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「隣の人に話しかけて」

 コーヒーで絵を描いている自分が
 絵を描いていくなかで
 いろいろ体験したことを書いています


今回の話しは
けっこう
こうやって書いている中でも
1番大切な話のひとつになる気がする

前回の記事で
地獄のオフィス勤めをしていたと書きましたが

この時、描いた絵の打ち合わせをしに
赤坂へ行った帰り

銀座線で渋谷駅についたとき

ほえーーーーーーー。。と

ちょっと見惚れてしまうくらい
カッコいい外国人カップルが

窓の外に
通り過ぎていくのを見送った

ヘアメイクのときに
撮影現場にも行ったことがあるし
みめ麗しい外国人は
そこそこ見慣れていたつもりだったけど

なんていうか
2人は
そのとき
キラキラと光って見えた

180センチ以上ありそうな
スーパーモデルのようなスタイルの
金髪ベリーショートの彼女と


同じくらい背の高い
ツルッツルのスキンヘッドで
オシャレなメガネをかけた
ファッショナブルな彼

「カッコいい2人だなーーーーー」

と思いながら
電車を降りて
改札に向かって歩いていると

「ーーーーーーー?!」

さっきの2人が
ホームで地図をながめていた


うーん。。
ここは銀座線のホーム。。

当時の渋谷は
わけがわからないくらい工事中で
いたるところが養生された仮設の壁で
アリの巣のようになっていたので

たぶん
その頃の銀座線は
地球上で1番
道案内がしにくい場所になっていた(と思う)

しかも、ここのホームの時点で
そんなに地図を見てるってことは、、

君、、たぶん
目的地には辿り着けないとおもうよ。。

ちょっと迷ってから
わたしは



「どこいきたいの?」
声をかけた


「Ah----」

なんたらかんたら聞いてみると
どうやら渋谷警察署の先へ行きたいらしい



よりによって渋谷警察署かーーーー!



いまいる場所からだと
右いって左いってですむ場所ではない

階段降りて
左いって
ちょっと右いって
左いって
橋渡って
また右いって
階段降りて
まっすぐいって
歩道橋をわたって、、、


あーーーもう!

「ついてきて」


といって一緒に歩き出した


一緒に歩いているあいだ
見知らぬ人に連れていかれるのは
不安だろうと
一生懸命に自己紹介をかねて
描いている絵の写真をみせながら
話をした

「こんな絵を描いててね
コーヒーなの」


そうこうしているうちに
無事に
渋谷警察署にたどりついた

そこから少し坂をあがったところにある
バーに行きたかったらしい

よかった!到着!
じゃあ、楽しんで!

それで帰ろうと思ったとき

2人が目を見合わせてから
こちらを向いて言った


「一緒に飲んでく?」



えーーーーー!いくいくー!!!






彼女はロシア人
彼はイギリス人で
2人はオーストラリアに住んでいるらしい

今回は,彼女の誕生日プレゼント
彼がサプライズで日本旅行を
プレゼントしたということだった

それをきいて
トイレに行くふりをして

店員さんにペンをかり
こっそりコースターに
「Happy Birthday!」
と書いたら
とても喜ばれた

そんなこんなで、ご一緒して
結局は夜中の2時まで
一緒に飲んでしまった

帰りのタクシーをつかまえて
2人を見送ると


「とても楽しかったよ
今回の日本滞在の中で
最高の日だった!」


「シドニーに来ることがあったら
ぜひ連絡して!」

といってくれた


楽しかったなぁ。。
そう思いながらわたしも
幸せな気分で帰った


そんなことがあったのだけど

朝になれば
またグダグダの会社勤めがはじまる


もうなにもかもが
嫌で
嫌で
嫌で

その年の夏休みを前に
どこでもいいから逃げ出したい!!!

1人で海外に行くことにした

完全にヤケクソだった


行先はどこでも良かったのだけれど

そういえば、アイツら
オーストラリアに住んでるって言ってたな。。


・・いっちゃおうか


仕事してるふりをして
スマホを触り
コソコソと飛行機をとった
飛行機の便なんてどれでも良かった


それで夏休みに
本当にシドニーに行ったんだけど

行きの
乗り換えのメルボルンで
愕然とした


夜中の0時に空港について
、、こんな夜中に乗り換え、、?と思って
予定を見ると

次の飛行機は7時間後?!

え?!本当に?




あわててコソコソチケットをとったから
あんまり良くスケジュールを見てなかったらしい

5日しか夏休みないのに

あわてて帰りの飛行機も見てみると
帰りの乗り換えもきっちり7時間あった


・・ウソーーー。。

行きも帰りも7時間づつ乗り換えが
あるー、、

アホなことに
そんなことに空港まで来て気がついた


仕方がないから
その時は
うすら寒い冬のメルボルンの空港の
(日本の夏休みなのでオーストラリアは真冬)

たった一つだけ空いていた無人のカフェで
ぬるくなっていくコーヒーをすすりつつ
震えながら朝を待った


その後の

シドニーでの3日間は
本当に楽しかったし

渋谷で出会ったカップルにも
ちゃんと再会できて
とても良くしてくれた

(ちなみにスマホで予約したはずの
宿も、とれてなかった
ほんとに何やってるんだ自分。。)

シドニーといえばこれ
(画像は拾い物)


でも帰りはまた
7時間のトランジット



こんどは昼間の便だったし
気持ち的にも余裕だった



シドニーからメルボルン着の
飛行機が遅れたときも

同じ便だったビジネスマン風の
おじさんがめちゃくちゃキレていたけれど

わたしはニコニコ余裕だった



大丈夫、わたし7時間あるので


穏やかな笑顔で遅延の説明をきいていたら
グラホスのお姉さんが
とても喜んで
なんだかものすごく親切に対応してくれた

余裕、、、大事。。


そんなメルボルンの空港で


搭乗口の前のベンチに陣取ると
長い待ち時間のはじまりだった

もう
なんていうか
ヒマしかない

なにをしてヒマをつぶしていたのか
もう思い出せないのだけど


突然


「隣の人に話しかけて」


という声がきこえてきた


「え?」
「隣の人に話しかけて」

誰かに言われたのかと思うくらい
このときはハッキリ聞こえたのだけど

これは、なんていうか
カンというか
自分の頭の中の声



・・頭がおかしくなったと
思わないでほしい

これは別に
おかしなことではないと思っていて


例えば本屋にいったときなんかに
何を読もうかなーと思った時に
本が呼んでるような気持ちがする時の
感覚というか

なんとなく
このお店に入った方がいい気がするとか

そういうたぐいのことなのだけど


このときは
かなりハッキリ
カン!と頭の中に入って来た気がした


「隣の人に話しかけて」
「隣??いいけど、、」


なにしろヒマだったので
わたしは
この遊びにつきあうことにした

「隣、いないけど・・」
「もうすぐくるから!」

うーん、ほんとかなぁ


しばらく待ってみると
耳にイヤホンをした
背の高い黒人のお兄ちゃんが
リズムにのって頭をフリフリやってきて

隣の席にドサッと座った

椅子に座ってもまだ
頭をフリフリしている


話しかけると言ったって
なんだか怖そうだったし
なによりイヤホンで耳がふさがっている

「・・この人??」

ためしに
自分でも冗談みたいだと思うのだけど
頭の声に話しかけてみる


「違う、次の人!話しかけて!」
と割とハッキリといわれた

・・マジかよ。

そのうち
1分くらい座ってたかとおもうと
頭フリフリ黒人お兄さんは
すぐに席を立って
どこかへ行ってしまった


ほどなく

こんどは身なりのいい
老紳士がやってきて
隣に座った


「この人?」
また頭の中に話しかける

このヒマつぶしに
わたしはすっかり
腰をすえて
付き合うつもりになっていた
(なにしろ、7時間あるからね)


「この人!!話しかけて!!!」



頭の中の声が
食い気味にいった


・・・・・マジかよ。。


話しかけるといったって
いったいなにを糸口に声をかければいいのか


そうしてわたしは
なんとなく
見るともなしに
横目で見ながら
その老紳士に声をかけるきっかけを
探してみていた


そうしているうちに
なんだか隣の老紳士の
言動が不思議なのに気がついた


「私は、いまメルボルン空港に来ています」

「飛行機を待っているところです」



どうやら携帯に向かって
話しているようなのだけれど

箇条書きのような

会話をしているのにしては
少し不自然な話し方だった

なんだろう

まるでボイスレコーダーに
メモを吹き込んでいるかのような

疑問に思ったわたしは
思わず



「あなた、小説家?」


と、隣の人に話しかけていた



「え?」
いきなり話しかけられて
老紳士はとても驚いていた
(あたりまえだ)

「いや、ボイスレコーダーに
録音するみたいな話し方をしてるから
小説家の人が取材してるのかなと思って」


というと
老紳士は
「ああ、、」と笑った


「これはね、メールを打ってるんだよ」


ほら,僕はね
指が太いから、メールをうつのが
とても面倒なんだ


と、たしかにぶっとい指と
当時はやっていた
ブラックベリーの
小さな小さな携帯を見せてくれた

たしかにブラックベリーの
ボタンは
その指では押せなそうだ

なんでそんな
ちっこい携帯にしたんだよー


「そうなんだ、急にはなしかけてごめんね」
「いや、いいんだ。わたしもちょうどヒマでね」


そんなことから
会話がはじまって
なんだかずいぶん長く話し込んだ


いや、わたしは7時間あるのだけど
この人も、なかなか待ち時間あるな

と思っていたのだが


あとで聞いたところによると
実はダブルブッキングのようなトラブルで
予想外に待たされて
イライラしてるところだったので

良い気分転換になったらしい


「話しかけてくれてありがとう!
イギリスに来ることがあったら連絡して」

3時間ほど話していただろうか


老紳士は
そう言って
わたしに白い名刺をわたしてくれた


「ありがとう!気をつけて」


そう言って見送ると
彼はエミレーツの搭乗口に向かって歩いていった


え??ちょっとまって?!

その入り口
ファーストクラスじゃないの??!




ちょっと呆然として

わたしはその老紳士の
後ろ姿を見送った


そんな,夏休みで
気を紛らわせたのも
一瞬のこと

帰ってきて
オフィスで
また働くうちに


そのうち
わたしは

誰がどう見ても
この子はもうダメだな・・
という感じになっていった


仕事が終わって

家に帰ったら
コートのままぶっ倒れて寝て
気がついたら朝

慌てて顔をあらって
コートのまま
会社に行って


うつろな目でパソコンを見て
帰って来てまた倒れて

顔がどんどん
青白く疲れていった


超ホワイト企業だったのに・・


この頃には
もう考えるのをやめていたんだと思う

すっかり目に光がなくなりながら

それでも仕事は辞めれないというわたしに
仲の良い友人が


「おまえ、
 どんどん不細工になってるぞ!
 おいブス!
 もう仕事やめろブス!」

 と言って止めてくれた
(この「ブス」には愛があったなぁ・・)

ちなみに口が悪いが
この友人は女の子である





とうとう
最後の最後
会社のいちばん上の人に

「ごめんね、無理させたね
もういいよ」と言ってもらった


こんなこと言わせて
本当に申し訳ないとおもいながら

その瞬間
心がスーーーーっと軽くなった


え???
あ、自由だ



これでいいわけないんだけど
これでよかった,と思った




もうね

いい年して

旦那もねえ
子供もねえ

彼氏もいないし
若さもねえ

金もなければ


いままさに
仕事がなくなりましたぁ!!!!




でも時間だけはあるーーーー!!!!!




そんな風に思いながら

そういえば

あの老紳士が
イギリスくることあったら
連絡してって言ってたな


・・・行くか、イギリス



もうなんか
なんもかんも

どうでもよくなっていた




この旅がまた
本当にビックリする出会いに
繋がっていくのだけど

それはまた次のはなし

もうね、この旅行が
本当にすごかったから

もう少し
お付き合いいただけると嬉しいです

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