ヤンキース「ゴールデン・デラックス」(1980年、韓国)


ヤンキースは韓国のロックアーティストであるハム・ジュンア(故人)を中心に70~80年代に活動していたバンド。
まず聴いてみて感じるのが、これが本当に1980年のサウンドなのか、ということである。何も韓国の音楽が遅れている、と蔑むわけではないが、60年代の日本でいうグループ・サウンズのような音楽性である。
当時の日本はYMOやプラスティックスなどを中心に、欧米のクラフトワークのようなテクノ・ポップやデヴィッド・シルビアンのようなニューウェイブ(またはニューロマンティクス)に影響を受け、時には日本の音楽側が向こうのアーティストたちに刺激を与えていたケースも多々あった。日本の音楽と欧米の音楽が相互関係になり始めた時代だった。が、このヤンキースのアルバムを聴くとこの頃の韓国のアーティストたちはドメスティックで「閉ざされていた」中で活動していたのだな、と思わずにはいられない。
このことはヤンキースに限らず、他の同世代の韓国ロックバンドにも言えることである。ソンゴルメ(隼)、ファルチュロ(滑走路)、エトセトラ、エトセトラ。当時大学歌謡祭は数多くの学生ロックバンドを輩出したがどれも似たようなグループ・サウンズのような音楽性で、鮮烈さ・多様性に欠ける部分がある。時代的に彼らのそんな音楽スタイルを「韓国のニューウェイブ」と呼んでいいのか、いけないのか。
これもグローバル時代という言葉が生まれるはるか前の「閉ざされていた」韓国音楽界の(ないしは韓国社会そのものの)複雑な事情が反映された結果なのだろう。仮にタイムマシンで過去を遡り、このアルバムがリリースされた当時の韓国の人に、40年後、BTSという韓国のグループが世界中のリスナーを熱狂させ、韓国の音楽は海外進出を大成功させるよ、と言ったら果たして信じるだろうか。
なお、既に解散してしまったが2000年代に登場した韓国のロックバンドに「チャン・ギハとオルグルドゥル(顔たち)」というのがいるのだが、このヤンキースのアルバムのA面1曲目「プンムンヌロ トゥロソ(風の噂で聞いた)」をカヴァーしている。近年は韓国に限らず、日本でもどの国でも懐古趣味的な音楽の傾向があるようである。

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