みんなのジェンダー勉強会#2「男性学・男性性研究」回レポート
みんなのジェンダー勉強会は、
「ジェンダーに問題意識を持って自分なりに学んできたけれど、一度体系的に学んでみたい。」
「同じように関心を持つ仲間と一緒に学ぶことで、学びを深めたい」
そんな方のために、有志で始めた自主勉強会。
1回目のレポートはこちら↓
京都大学の男女共同参画推進センターが無料公開中の「ジェンダー論」8つの公開講座を題材に、2か月に一度、オンラインで勉強会を開催しています。
2回目となる今回は、京都産業大学の伊藤公雄先生の講義を教材に
「男性学・男性性の研究の過去・現在・未来」について学びました。
男性性を学ぶことに「ちょっとした拒否感も」
男性性研究とは、「男性が、男性であるがゆえに生じる問題、悩み、葛藤」や「男らしさって一体何?」といった疑問を対象に、社会的・文化的・歴史的・医学的に考察をしていくこと。
男性という性別が、その人の生き方や考え方にどのように影響を及ぼすのかを考えます。
今回の勉強会の参加者は、たまたま全員が女性。
ジェンダーを学ぶ上で様々な切り口・テーマがありますが、男性学を扱うにあたっては
「実は、拒否感があった」
と打ち明けてくれるメンバーもいました。なぜなら、
「女性であることがこんなに大変なのに、『男性も大変だ』なんて話、聞く耳を持てない」
からだ、と。
第2回課題動画
京都産業大学伊藤公雄先生
「男性学・男性性研究の過去・現在・未来」
動画講座は京都大学ジェンダー論講座のページからご覧いただけます(2021年)
開催日:2021年7月11日
ファシリテーター:品川ようこ(みんなのジェンダー勉強会主催メンバー)
「男性性」とは?
「男性性」と聞いて何を思い浮かべますか?
伊藤先生の解説によると、「男らしさ」の構図は「優越志向」「所有志向」「権力志向」の3つ。イメージしやすいのは少年ジャンプの主人公でしょうか。
さらにファシリテーターからは講座外情報として、「男が、男らしさを証明する方法」も紹介。大正大学 田中俊之先生によると、それは「達成」と「逸脱」なのだそうです。
「達成」
一流企業への就職や有名大学の合格など、社会的に認められた価値を実現すること。
「逸脱」
一般から外れた行為をするによって自分のすごさを誇示しようとすること。
周りの男性を思い浮かべて、なんとなく「そうだよね」と納得できる気がします。
では、そんな男性性を研究する「男性学」とは、一体どんなものなのでしょう。
そもそも男性学・男性性研究は、女性学の裏返しではない
男性学を学ぶ前に、女性学(Women's Studies)誕生の背景について少し触れておきましょう。
女性学と呼ばれる学問が誕生したのは1970年代。
それまでの社会は男性を中心に構築されており、女性にとっては居心地の悪いものだったと捉え、女性の目で見つめ直して再構築していこうという学問が女性学です。
そこから少し遅れて登場した男性学ですが、
男性学(Men’s Studies)と聞くと、女性学の裏返しとして「男も差別されている」「男も被害者だ」という議論になりがちです。
実際、1970年代に男性学が誕生したときには心理学的アプローチが主で、
”男のつらさの発見”をしていくことで、そのつらさを癒すためのカウンセリングの場で活用されました。
しかし、男性性研究の本質は
近代社会に発生する様々な問題を、男性自身の視点で見つめ直し、解明し、より生きやすい社会を目指すこと。
このためMen’s Studiesではなく、The study of men/Men&Masculinitiesと表現されます。
前近代、「自覚されなかった」性差別
前近代、つまり世界が工業化される前は、時代や地域によって差はあるにせよ、多くの文化が世界を二項対立で把握する宇宙観を持っていました。
フランス語の女性名詞・男性名詞、東アジアの陰陽文化などがその例です。
あらかじめ世界図式に「男はこう」「女はこう」と織り込まれ、人々はそれで世界が成り立っていることに納得し、安定した生活を送っているため、性差別という概念がありません。
ところが近代産業社会に移り、二項対立の世界が終わりを告げます。
産業化が進み労働力が不足すると、男女問わず、そして子供も労働へ従事しました。
しかし子供は将来の労働者として学校に通うようになり、女性は妊娠・出産があるため労働力として計算しづらいため、やがて男性が労働の中心になっていきます。
そうすると、女性の役割は"労働力の再生産"、つまり、"男性のケアをして、また元気に働いてもらうこと"へとシフト。
男女の性別による分業が、前近代とは違うかたちで形成されていくのです。
男性は有償の生産労働へ、女性は無償の労働力再生産労働へ。
近代化を迎えた文化では、このワンパターンの分業がすすみました。
この状態を、イリイチは「安定的な前時代のジェンダーを破壊した」と表現しています。
ゆらぐ男性主導社会と日本
1970年頃、長引く工業社会から情報とサービス主軸の社会へ移っていく中で、人権問題が国際的に広がりを見せます。
先述の女性学の誕生もそのひとつ、男女のゆらぎが起こるのです。
そして1975年に第一回国際女性会議が開かれたことを皮切りに、それまで女性差別が根深かった欧米も含めて、急激に世界が男女平等の方向へ舵を切りました。
ただ、その中で出遅れたのが日本。それは何故か。
1970年代、日本はアメリカやノルウェー、イタリアよりも女性の労働力率は高く、OECD加盟国の中でもずば抜けて女性が働く国でした。
しかしバブル期には、長時間労働によって男性の収入が増加。
女性が外へ出て働くよりも、家庭を支えることが経済発展していく上で効率的となり、これが日本経済にとっての大きな成功体験となります。
1985年に男女雇用機会均等法が制定されるも、一方で専業主婦が優遇される税制が整備されるなど、「女性が働かない方が得をする」社会政策が提供されました。
そうした結果、多くの女性が働かないことを選び、女性の社会参画が遅れたのです。
男女格差をはかるジェンダーギャップ指数は、2021年3月発表の最新データでは日本は156か国中120位という結果となっています。
労働、社会のジェンダーレス化と男性性の危機(メンズクライシス)
こうして世界がダイバーシティ重視の社会へと移行しつつある今、男女関係なく「たくさんお金を稼げるほうがいい人材」という考え方もあります。
この考え方には問題をはらんでいるものの、これまで「マジョリティ(多数派)」だった「男性たち」が、近代工業の時代ほどは労働力として重視されなくなったことは事実。
産業構造が変わり、社会が変化していく中で、男性主導の時代が終わっているのにも関わらず
男性たちは「自分たちはマジョリティである」という幻想に囚われ、「何かを奪われている」という感情が生まれつつある
と伊藤教授は指摘しました。
そしてマジョリティとして感じている漠然とした不安・剥奪感が、マイノリティへの攻撃というかたちで表面化していることが、社会的な危機だとも指摘しています。
例えば男性による理由なき暴力やハラスメントの増加、など…。
この「メンズクライシス」を社会的マジョリティである男性の問題として捉え、自分自身で変革ができるような仕組みが必要というのが、伊藤教授の提案です。
では、世界ではどんな動きがあるのでしょうか。
男性性の変革、そのポイントはケアの視点
世界的に女性のエンパワーメント施策が推進される一方で、男性を対象としたジェンダー平等政策がすでに始まっている国もあります。講座ではEU、スウェーデン、タイの例が紹介されていました。
国際社会での男性を対象としたジェンダー平等政策のキーワードはこの2つ。ジェンダー平等に向けて男性自身が参画するという意味合いの「参画する男性」、そして「ケアする男性性」です。
特にEUにおいては、「Caring Masuculinity=ケアする男性性」をキーワードとして、男性が他者の存在、身体、人格、思いを十分に配慮する力を身につけることで、戦争の防止までを視野にいれているのだそうです。
と同時に、男性自身も「自分たちは自立している」という思い込みを捨て、他者からのケアを受け入れ感謝の気持ちを持つことが重要だと伊藤教授はお話されていました。
だれかをケアする視点と、自身がケアを受け入れる視点。
その両方が、対等な関係を築く上で必要なのです。
講座ではなかった情報として、勉強会では、日本における男性へのジェンダー政策も紹介。
一部自治体で電話相談窓口が設置されていたり、30%クラブやファザーリングジャパンなど民間主導のアクションもみられるものの、男女共同参画推進基本計画においては”男性視点”がだんだんとトーンダウンをしているのでは?という指摘をしました。
時代や文化によって「男らしさ、女らしさ」は変わる。だから…
これまで、"マジョリティとしての自己を捨てきれない男性"の問題として「男性学」をみてきましたが、もちろん女性も、時代の変化によって変わる男性の変化に注意を向けながら、どうしたら平等な関係が築けるかを考えていくべきです。
ここでの"平等"とは、"同じ"ということではありません。
それぞれの人間が持つ個性を個性として捉えて、誰もが活躍できる環境を整えていくことこそが"平等"のベース。性差別撤廃のためには、ジェンダーを入り口にしながら、多様性に対応していくための絶え間ない努力が必要なのです。伊藤教授はこのようにお話し、お互いがお互いを思いやる普遍的な大切さを伝えてくれました。
私たちが受け取った、男性学
講座全体をおさらいしたあとは、数名ずつに分かれて感想のシェアタイム。
参加者のみなさんから出た意見をご紹介します。
・『全裸監督』や『シン・エヴァンゲリオン』を観終わったばかり。実はこれらの作品は男性学の話だったのではないか?と感じた。今後作品を観るにあたって、男性学の視点が入ることで多面的に観れるようになると思う。
・アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)も含めて多様性を理解し、色々な意見を受け入れようというのはわかるけれど、全部を受け入れるのは現実的に不可能。そうなったときに、どこかで「受け入れないもの」を切り捨てることをしなくてはいけない。そんな矛盾も考えていきたい。
・近代的な男らしさの3構図として「優越志向・所有志向・権力志向」があるという話があったが、ある年代層の女性の中には、これらの要素を内包しているケースがあると思う。男女雇用機会均等法が制定された当時に就職し「男のように一生懸命働く」という強い意志がないとないと働き続けられなかった女性たちは、その構図の中にいた時には気づけないけれども、男性性を内包していることで、女性に対して加害者になっていた側面もあったかもしれない。
・自分がマジョリティになったときに、悪意なく「自分が普通」と発言をしてしまうことが、実はマイノリティ側に配慮できていないかもしれず、今回の講義を受けて「男性ってこんな気持ちなのかな?」と考えるきっかけになった。
・男性学って、マジョリティのマイノリティ化と、マジョリティとマイノリティの問題なのですね。男性学は「男はつらいよ」的な、男の大変さを扱う学問ではなく、つらさがあると理解したうえで、「ではどうハッピーになっていくか?」を前向きに考えていく学問なのだと知って安心した。
このように勉強会では、教材動画をただ観て終わりにするだけではなく
みんなで感想のシェアを通して多様な意見に触れることでさらに学びを深めることができます。
「ジェンダー」という言葉を聞くとそれだけで小難しいイメージを持つかもしれませんが、実はとても身近な問題で、少しだけでも覗いてみたら、ふとした日常に「もっと社会がよくなるタネ」を見つけることができるかもしれません。
■次回のご案内
次回の「みんなのジェンダー勉強会」は10月16日(土)10時〜11時半。
山内淳先生の講義についての学習会を開催します。
テーマは「なぜ性があるのかーー進化生態学的視点から」
友人・知人の紹介制となりますので、気になる方は主催メンバーにお声がけください。
https://peatix.com/event/3034256/view
(パスワードは直接お知らせします)
※ご参加について
該当講座の事前視聴必須
参加費1100円がかかります(レポート執筆をライターさんに依頼しているため)
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