Aquarium "December's Children" (1986年、旧ソ連)
アクワリウムは旧ソ連時代から現在にかけて活躍しているロシアの国民的ロック・バンド。リーダーであるボリス・グレベンシコフ(Boris Grebenshikov)はBG(ベーゲー)の愛称で親しまれている。
このバンドの音楽性はとにかく幅広い。フォーク・ロック、サイケデリック、ブルース・ロック、レゲエ、ニュー・ウェイブ、ケルト音楽、エクスペリメンタル…80年代前半から中期にかけては実験的精神が旺盛だが、それでいてポップ。これはカリスマ前衛ジャズミュージシャンであったセルゲイ・クリョーヒン(Sergey Kuryokhin、故人)の協力によるところも大きいだろう。
さて、このアルバム "December's Children"はサウンド・エフェクト、サンプリング、電子音が飛び交う「カオスなポップ・ロックアルバム」と形容できるものだ。一曲目"Thirst"からサイケデリックで、曲中では女声合唱が組み込まれている。それでいて二曲目である次の歌が耳馴染みのいいバラードだったりして、次の展開がまったくといっていいほど読めない(それが魅力であるのだが)。
最後から二曲目の曲である"212-85-06(何とクレイジーなタイトル!)"のハチャメチャな演奏が終わった後、タイトル・トラックである"December's Children"でこのアルバムは幕を閉じるのであるが、この最後の曲が実に美しいのだ。ボリス・グレベンシコフによる囁くようなギターの弾き語りの後、弦楽とオルガンが抒情的なメロディを奏で、涙が止まらないほどの感動を覚える。この曲が表しているのは純粋な「美」そのものであり、それに尽きる。このアルバム全体を支配する濃厚な演奏の最後に聴かれるこの曲は、聴き手の耳を浄化する役割を果たしているようにも思われる。
アクワリウムは1983年にリリースした"Radio Africa"も非常にアート・ロック的で、良質なアルバムである。"Radio Africa"は後に旧ソ連国営レーベル"Melodiya"からオリジナルを一部編集したLPレコードが発売されているが(オリジナルは後にCD化された)、"December's Children"も1987年のアルバム "Aquarium"のB面に一部の曲が収録されている。