アン・チファン「1st」(1990年、韓国)
アン・チファンは80年代後半から韓国の民主化運動に携わりながら音楽活動をしてきた「民衆歌謡」の歌手。音楽グループ「ノチャサ(歌を探し求める人々)」のメンバーだった。彼の歌の特徴はよく響く堂々とした歌声と少しばかり重々しい曲調である。
2曲目「クゴスロ(そこへ)」は明るいエネルギーを放っているフォーク・ロック調の曲で良い。3曲目「幸せは成績順ではないでしょう」では一転して児童合唱を取り入れている。思わせぶりなタイトルであり、曲の最後の子どもたちの笑い声が「幸せは成績順じゃないんだよ、そんなこともわからないの?」とでもいうような大人たちへの軽蔑を含んでいるように思われて興味深い。4曲目「白頭山よ!ハルラ山まで、ハルラ山よ!白頭山まで」は当時の韓国民衆歌謡に顕著な混声合唱を取り入れた行進曲調の歌である。
しかし、中でも一番瞠目するのが5曲目「クロチヨ?(そうでしょう?)」である。韓国の宮廷音楽をバックにアン・チファンが弾き語りをする歌なのだが、曲の冒頭で嵐のようなサウンド・エフェクトが流れ、ギシギシというようなドアが開くような音がする。そして男の声が「オモニ?(母さん?)」と言うのだが、物語性を感じさせる何かがある。
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