みんなのジェンダー勉強会#5『情報生産者になってみた』著者を招いての読書会
みんなのジェンダー勉強会は、
「ジェンダーに問題意識を持って自分なりに学んできたけれど、一度体系的に学んでみたい。」
「同じように関心を持つ仲間と一緒に学ぶことで、学びを深めたい」
そんな方のために、有志で始めた自主勉強会。
これまでの勉強会では、京都大学男女共同参画推進センターが無料公開中の「ジェンダー論」公開講座を教材に学びを深めてきました。
今回は話題の著書『情報生産者になってみた』(2021年、ちくま新書)の読書会として開催しました。
実は勉強会主催者の一人も上野ゼミ卒業生というご縁もあって、共著者の中から竹内さん、大滝さん、坂爪さんをゲストにお迎えしました!
上野千鶴子と最恐ゼミ
社会学者、上野千鶴子さんをご存知でしょうか。2019年の東大入学式での祝辞が話題になった人、と言えばピンとくる方も多いでしょう。
勉強会の主催メンバーは、それぞれの視点でジェンダー平等への課題感を持ち、そしてそれぞれのやり方でジェンダー平等へ向けて活動をしています。それに対して上野さんは、現在知られているような意味での「ジェンダー」という言葉がまだまだ使われていなかった頃から資本主義経済下における女性の不自由さに気づいて研究を重ね、ジェンダー研究、特に日本におけるフェミニズム、女性学においてはパイオニア的存在です。
その上野さんが2018年に刊行したのが『情報生産者になる』(2018年、ちくま新書)。
この本では、自らの「問い」への探求を通して得られた「新たな知」をどのようにアウトプットしていくか、上野流の情報発信のノウハウが惜しみなく解説されています。
情報が溢れかえるこの時代。すでにある情報を使いこなすだけではなく、まだ日の目を浴びていない、自分の中にだけ生まれた「問い」にも価値を見出し発信することの重要さを伝えてくれる本です。
このノウハウは上野さんが東京大学、立命館大学大学院で主催していた通称「上野ゼミ」で学生たちに伝えていたもの。上野ゼミはかつて志望者がゼロになったことがあるほど過酷なゼミとして知られ、また一方で、卒業生の多くが研究者、ジャーナリスト、社会起業家など、様々なフィールドで“情報生産者”として名を馳せていることでも有名です。
『情報生産者になってみる』を親本とすると『情報生産者になってみた』の方は「子本」に相当するような関係です。『情報生産者になってみた』は、その“過酷な”ゼミを生き抜き、今現在情報発信者として活躍しているゼミ卒業生の有志6名が、上野ゼミ在籍時に「上野千鶴子」をどう体験し、これまでのキャリアにどう活用してきたのかを語った本。『情報生産者になる』の実践編とも言えるでしょう。
著者が本書に込めた想いや、裏話、そして上野ゼミ出身だからこそ語れるエピソード。
貴重な経験をシェアしていただきました。
第1部 著者陣によるエピソードトーク
■すべての基本スキルとしての情報発信者 ~坂爪慎吾さん~
一般社団法人ホワイトハンズ代表坂爪真吾さんは、『情報生産者になってみた』のいわば発起人。というのも、坂爪さんの別の書籍の担当編集者さんが偶然にも『情報生産者になる』の編集者だったという繋がりがあり、雑談がてら続編の提案をしたのが『情報生産者になってみた』が生まれたきっかけなのだとか。
坂爪さんは、この本を出版するにあたって、こんな想いがあったそうです。
“情報生産者になる”ためのスキルは、研究者に限らず、どんな仕事にも必要。ある意味基本のキとも言える。だけれども、意外とそれを学ぶ場がない。だからこそ、自分たちが上野先生から学んできたことをまとめたら貢献できるのではないか」
また、こんなお話もしてくださいました。
本は出してからが勝負。書く努力の倍以上売る努力をしろみたいなところがあって、自分もイベントを開催したり営業したりしている。そうした姿勢も上野ゼミのDNAだと思うが、書くだけでなく、読んでもらう=情報を届けるところまでが情報生産者の仕事。この姿勢が、これからの情報生産のスタンダードになっていくのではと思っている。
■「問い」にまっすぐに、突き動かされて ~大滝世津子さん~
鎌倉市で学童保育 鎌倉学び舎を運営する大滝さん。ゼミ在籍時を含め、10年ほど上野さんと関わってきたそうです。博士論文のテーマは“幼児の性自認“。「固定的な男女の上下関係が世の中にあって、それを壊せばいいという考えがあると思う。けれどもそもそも作らないためには?と考えたのが研究のスタート」だったといいます。
その研究は、今の職業にも活かされていました。
学童保育で子どもたちと接する中で、男女の違いだけではなく障がいや多様性がありながらも、誰にも共通して大切にしたいことがあるな、ということに気づいた。そして学童では、子どもたちの中で男女間の上下関係が固定的にならないような接し方を実践している。
実践から研究というパターンが多いなか、私は研究から実践をしている人なんです。
大学卒業後のキャリアの中で、身体を壊すなど様々な苦労をされながらも、自分のやりたいことに向かって「突き動かされるように生きてきた。これからどうなるか、自分でもわからない」と笑ってお話されたのがとても印象的でした。
■表も裏も、全部学びの材料 ~竹内慶至さん~
名古屋外国語大学准教授の竹内さんが上野ゼミに在籍していたのは1年間。しかしながら、研究室でバイトをしたり本の売り子をしたりと上野さんとの関わりは深く、上野さんから「今日は君とずっと一緒にいたね」と言われる日もあったそうです。
竹内さんが上野さんから学んだのは合理性と非合理性。
多くの教員が、自身が今やっている研究と、授業で学生に伝える内容が異なる中で、上野先生は、研究と教育と実践を同時進行していたといいます。
当時先生は雑誌で「ケアの社会学」という連載をしていて、その原稿ができるプロセスを「ケアの社会学」という授業で話していました。その授業で話していたことが翌年に雑誌に載っていて。授業中に出た学生からの質問や指摘が、雑誌掲載時に「こういう風に考えている人がいるのでこのように修正した」みたいな注釈として反映されていたこともありました。
こうして、一つの情報を言語化して世に出すまでのプロセスが仕組みとしてできているのは合理的なところ。けれど本を書いて出しておしまいじゃなくて。情報を多くの人に届けるためにはこんな泥臭い、非合理なこともやってるの?というのを、間近で見て感じました。上野先生からは、そのサイクルの回し方を学びました。
授業やゼミで直接指導する内容だけではなく、在り方や生き様ともいえる部分からも学生に影響を与えているところが、上野さんの凄さのひとつなのかもしれません。
第2部「情報生産者」を味わってみよう
第2部は参加者が少人数グループに分かれてのディスカッションタイム。
本の感想や普段感じているモヤモヤなど、グループごとに様々なテーマが挙がりました。
市議会議員、弁護士の方が参加していたグループでは、議会でも弁護士同士でも、まだまだジェンダー平等とは程遠い実態が話題に。
市議会でジェンダーの問題を持ち上げると『またそれか。そんなことより市の問題をやってくれよ』と言われるんです。そもそもの問題の根っこにジェンダー問題があるから進んでないのに…。ジェンダーの問題は、気づいていない人にとっては見えない。見えていない人に話をしても全く噛み合わない。
別のグループでも同様の話題が出ていました。
当事者にならないとわからない、気づかない。女性の場合は、それまで男女平等だと思ってきたのに妊娠、出産して初めて『あれ、女性ってこんな扱い受けてるの?』と気付いたりする。
「ある年代にとっては当たり前の認識も、違う年代の方には全く共感されないこともある。情報生産者として誤った情報を発信しないためには、可能な限り多様な人に事前に意見を聞くことが重要なのかも。今回の読書会は、課題意識を持っていない人に課題意識を持ってもらうための、自分の情報生産者としての在り方について考えるきっかけになった。
SNS等を通じて個人が情報を発信することは簡単になりましたが、“情報生産者”とは、世の中にある一次情報をただ集めてまとめて意味づけをする人ではなく、“情報”を“生産”するには、深く自分と向き合うことが必要だという観点でディスカッションしたグループもあったようです。
上野ゼミに所属していたのは二十歳前後の若者たち。自身の中で逃れられない“問い”を論文のテーマにした人が多かったのではと思う。ゼミの場を通して、自分の深いところをオープンにして話し合うことは、その場にいるメンバーお互いが、自分にも相手にも向き合ってないとできないことなんだろうなと思った
このコメントに対して上野ゼミ卒業生からは、当時を振り返ってこんな補足コメントも。
自分の中の問いが見つかってしまうと怖いんです。自分の中の繊細なところをさらけ出すことだから。頑張って出したものをダメ出しされるというのは、自分の最も大事なものが傷つけられるような経験なんですよね。。
書籍には「研究発表後には「心の出血多量」」「言葉の刃物」というワードが出てきますが、それほど本気で問いに向き合ったということなのでしょう。
これから卒論を書くという学生さんのいるグループもありました。ここでは学生さんから、卒論の論点の絞り方についての相談をしたそうです。このグループには著者の一人、大滝さんが参加していました。
大滝さんとディスカッションをする中で、自分の持っている疑問を掘り下げていくと、ある固定概念があることに気づきました。『では逆に、固定概念を持っていない人はどうして持っていないのか?ということを調べたら面白いのでは?』と具体的なアドバイスをいただきました。
また、別の学生さんはこんなことをシェアしてくださいました。
自分がこれまで情報生産者になれてなかったなと反省していて。オンラインで授業をしているので先生やクラスメイトと交流する機会が少なく、図書館もあまり利用できなくて情報を集める難しさを感じている。こういう制約がある中でどう問いを立てればいいのか?と聞いてみたところ、坂爪さんからは『制約があっても自分が吸収していこうとすればなんでも吸収できるし、納得する問が見つかれば情報は集められる。だから、自分の問いに集中して』と言ってもらえた。
正答率の高さを求めるテストと違い、社会に出ると、正解のない問いに向き合わされる場面が多々あります。
そんなとき、何を拠り所にして解決をすべきなのか迷うこともあるでしょう。著者2名から学生へのこれらのアドバイスは、どちらも「どんな時でも、自分の信じるものを信じ抜く強さを持て」というメッセージが込められているように思います。
これからまさに情報生産者になっていく学生と、すでに情報発信者として活躍している著者。両者のやりとりは、まさに上野ゼミのDNAが伝わっていく瞬間でした。
一方で、「情報の消費者にしかなれない、あるいは消費者にもなれない人へこの本をどうやって届けられるだろう?」と考えたグループもありました。
社会問題として表に出していいのだと知ることができない人も世の中にはたくさんいるはずで、そういう人たちにこそ、この本で伝えていることがきっと力になるはずなのに、という課題意識があります。
選ばれた一部の誰かだけではなく、誰でも情報生産者になっていいし、誰のどんな問いにも価値があるということを改めて感じた議論でした。
そこから、一人一人の困難を個人の問題にするのではなく、怒りや諦めを感じながらも、繋がりあって社会の不公正に対して行動する力を持ちたいよね、といった話に。
こうして集まり、語り合える状況にあることに感謝して、本書の冒頭に引用されている上野先生の言葉をここで皆で確認しました。
あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。
恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。
(上野千鶴子2019「平成31年度東京大学学部入学式祝辞」東京大学HP)
この勉強会も、弱さを認めあって繋がり、行動していけるコミュニティでありたいと願っています!
■次回のご案内
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日程:2022年4月24日(日)10時~11時半
次回は、また京大の動画講座を課題として
をテーマに勉強会を開催します。
ご関心のある方、ぜひご参加ください!
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