ここは、海にしずむ夕日が見える、少し高いところにある公園です あかねいろの夕空を、ゆげの立っているどんぶりが、とんでいきます。 「あれ?なんか飛んでるよ」 お母さんに手をひかれながら、公園からくだる階段を歩いていた、小さな男の子がお母さんにいいました。 お母さんは夕空を見上げました。 お母さんはいいました。 やさしい声でいいました。 「ほんとだね、あれは、なんだろうね。あっ、おうどんだ」 「えっ、おうどん?」 「そう、おうどんだよ」 「おいしい?」 「どうだ
日曜日。晴れ。暑い日。午後3時。 わたしはソファで寝てしまっていた。ケイタイを床に置いて、ぼんやりと、どっかの外国のドキュメンタリーの日本語吹き替え版をテレビで見ていた。起きたら汗だくだった。テレビは流しっぱなしだった。 冷房の設定温度が高かったのかなぁ。 なんてことを思いながら、彼女は、額の汗をぬぐいつつ、少し長い髪に手ぐしを入れた。 と、テレビの前の小さなサボテンがいっていた。 そのサボテンの声を聞いていたのは、ソファーの上で寝てしまっていた私ではな
まんてんの星空のもと、田んぼと田んぼの間にある、少し道はばの大きな道を、自分の背たけより、大きなささをかたにかついで、ささを地面に引きずりながら、一生けんめいに歩く、小さな影がおりました。 もうすぐ、七夕です。 ゆかた姿の子どもたちは、短冊に、どんなお願いごとを書こうか、考えるのが、楽しくて楽しくて、仕方がない様子です。先生の合図で、左右に体をゆらゆらと、ゆらしながら、七夕様の歌を楽しげに歌いました。 小さな影も楽しげに、体を少しゆらゆらさせながら歩いていきます
夕日に照らされた、がっしりとした背の高い二人が、川岸の広い空き地でキャッチボールをしていました。 キャッチボールをしている二人は、夕日に照らされて影絵の様に黒く見えました。 「ナイスボール、いいねぇ、球はしってるねぇ」 「そりゃそうだよ、今日は朝から、一日、調子よかったし―――」 「……おっ、いいねぇ――」 「だろ――」 「……みんな毎日、今日の赤さんみたいに、過ごせれば、いいんだけど――」 「……本当に、青タンのいう通り、そんな世の中になればいいなぁ」 夕日はいつの
夏の午後七時です。まだうっすらと明るい、どこにでもあるような、バス停とロータリーがある、とあるまちの駅です。その駅のバス停で、スーツ姿の、お腹のでていないおじさんが、バス停のベンチに座り、バスをまっていました。 おじさんが足元にふと、目をやりますと、子供の手袋くらいの大きさの赤い皮でできたような、手袋が落ちていました。 おじさんは手袋を拾いあげ、まじまじとそれをながめていました。 手袋の手首のあたりには『魔人』と、書いてありました。 (魔人って、まじん? ……まじ
きゃべつが空を飛ぶ、おぼろ月夜の、風のない夜には、優しい顔の素敵なおひげの、小さなおじさんと、優しい顔の素敵な笑顔の、おばさんと、小さな小さなかわいい子供が三人。そのきゃべつに乗って、隣の町の、家へ帰ります。 そんな夜が、この世界にはあるのです。 あなたの住む世界かもしれませんし、あなたの住む世界のとなりの世界かもしれません。
お江戸の町の、貧乏長屋の屋根と屋根のすき間から、わたしは夜のお空に目をやりました。 お空には、お月様がありまして、雲がかすかにかかっていました。お月様にはうっすら、モヤがかかっていまして、少しあやしいうつくしさでありました。 わたしは回りを見渡して、誰もいないのを確認すると、目を閉じまして、自分のおでこを、ペシン。と一発。 わたしの顔は、みるみる真っ赤。鼻もにょきっと伸びました。 あたしは、町場で修行する。そう、天狗でございやす。今日はちと、のみすぎやした。
「はぁ~いい心持ちだねぇ~、へへへんだぁ、あっ、こりゃ」と、文五郎。 千鳥足で少しヨロヨロと、人通りの少ない道を歩いていきます。 その姿は、ええ、なんだかとても幸せそうです。 お空の高い所には、きれいな三日月と、お星様達が、フンワリ、キラキラと、輝いておりました。
空は、ええ雲一つ、ありません。 とてもきれいな、あおい空ですが、もう、みんな大騒ぎ。なにせ朝からずっと、昼をすぎても、ずっとあおい空のまんまなのですから。夕暮れ時が近づいてきた今でも、あおいまんまなのですから。 どんなに偉い学者さんでも、原因がわからないことだということでした。 世界の夜であるはずの夜空は、あおい空でした。 世界中がおおさわぎ。 世界の終わりか。 新世界のはじまりか。 それは誰にもわかりません。 日本語はむすがしいですね。 『みどり』のことを
明日からはありふれた日常が変わります。どう変わるかといえば、ありふれた日常が日常ではなくなるということです。それくらい大きな、世界的な変革がおこるということです。 と、各国の大統領や、世界的な宗教、各宗派の指導者達がいわれたので、世界中は大騒ぎでした。 私は何かが起きるのかと、ある意味では楽しみに、ある意味では不安に思っていたことでしょう。けれど結局何もおこりませんでした。 変わったことといえば、朝、目を覚ました時から、なんといいましょうか、身体の実体がないような、
今日もしあわせな一日でした。明日もたくさんの人がよろこんでくれますように。 お風呂のお湯にのんびりつかりながら、小さな声でつぶやいているのは、体と耳がとても大きく、鼻がとても長い、サチという名前のおとなのおんなの子です。 サチは、真っ白な体のやさしい顔をした、おとなのゾウのおんなの子です。 サチは小さいおうどん屋さんではたらいています。横ならびで座る席が五つだけの、小さなお店です。 お店の主人はクマ子さんといいまして、お料理を作ります。クマ子さんは、丸いメガネを
春キャベツは明日から。姿煮込みで。それと、明後日からは、味噌煮込みうどん。と、いっても、普通の田舎こうじみそで煮込んだ、『れっきとした味噌煮込みうどん』ではありません。明日からの私の実家の、定食屋のメニューです。 私は、満点の星空の下にいまして、私の目の前をふわふわととびかっているレタス達を見ています。レタス畑をのぞむ丘の上で。 ああ、気付けばまた、帰ってきてしまっていました。すがたかたちも、元通り。頭に角が、生えました。なんだか、帰りたくなくて、切なくなって悲しくなりま
起きた。朝が来た。と、思う。いつもよりもスッキリと目が覚めた。窓際のベッドに横たわっている私。遮光カーテンの向こうが明るく光っている。あれ? 明るすぎる? 気がする。私は時間を確認することもせず、ベッドから出ずに、体を起こし、カーテンを開け、窓を開けた。 窓の外は一面の光。ただただ、眩しい光だけ。そこにあるはずの風景はなかった。強い風が吹き、髪が乱された。 これは素晴らしい朝だ。全てが終わったんだ。そして、全てが始まるんだ。ありがとう。そう思いながら私は消えた。 私がい
明日も仕事だと思うと眠れない。真っ暗な部屋で仰向けになって目を閉じていると、どうしようもない不安感に襲われる。だから、そういう時には呼ぶことにしているんだ。心の中で呼ぶんだ。 『ほあんか~ん』 すると、ふあんかんが、なくなるんだ。だって彼の名は、『ふあんかん保安官』過度な不安感を消してくれるんだ。 それだけじゃない、最近は実際に来てくれるんだ。ほら、今も枕もとに立って見守ってくれている。 すごいぜ!保安官! でも、保安官。銃口をむけないで! 冗談きついぜ、保安官!
午後5時。晴れた空に、きれいな夕焼けの日。夕方のチャイムがなりはじめたよ。それでね、チャイムがなり終わったら、決まって聞こえてくるんだよ。 笑っているような声が、楽しげな声が。大きな、小さな、大きさに関係なく、わりときれいな川の方から。あっ、でも、真夏と真冬には聞こえてこないんだって。 チャイムがなったら帰るんだって。笑ってね、さよならするんだって。こうら干しをやめてお家に帰るんだってさ。 ほら、チャイムがなり終わったよ。 耳をすませばきこえるよ。 カッパ達の楽しげ