身につまされる衰退のスケッチ 読むのをとても楽しみにしつつ、身につまされそうでページを開くのがむちゃくちゃに怖かった。 この本はphaさんが40代中盤になり”若さが完全に過ぎ去ってしまった”と感じている最中の”衰退のスケッチ”である。 この本で書かれているようなことは、phaさんと同世代のぼくには心当たりがあるどころではなく、そのほとんどすべてが自分にも起こっていると感じる。 日々、確かに感じている衰退だが、正面から向き合う勇気はなかなか出ない。そんなすべてが言語
テイストとフレーヴァー 料理を学んでいると、しばしばテイスト(taste)とフレイヴァー(flavour)の違いについて考えさせられる。 テイストはいわゆる味。舌で感じるもの。 フレイヴァーは味わい、風味。味や香りや食感が渾然一体となった感覚。 SNSでバズり、勝手に流れてくるような料理はテイストに寄ったものが多いと感じる。今は簡単に旨味を重ね合わせていくことができる。「……そりゃ確かに美味しいでしょうよ」という組み合わせ。 岩村暢子さんの『残念和食にもワケがある』に
自分に聞いてみる。 「今日は何が食べたい?」 そんな前向きな元気もなかったら、こういう聞き方でもいいと山口さんは言う。 「何は食べたくない?」 自分のために料理を作るということ。 それは”心の中に『深夜食堂』の店主と『孤独のグルメ』の井之頭五郎を住まわせ”るようなこと。 客が本当に望んでいるものを、しれっと差し出す店主。 勘で選んだ店の料理を大いに楽しみつつ、自己との対話を深めていく客。 料理をすれば、その両方の役割ができる。作り終わった後も、フィードバックが始まる。
誰かに任せればいいのに!曹洞宗の開祖、道元が著したもののひとつに『典座教訓』がある。典座(てんぞ)というのは、お寺で食事を用意する係の人のこと。 典座にまつわるエピソードが面白いので、2つ紹介したい。 道元が宋の港に到着し、上陸許可を待っていたときのこと。61歳の老僧が桑の実(一説には椎茸)を買いに来た。 道元にとっては、宋に来たばかり。初めての中国の僧との出会いで、興奮気味。お茶を差し上げたりして、仏法の話がしたくてたまらない。そして「ご馳走しますので、今日はここに泊
善悪は組み合わせ ぼくがとても大切にしている考え方がある。 スピノザの「善悪は組み合わせ」という概念だ。 子どもの頃はファミコンしかやっていた記憶がないが、今ぼくはゲームからは距離を置くようにした。ハマりやすい性格であるのと、時間に融通が効くフリーランスなので、面白いゲームがあると1日12時間とか平気でやってしまう。 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』なんて無茶苦茶やりたいが、手を出したら生活が崩壊するとわかっているので、手を出さない。ゲーム機があると買
長渕好きのインドネシア人本書の大筋はこうだ。 日本には18万3000人の在日ムスリムがいる。そして日本一小さな県、香川県にも800人のインドネシア系ムスリムからなるコミュニティがある。しかし香川県には大事な信仰の場である「モスク」がまだない。 本書の主人公のような存在、インドネシア人のフィカルさんは、流暢な讃岐弁を操り、船の溶接工をしている38歳(2019年時)。日本に来て15年以上が経ち、日本人と結婚し、3人の娘がいる。長渕剛、松山千春、演歌などを愛する、義理と人情の男
朝食を買うのもまだ慣れてない 台湾2日め。朝食を買いに。台湾には、昼までやっている朝食専門の店が結構ある。香川の昼だけやっているうどん屋みたいなものかも。 その場で食べている人もいるけど、ビニール袋にクレープや、サンドイッチ、豆乳を入れてテイクアウトする人が多い。朝食のテイクアウトが多いのはタイも同じだった。あまりの人だかりにまだまだビビって、出来合いのサンドイッチと豆乳だけ注文。ソイミルク、で通じる。 国立故宮博物院へ九份も行ったし、まずは観光を抑えておくか、という気分
歴史ある問屋街、迪化街(ディーホアジェ)へ九份から台北へ戻る。帰りはバスで直行。予約なんてしなくてICカードをただかざして長距離バスにも乗れるのが嬉しい。約80分。 同行した友人たちは、台湾旅行の手練で、したいこと、食べたいこと、買うお土産など定番が決まっていて清々しい。これもひとつのミニマリズムかなと思う。2泊で帰ってしまうので、早々にお土産をゲットしにいくことに。 そして、迪化街(ディーホアジェ)へ。さまざまな食品や、工芸品などを扱っている問屋街のような街。友人たちの
パラレルワールド台湾 台湾は2018年に母親とトルコ旅行をする時に、トランジットで降り立ったことがある。小籠包、マンゴーかき氷、お茶のお土産などを買って、数時間だけれどとても楽しみ。 街並みや人に懐かしさと、レトロ感があり、タイムスリップしたというよりは、日本もこうありえたかもしれないというパラレルワールドだと感じたのをよく覚えている。かき氷を食べたときも、地元の人が「こっちに並ぶんだよ」みたいに教えてくれて、人が親切だったのも印象深い。 空港でまずは、デビットクレジット
生粋の準備人 準備をすることが好きだ。 登山やキャンプ、旅の準備をすることは、本番とは別の、独特の楽しみがあると思う。 ぼくの好きな香山さんの『ビルドの説』にも、海外旅行へ行くときに踏む手順が紹介されている。準備好きは、他の人の準備の方法を眺めてもワクワクしてしまうのだ。 この『香山哲のプロジェクト発酵記』も、連載の準備の連載という形を取っている。思えば『水銀柱』も、香山さんが開催された個展の準備の様子を描いたものだった。生粋の準備人だ。(『ベルリンうわの空』もすべての
マスクと同調圧力旅先で外国人としていることが、たまらなく好きだ。 今ならマスクがわかりやすいかもしれない。 日本にいると、しなくてもいいシチュエーションでも、余計なことを言ってくる人もいるかもしれず、無用なトラブルに巻き込まれるのも嫌だし、そうなるぐらいならしておこうか、という判断になる。 そうして、一度始めたものがなかなかやめられない。 先日訪れたタイでは、バンコクなど都会ではマスクもしている人もいたが、島ではほぼ皆無で、マスクの存在を忘れた。セブンイレブンの店員さ
猫の愛で方論坂本美雨さんの子育て日記『ただ、一緒に生きている』を読んでいるとこんなことが書いてあった。坂本さんは超がつく猫好きで、「猫吸い」と呼ばれるような猫の愛で方をする。(本の中では丸く寝ている猫の真ん中に深く顔を埋める行為が「ぶぁふぉっ」と呼ばれている) 坂本さんの娘さんもまた猫が好きだけれども、坂本さんほど積極的にかまったり、撫でたりするわけではない。そして坂本さんは、娘は自分ほどは猫が好きではないのだなと感じてしまう。しかし、その時に、昔の恋人から「愛し方を押しつ