[3]ビットコインは消えるが、インフラは大きく生きる
サマリー:BCは矛盾を孕んだ「投機商品」であり、早晩消える。しかし、「投資商品を、売却せずに直接決済に使用する」BC決済の思想・インフラは大きく羽ばたくことが予想される。
ビットコイン(BC)は、「投機(投資)商品」であり「通貨」ではない。何故なら、人々がBCを保有する目的が「円建ての値上がり」である以上、安定した価値尺度は持ち得ない上、(将来の値上がりを放棄する事になる)支払いにあえて用いる動機もない、つまり値上がりすればするほど「通貨としての本質を失う」からだ。その化けの皮が剥がれれば、デジタルデータでしかないBCは、チューリップの球根以下だろう。制度上の不備による「分裂」が、逆に値上がりを呼ぶ事自体、すでにバブルである事を証明している。
しかし面白いのは、BC決済の「(流動性が高い)投資商品を、通貨に換金することなく、(低コストで)決済に用いる機能」である。BCは消滅しても、この「機能」を実現するインフラは、「本質的なFintech」を体現する新しい決済モデルとして、金融の風景を大きく変えるになると想定される。
一例として、具体的な決済モデルは下記である。1)消費者は余剰資金を主に、金利がほとんどない銀行預金ではなく、配当と値上がりが期待できるファンド投資(債券、株式ETF、VCなど)として保有する。2)店舗での支払いの際は、スマホ決済APP(決済プラットホーム企業が展開)から、ファンドの持分を直接支払いに用いる。3)決済プラットホーム企業は、「日本円」を店舗に振り込む一方、消費者が支払ったファンド持分を市場で売却する。すなわち、決済プラットホームがディーラーに似た働きをするのだ。もしくは上記モデル以外にも、ファンド残高を抵当とした短期融資を決済プラットホームが提供する事も可能である。これらは本質的に「投資商品を、換金せずに、直接決済に用いる機能」を実現したのである。
このようなモデルは金融を大きく変える---一般市民の「直接金融」への参加を大きく促進し、資金の流れを加速させるとともに、一般市民が得るリターンのシェアを増やすのである。日本の現状では、なおさら重要となっていることであるのは明白だ。またこのモデルは、ブロックチェーンによる大量取引データの安価でセキュアな処理に依存し、「ITテクノロジーで金融ビジネスモデルを変革する」Fintechの本質を体現するものとなる。
ただし、明らかなリスクと困難も伴う。上記モデルは、銀行(間接金融)システムを根本的に代替するものであり、大幅な淘汰・再編が起こり得る。また、リーマンショックのような重大な信用不安が発生した場合、証券価格の急落と急増する現金需要に、上記の決済システムが耐えられるかは大きな不安が残る。
そのため、すぐに法定通貨を代替するものとはならないが、市民の「もう一つのサイフ」ができる可能性は大いにあるのではないか。