第3回 工藤紘子さんの”こうしよう術”
何もかも手探りの小学校選び
はじめまして、工藤と申します。息子と夫の3人暮らし、小三の息子は地域の小学校普通級に在籍しています。マンガを描いたりぬいぐるみで遊ぶことが大好きで、興味のあることにはすごい集中力と想像力を発揮する息子は、興味のないことはやろうとせず、やり始めても注意力が散漫になり時間が掛かります。入学前は、就学に向けて不安もありました。それは3歳児検診の後で、医師から多動衝動性の傾向と軽度知的の可能性を伝えられたからです。
今は毎日楽しく通学していますが、就学前は、みんなと一緒に学べる普通級を希望しながらも、本当に息子にとって良いのはどんな環境なのか、ずっと分からずにとても悩んでいました。そこで年長の時に就学相談を受けに行ったんです。
傷ついた上に放り出された就学相談
就学相談では保護者の面談の他、息子は知能検査と行動観察を受けました。保育園や幼稚園などの就学前施設では就学相談を受ける児童に対して園での様子を記載する書面があり、保育園の園長先生たち形式に則って意見書を書いていただき、集団の中での息子の様子や特段困ることはない日々の様子を記載して事前に提出していたのですが、結果は支援級判定でした。その理由は、知能検査の数値が普通級には低く、行動観察でも集団生活には支援が必要ということでした。
初めて行く場所で初めて会う検査員と1対1の知能検査では、どんな子にとっても正確に検査することが容易ではない状況なのに、その点数だけで判定されてしまい、毎日息子の様子を見ている保育園の先生たちの意見は受け入れてもらえなかったんです。
それでも普通級に行きたいと伝えると「保護者の意向が尊重されるので普通級に通うことはできますが今、支援級に入らなかったら今後進級のタイミングで、やっぱり支援級に行きたいと言っても入れるかは分かりません。入学時のみ、支援級の席を確保します」とのこと。また、普通級でも支援員がつくこともあると聞いたのでそのようなお願いはできるか質問すると「普通級を選ぶということは保護者が支援を断っているのと同じなので、普通級での支援はありせん。もしも息子さんが他の子を傷つけることなどがあれば、他の子どもたちを守るために学校側が判断することはあります。支援が必要だと思うなら支援級に行くか、保護者が付き添ってください」とまで言われました。最終的には、普通級に行くならもう連絡はいりません、と就学相談から放り出されてしまったんです。
途方に暮れながら自力で調べているうちに「障害児を普通学校へ・全国連絡会」という団体に出会いました。
就学相談での結果を相談すると「あなたが受けた対応は正しくない」と言っていただき、地域の担当者さんと繋いでくれました。長年、教員として普通級でも支援級でも担任を経験した方で「学級内に障害児がいて困ったことはないし、むしろその子にとっても他の子にとっても一緒に学ぶことはとても良いこと。困ったことをする子に障がいの有無は関係なかった」と仰ってくれたんです。ひとりで悩んでいたことをを客観視することができ、普通級に入学したい気持ちを後押ししてもらいました。
下見は2校。事前相談で得られた采配
入学前の下見は、普通級と支援級がある学区内の小学校と、もう1つ、支援級はないものの保育園からのお友だちが多く通う予定だった隣の学区の小学校、2つの学校へ、いずれも学校公開期間に伺いました。2つめの学校では特別支援教室の先生のお話を伺うことができ、子どもたちの様子や活動内容もわかった他、普通級でちょっとした困難を抱えている子どもたちにどんな配慮がされているのかも垣間見ることもできました。特別支援教室は支援級判定が出ると通えないため、普通級でもサポートがあることが分かったのはとても良かったです。
下見をした後も悩みましたが、少しでも息子が安心できるようお友だちの多い隣の学区の普通級を希望先に決めました。療育の先生からは事前に「身体面ではなく情緒面に心配がある場合、見過ごされてしまう可能性が高いから、入学前にこちらから連絡して相談しておいた方が良い。入学後では遅い」とアドバイスいただき、教育委員会に越境入学の申請が受理された後、すぐに学校へ挨拶に行きました。
2月に副校長先生と、続いて3月に特別支援コーディネーターの先生と面談の機会をもらいました。丁寧に話を聞いてくださり、早くから息子の特性に対応していることを褒めてくださいました。息子の入学をもちろん歓迎すると仰った上で、「でももしもご本人が辛くなった時は学校にこだわり過ぎず、他の居場所も考えておいてほしい」とまで言ってくれたんです。おかげで入学後のことも意識できるようになりました。
息子にとって楽しい学校生活であるために
入学後、1年生の時は事前に面談してくれた特別支援コーディネーターの先生が担任になってくれて、とても心強かったです。先生方はみんなとても温かく、息子は特別支援教室専門員の先生のことも大好きでした。一年生の時はわたしが小学校の玄関先まで送っていたのですが、一人で校舎に入っていくことが難しい日など、特別支援教室専門員の先生などが玄関先まで迎えに来てくれたり、一緒に教室まで行ってくれていたんです。雨の日は、他の子にぶつからないように気にしながら、息子が自分で傘をたたみ終えるまで待ってくれるなど、授業以外でも多くの先生方が見守ってくれました。
音楽や図工の授業で先生や環境が変わると普段以上に衝動性が出てしまうので、そういったときは支援員の方がサポートしてくれましたが、できる限り先生とクラスメイトの中で生活できるよう配慮いただいていたようです。たとえば教室内に息子の席を2〜3ヶ所つくり、どこかに座っていられるように考慮してくれたり、授業が終わるまでじっとしていられない時は「先生の許可をもらっています」というプレートを首から下げて学校内を冒険させてくれていました。チャイムがなったら教室に戻ることや、他の教室には入らないといった約束をして、それでも衝動にかられて約束を破り、きっと担任の先生にクレームがあったこともあると思いますが、見守ってくれていたようです。
先生から、家庭での様子と学校での様子を連絡ノートで報告し合う提案をいただき、問題が起きても解決に向けて相談しあえることが大きな安心に繋がりました。常に息子にとって学校が楽しい場所であるように、息子のペースを重視しながら学校に馴染ませてくれたことに感謝しています。
連絡ノートでのやり取りは、進級して担任が変わっても引き継いでくれています。何かを解決するとまた新たな問題が出てくるようでもありましたが、息子も少しずつ成長して、3年生になったら突然席に座って授業を受けるようにもなりました。
就学相談では知的を理由に支援級と言われましたが、学校の先生方からは「情緒的に困難はあるものの、知的にはほぼほぼ問題ない」との言葉もあり、学校が見守ってくれたおかげだと思っています。判定通りに選択しない自分は勝手なのか、本当にこれで良いのか、とあの時はたくさん悩みましたが、息子にとってはいろんな子がいるこの環境が合っていたと思うし、子どもの可能性は無限大だと身に沁みて感じています。