イオン・三越伊勢丹:共に「新中計」で欠けるモノ
思想観点では「他山の石」「消費者観点の自社の強み・使命」と「縮小受け入れる勇気・戦略」、事業観点では「実店舗」と「クレジットカード」ではないだろうか。イオンの「店舗じゃない部分への投資」(リンク・日経記事)や、三越伊勢丹社長の「(三越日本橋店の)リモデル(改装)が失敗しても大丈夫」発言(リンク・ダイアモンド記事)に現れている。
両社中計のロジック(リンク・両社中計資料)を拝見すると、業績不振の原因となる「環境変化」と「組織体制」を整理し、それぞれに対して「対症療法」的に施策を打つ流れとなっている。両社とも最前面に打ち出した「EC強化」が、明らかにAmazonやZOZOTOWN台頭への直接対処である点が端的な例証である。ここに「他山の石」と「消費者から見た自社の強み・使命」の思想欠如が見られるのだ。
1つ目の思想である「他山の石」だが、セブン&アイがすでに「オムニセブン」で、莫大な資金とカリスマ経営者という大きな対価を払って、失敗事例を作ってくれている。海外を見れば、中国家電大手Suningの失敗事例などもある。教訓は、1)実店舗を持つことがEC展開には、定価や利益・コスト配分などの内部相反を産み、むしろ足枷となること、2)すでにAmazonなどが洗練されたサービスを提供する中で、既存の小売がECを展開して消費者にもたらせる付加価値が少ないこと、と思われる。
上段を踏まえ重要となるのが、2つ目の思想「消費者観点の自社の強み・使命」である。消費者向けビジネスは、「イオンモールは/伊勢丹はxxxをするところ」という、習慣に基づくブランドへの「期待値」が存在する。特にイオンや三越伊勢丹のような(ZOZOに比べたら)「老舗」ブランドは、この「期待値」こそが価値である。市場規模が縮小しているからといって、すぐこれらを蔑ろにして、流行を追って他社の二番煎じに興じるのでは、消費者から見れば「存在価値」自体がなくなる恐れがある。
消費者が固有名詞でイオン・三越伊勢丹を利用する「期待値」をまとめ、「期待値」を満たしてきた自社の「強み」を再整理し、「強み」に基づいて自社の消費者に対する「使命」を定義する。そしてこの「使命」をよりよく果たす「将来像」を提起することこそが、新中計に求められていたことではないだろうか。
ここに、事業観点で欠けている「実店舗」と「クレジットカード」が関係する。なぜなら消費者にとっては、快適で洗練された実店舗空間に足を運ぶこと、ポイント率の高いクレジットカードを利用できることが、固有名詞でイオン・三越伊勢丹を利用する際の重要な「期待値」であり、両社の「強み」なのである。そして、この点に基づく「使命」定義として、例えば「消費者に、リアル空間での楽しく快適な消費体験を実現する、インフラを提供すること」があるのではないだろうか。
「強み」を生かして「使命」を実現する「将来像」として、例えば下記があり得るのではないだろうか。
・地域の工房やベンチャーに資金援助すると同時に、イベント・巡回販売を各実店舗で行い、購入したクレジットカードユーザーには高ポイントや低金利分割を提供する
---クレカAppに実店舗イベントプッシュ通知や、クラウドファンディング機能を持たせることも、小さな機能だが客寄せに効果
・三越伊勢丹カードユーザーに、予約制のファッションコーディネーターサービスを提供し、季節の買い物をサポートする
---クレカ購買記録により、ユーザーのプロポーションや好みもあらかじめ把握できる
・イオンモールは、服装やインテリアなどの収益性が低い自社売り場を縮小する代わりに、地域の個人サービス業者や医療・健体、学習塾・成人教育などのテナントを増やし、クレカ決済やポイントを提供することで、コンパクトシティに貢献するとともに、顧客を囲い込み
---将来的には自宅とイオンモールを往復するためのライドシェアサービスを提供することもできる
最後に付け加えると、それでもメガトレンドとしての「ECシフト」や「少子化」は避けられない。ここに3つ目の思想である「縮小を受け入れる勇気・戦略」が重要となる。つまり、「攻めの投資」に安易に走るのではなく、「使命」定義と市場環境を鑑みて、自社の「適正規模・リスク」を財務観点で割り出し、資産売却・転用も原資とした株主・従業員還元を高めることである。消極的に見えるかもしれないが、株主から見れば業績リスクを減らして安定配当を得られ、従業員から見れば「無駄な仕事」の負担を減らせ、最も重要なのは、消費者を「置いていく」ことが少なくなるのではないだろうか。
さまざまな「大人の事情」があったことは察する。両社のような歴史ある大企業にとってはなおさらだろう。しかし、よく両社のお店にお世話になった消費者としては、寂しさを拭えない。
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO24554050S7A211C1TI1000
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO24554050S7A211C1TI1000
http://diamond.jp/articles/-/149133?display=b
http://diamond.jp/articles/-/149133?display=b
https://www.aeon.info/export/sites/default/ir/policy/pdf/AEON_Group_Medium-term_Management_Plan_jp.pdf
http://www.imhds.co.jp/ir/special01.html