2024年ベストアルバム TOP10
今年も年間ベストの時期がやってきたので便乗します。音楽的な趣味・嗜好は去年からあまり大きくは変わっていないけど、ライブ体験も含めて好きなジャンルをとことん突き詰められた1年でした。
あと、この記事の最後に2024年のベストソング200曲のプレイリストも貼ってあるので、そちらも良ければ是非。
それでは早速10位から↓
10. DORIS - Ultimate Love Songs Collection
Earl Sweatshirtの1stからのインスピレーションを予感させるDORISというアーティストはまだまだ謎に包まれている。内容も50曲/50分というストリーミング時代を象徴した配分であり、1,2分ほどで過ぎ去っていくコンパクトサイズのサントラの佇まい。まるで彼の人生を覗き見しているかのような、ノスタルジーなビート、時にメランコリーなメロディーが、ノンストップで表情を変え続ける。宅録ミュージシャンの手作り感が活きるアナログな質感は、シチュエーション問わずフィットし万能。想起したのはThe Avalanchesのようなプランダーフォニックス、J Dillaの「Donuts」のようなインストゥルメンタルヒップホップの体裁。気軽にアクセスできる即効性があり、ピークタイムのみを切り取ったあまりの潔さは、ある意味で全編通して熱量を維持し続けているともいえ、細かい連なりは逆説的に永遠性を生み出している。
※現在Apple Music配信なし。記事作成中にいつの間にか消えてた。
9. Larry Manteca - Zombie Mandingo
ミラノのプロデューサーLarry Mantecaによる架空のサウンドトラック。音楽も最高だけど、このアルバムに関してはコンセプトが興味深く、ルチオ・フルチのゾンビ映画やモンド映画などのB級映画に触発されているという。そんな不気味なインスパイアとは対照的に、鳴っている音は非常に洒脱で、ワールドミュージックやラウンジを通過した多国籍な響き。過度な集中を要求しない、適度にリラックスした感覚で聴けることから耳馴染みが良いし、音の転がり方も縦横無尽で飽きさせない。これまではグッドミュージックをディグることに意識を向けていたけど、今年は音楽鑑賞が観光という意味合いにシフトした年だったなと思う。このアルバムはそんなことを実感させる一枚であったし、異国文化への妄想を掻き立て、自分がまだまだ知識の浅いフィールドを模索するためのきっかけになった。妖しげな音の入り口に手招きしてくる未知との遭遇的な一枚。
8. Kim Gordon - The Collective
オルタナ界の女帝Kim Gordonの最新ソロアルバム。インダストリアルやノー・ウェーブといった多勢に迎合しないアングラ精神は相変わらず超クールだが、本作で衝撃的だったトピックは、ここに来てまさかのトラップの導入である。元来のノイジーなギターとモダンなビートを折衷した新境地であるし、それでいて決して遊びも忘れていない。例えば1曲目の「Bye Bye」の歌詞なんて、即興で旅行の持ち物リストを呟いているだけなのに、ビートと相まって異様なカッコ良さがある。Sonic Youthでの活動は間違いなく重要なハイライトであるが、バンドのしがらみから解放された現在のモードから、いまだに殻を打ち破ろうとする野心的な試みが窺える。ちなみに今年のフジロックで観たアーティストでは一番カッコよくて、全員女性で固められた布陣から放たれる妥協のないサウンドに打ち震えた。彼女はオルタナ史のロックスターであり、ファッションアイコンであり、革命家である。
7. Marcos Valle - Túnel Acústico
ブラジル音楽の巨匠Marcos Valleによる極上の一枚。Milton Nascimentoも今年新譜をリリースしていたし、ブラジルのアーティストは80歳を超えても精力的な活動を続けている。その裏付けと言えるかはわからないが、開放的な音楽を耳にするたびにストレスとは程遠い世界で奏でられているのだなと思う。今まではMPBの代表的なアーティストとして認識していたが、今作はジャジーなアレンジが効いていて、フュージョンやAORとの接続も果たしている。ディスコを彷彿とさせるギターワークに陽気なアンサンブル、ドラマのグルーヴも軽やかかつ絶妙に引っ掛かりのある独特な揺らぎを醸し出していて新鮮。膨大なキャリアを網羅しきれていないところもあり、まだ引き出しのほんの一部分を垣間見たに過ぎないが、どの瞬間を切り取っても洒脱で遊びが効いている。グローバルな視野を広げることが音楽体験の日々の充足に繋がってきているからこそ、生でこういう巨匠の音も味わってみたい。
6. Claude Fontaine - La Mer
レゲエ/ボサノヴァに溶け合うウィスパーボイスが限りなく心地良いLA出身のSSWによる一枚で昼下がりを特別なものにしてくれる。ジャマイカ・ブラジル直系のサウンドも絶品だが、その要素を輸入したLA発の独自のブレンド感覚/再解釈が優れていて、親密な距離感でムードを演出する。土着的なイメージが先行するこれらのジャンルにモダナイズされるディーヴァの貫禄は、デビューアルバムとは思えないくらいの隙のなさがある。演奏を盤石なものにしているプレイヤーたちも強者揃いで、King TubbyやLee Perryと仕事をしてきた経歴の持ち主がいたりと相当本気である。風通しのよいこのサウンドはワールドミュージック入門にこの上なく適しているし、違和感なく溶け込んでくれる懐の広さがあるので激推しする。比較的エレクトロ、R&B、ロックをよく聴く自分にとっては、カラッとしていて熱量で迫ってくる音楽ではないから、程よくリラックスしたいときに愛聴していた。
5. The Smile - Cutouts
やっぱりトム・ヨークはフェイバリットアーティストなので年間ベストに入ってしまう。精力的すぎて今年2枚も新譜をリリースしたが、アートロック色の強い2ndよりも、1stのポストパンクに回帰した本作の方が個人的には好み。3曲目の「Zero Sum」なんかを聴くと、ジョニーのギターがやんちゃしてるし、トムとジョニーからしたら、Radioheadの「In Rainbows」以来の純然なロック路線であるThe Smileは、現代音楽を経てからこその予測不能なアプローチがあって、スリリングな享楽的体験に導いてくれる。このバンドに毎度期待しているのは、ジャズドラマーであるトム・スキナーの緻密かつ崩された独特なフレーズで、気まぐれかと思うほどの有機的な足し引きのセンスに惚れ惚れする。ハイペースな創作は、時に飽和してしまう危険を孕んでいるが、リスキーな綱渡りをしながらも今後の展望を見せてほしい。だがやはりRadioheadもそろそろ再始動してほしいところ。
4. Jessica Pratt - Here in the Pitch
コケティッシュで微睡のある歌声で綴られる至高のフォークは蠱惑的。童話の世界に足を踏み入れたかのようなパステルカラーに包み込まれ、地に足をつける感覚がなくなる。暖かいんだけどどこかに闇を携えた茫洋とした連なりが現世から切り離す。フォークといえば太陽に照らされたイメージを勝手に抱いているが、この一枚はひたすらに光から遠ざかり、ベッドルームで無抵抗に横たわることを誘惑してくる。無我の境地に足を踏み入れることこそが、ある意味で誠実な音楽体験ともいえる。昨今、なにかとヒップホップやトラックメイカーが注目される時代だが、フォークが重要な位置を占めているのは明らか。そして曲に寄り添う朧げな歌詞もこれまた沁みる。ナイーブさを持ち合わせながらも成熟した人生観からの微かな囁きは、内省的に自己投影する機会を与え、それでいてそれらに向き合うことを強制しない距離感が保たれている。ある者にとってはセラピーとなり、救いを仄めかす淡さと脆さが丹念に紡がれたフォークミュージックの真髄。
3. Caribou - Honey
前作の「Suddenly」から親しみのあるポップミュージックに接近し、今作ではさらにハウスミュージックを取り入れて踊ることへの意義を高めた。もはやDaphni名義でリリースしても良さそうなくらいだが、あくまでもライブはバンドセットで試みるあたり他のエレクトロ勢とはアプローチが違う。打ち込みのビートが生ドラムの躍動へと変わるだけで、多彩な表情を見せ、生の質感がもたらす手触りは確かにあるはず。「Honey」や「Volume」といったハウスは音源とライブのギャップを実感できる好例だが、「Climbing」のように生への執着を最初から提示してくるインディートロニカもあり、バラエティに富んでいる。これまてはサイケだったりフォークトロニカだったりとディープなリスナーに向けた音楽を志向してきた彼が、20年近いキャリアを経て、今が最もポップな輝きを放っているのは面白い。自分自身も前作を聴いてから、これまで以上に一気に興味が湧いたアーティストである。こうした二重の側面を心得てるアーティストは何気に貴重な存在だと思う。
2. Jamie xx - In Waves
実に9年ものインターバルを経てようやくJamie xxの新作を聴ける喜び。正直なところ一周目はアルバム全体よりも、断続的にリリースされていたシングル群の方が好みだったが、よくよく振り返ってみれば、彼の曲はスルメ的に魅力を増幅する性質がある。それをハッキリと確信したのは11月の来日公演を目の当たりにしてから。イヤホンを通すよりも、大音量で祝祭的な熱気に身を投じたときに、あらゆる曲がアンセムへと化ける。本当にアルバムをまだ2枚しか出していないのかというほどに耳に焼き付く曲が多く、フレンドリーなメロディと散りばめられたサンプリングの虜になる。ゲストも色とりどりで、実質The xxの再始動を果たした「Waited All Night」、The Avalanchesを迎えた「All You Children」、中でもHoney Dijonのシカゴハウスと共鳴する「Buddy on the Floor」は相当ヘビロテした今年のベストダンストラック。前作のスローなエレクトロから一気に舵を切りドライブさせた今作は、今後ダンスミュージックのクラシックとなるであろう風格がある。
1. Floating Points - Cascade
宇多田ヒカルとのコラボレーションでコアなテクノリスナーだけでなく、大衆へ大きな認知度を獲得したFloating Points満を持しての新作。ここ数年のエレクトロミュージックでぶっちぎりの完成度だと思う。音の作り込みと情報量が凄すぎて、正直どんな頭をしてたらこんなアルバムを完成させられるのか訳がわからないが、それでいて高次元のダンストラックとして機能し、エッジの効いた攻撃的な興奮を持続させる。抑制された状態から一気に解放されるあの瞬間がダンスフロアにおいてのハイライトであるが、そのタイミングにおいても完璧である。クラシックの素養もありインテリジェンスな彼が、はじめてアグレッシブな属性を纏わせながら狂おしいほどにクラバーのハートを射抜く。ただそれは緻密なビートの移り変わりであったり、液体の流動性に見立てたモジュラーシンセの息遣いであったり、ロジカルな思考と自然法則的な感性の両立から生み出される稀有なセンスだからこそ成立している。個人的には「Afflecks Palace」における終盤の生ドラムによる怒涛の幕引きは新境地だった。ずっと見たかったFloating Pointsのモードが実現した一枚であり、今年最も熱狂させてくれたダントツのベストアルバム。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。最後に今年の総括的なプレイリストを貼ります。一応曲順はなんとなく似た音やジャンルごとに固まっているので、好みのチャプターを見つけてもらえれば楽しめると思います。膨大なのでシャッフルしてもラジオ感覚でもつまみ食いもいけます。良ければ是非!
てはまた来年👋