーー???
いきなり不安定な身分に逆戻り

とたんに心臓がバクバクいいはじめた

冗談抜きで明日をも知れないので
本当に何もかもに,一喜一憂する
これじゃジェットコースターじゃないか
かんべんしてくれ


「えっと、、どゆこと、、?」

説明をもとめても
老紳士は
あわてた口調で早口でまくしたてるので
虫、とか、煙、とかが聞き取れるだけで
要領を得ない
(いや、わたしの英語力が足りないのだけど)

「わかった、とりあえず直接きいてくるね」

「いや、彼女はいま家にいない、だから君は
早く飛行機をとらないと」

もう完全に訳が分からなかった
流浪の民はつらい

「わかった
でも飛行機をとるまえに
やっぱり直接、彼女と話してくる」

家にいないというので
手紙を書いて
彼女の部屋に向かった

呼び鈴を押してもやはり応答がない
手紙を置いて
祈るような気持ちで部屋に帰る

考えてみたら彼女のフルネームも
携帯の連絡先も知らない
ことによっては
このまま会えないかもしれない
待ち合わせもできない

心臓がずっとバクバクいっていた

しばらくして
外を歩いていると
こちらに向かってくる
あのマダムがみえた


「ああ!よかった!さがしていたの」
手には私の書いた手紙を持っていた

とりあえず会えたー!!!

ホッとしたのもつかのま
彼女もやっぱり慌てた様子で
虫が、煙が、といっている

虫と煙が、いったいどうしたというのだろう


わたしは小柄な彼女の両肩をつかんで
深く息をすった

どうせ
もともと,いつ帰ってもいい旅なんだ

小さくお腹に力を入れて
覚悟を決める

「いいですか?
大丈夫。
なにがあっても
わたしは,あなたに迷惑をかけるつもりはない
あなたが泊めてくれるというのは
わたしにとっては信じられない幸運です
けれど、あなたに少しでも不都合があるのならば
わたしは日本に帰れば良いだけです
落ち着いて
なにがあったか
話してもらえますか?」

私の真剣な気持ちがつたわったのか
彼女は少し意を結したように
話しはじめた

「明日の朝に
少し遠くまで行かなくてはいけなくなったの
それで、その間に
部屋に害虫駆除の煙を焚くことにしたから
家にいてもらうことはできないの

一緒に来てもらっても
かまわないのだけど

あなたは
その、、、」

そこでマダムは少し
いいよどんだ


「彼の、、彼女ではないの?」


最後に小さい声でマダムは言った
「違います!!!!!」


食い気味で私は言った
ぜんぜんちがいます!!!!


「そう、それならば良いのだけど」
明日の朝は,早いの
それで,あなたは大丈夫??


もうね、泊まれるなら
なんでもいいし,何時でもどこでも
なにがあっても行くよ!!!!

老紳士に変に欲かいて取りいったり
なんか変な感じになるような
そんな関係でなくてよかったー!!


そういう女の子のことを
彼女いわく
「ビッチ」といって
ものすごく軽蔑しているのだそうだ
・・なるほど


そんなこんなで
次の朝5時に
彼女の家にお引越しすることになった


おもたいスーツケースをひいて
ふかふかの絨毯を歩くので
なかなか進まない


城の中にこんな廊下があったんだ

ディズニーの美女と野獣のような
吹き抜けの階段ホールを通って
ドアをノックすると
結構不安になるくらい待たされたあとに
マダムが迎え入れてくれた
(とにかく何があるかわからないので
起こること全部にビビる)

わたしは無事に次のお家へとお引越しをした

とりあえずこの先の見えない旅は
もう少し続きそうだ
と思った


朝の準備を手伝い
早朝に家を出て
小さな車に乗り
彼女の運転で
3時間ほどは走っただろうか

気がつくとあたりの景色が
なんだかイギリスってかんじ、、
という
上品な並木道になっていた

見上げるほど高い
まっすぐにそびえる木立に
絵になるカッコいい車

すごいなー
イギリス
映画みたいだなー
と思ってるうちに

車は駐車場にはいっていった

「朝ごはんを食べましょう
お化粧なんていいから
あとでできるから」

車を停めてマダムは言った

車を降りると
彼女の小さな車以外

全てが圧倒されるような
高級車ばかりだったのだけど

そのときはまだ
イギリスってすごいなー
としか思っていなかった


マダムの言葉を信じて
眉毛のないまま歩いていくと

なんだか瀟洒なクラブハウスに到着し
そこには

めちゃくちゃイケメンの金髪のお兄さんが
ものすごくカッチリした執事のような
パリッと質の良い生地のタキシードを着て

ハリーポッターの魔法書?ってくらい
分厚くて
巨大な芳名帳をまえに

モリモリに彫刻が施された
重厚な万年筆を手にして

冷たいほどの無表情で

「お名前は?」

ときいてきた
白い手袋がまぶしい

えーーーん!!
こんなとこくるなら
先に言ってよーーー
わたし、、眉毛ないんですけどーー!!


心にかなりのダメージを受け
(眉毛のない女は
防御力がかぎりなく0なのだ)

片手で眉毛を覆いながら
受付を通り過ぎると
そのクラブハウスで
文字通りクラブハウスサンドを食べながら

いったい自分が
どこにつれてこられたのかとおもった

なんだよ、なんだよ


これまた美しすぎる
落ち着いた色味のゴールドで統一された
上品な化粧室で
遅刻した駅のトイレの女子高生のように
セコセコ眉毛を描いて
向かった会場の先で

私たちは
2分とまともに歩けなかった


「ああ!来たんだ!」
「あいたかったよ!」


一歩あるくごとに
彼女は人に囲まれた


「ああ,久しぶりね」
「私も会いたかったわ」

にこやかに対応しながらも
つぎつぎ話しかけられる彼女
あっけに取られる私

まともに進むこともできないじゃないか

そのうち
わたしはグイッと袖を引っ張られた

「え?」
振り返ると
金髪の女性が2人
「ねえ、どうやって彼女と友達になれたの??」
と,小声でささやいてきた

どうやってって・・・
車が、こわれて、とまったから、、??、?


あまりの事態に
ようやく人ごみをぬけた彼女を
つかまえて
私は言った

「ねえ、あなた誰なの???」


「わたし?
だって
わたし有名人だもーん」



そのときになるまで
ほんとうに、まったく
知らなかったのだけど

彼女は現役のクラシックカーの
レーサーだったのだった

クラシックカーを整備しているエリアにいくと

ニコニコしながら
車の鼻先にある
ネジみたいなのを
ぐるぐるまわしている
おじいさんが
次々に話しかけてくる


バルバルバルバル・・という
クラシックなエンジン音が
轟音なのに心地よかった

「この子は手がかかってね」
もう,金ばっかりかかってしかたがないよ
といいながら
みんな、どこか幸せそうだった

それを嬉しそうにきくマダムも
幸せそうだった

クラシックカーなんてきっと
目の玉がとびでるような
お金がかかるんだろう

でも
子供みたいに笑う
おじさんやお爺さんたちをみながら


日本にいるときは
シャンパンをポンポン開ける人のことを
お金持ちだと思ってたけど
こんなお金持ちって
なんか可愛くていいなとおもった


そこはグッドウッドという
クラシックカーの
有名なイベントだったそうなのだ

・・ぜんぜん知らない世界が
目の前に現実として
広がっていた


「こっちこっち」
と言われて

ドーム状の広い会場につれていかれると

満員の会場の
最前列に
お席がとってあった

ちなみに、そのときの会場には
アジア人がまるでいなかった

あとできいたところによると
首から下げていたIDは
それだけで値段がつくような特別なIDで
お金を積むだけでは入れない
とても格式のあるイベントだとうことだった


なので
突然現れたアジア人が
満席の会場を
最前列まで案内されていくのに

・・誰なんだ?!あれ
という視線が痛いほどにつきささる

ごめんなさい
あの、誰でもないです・・


荷物になるかと思ってたけど
綺麗なコート
持ってきてて良かったー!!

旅だからとおもって
バックパッカーみたいな
格好でいいかと思ってたけど

そしたら
着るもんなくて
あぶなかった


なんとなくそんなことを思った


そして、彼女が着席したのが
合図だったかのように
司会の人がマイクをとった


まるでお手本のような
「レディースアンドジェントルメン!」のあと

目の前ではじまったのは
クラシックカーの
オークションだった


オークション?!
あのカンカーンって木のやつを
叩くやつ???

映画でしかみたことないよ!!

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