爪切り1回分のストーリー「ハーツサワー」〜パーティー会場は上履きで〜
その日僕はいつものようにパーティー会場へ来ていた。
シャンパンが僕の喉を通る頃、その女性はどこからともなく現れた。
「素敵なドレスですね!」
「いえいえ、安物ですわよ。」
「それじゃあ着る方が素敵ってことですかね。」
この冗談が上手くいったかはさておき、
この日初対面の彼女との会話は盛り上がった。
「来月もここでパーティーが開かれますが
またお会いできますでしょうか?」
僕は別れ際、柄にもなく積極的なセリフを口走った。
彼女は少し寂しげな顔をしながらこう言った。
「そうですね。貴方との時間は凄く楽しかったけれど、
私 実はパーティーというものが苦手なの。
一応こんな風に外見だけは、それなりになってるつもりでしょうけど、本当は学生時代おてんばで、上履きで廊下を走り回ってよく先生に怒られたわ。ヒールよりも上履きの女なの。」
上履きと聞いて僕にも思い当たる節があった。
学生時代の僕は家にいる時以外は上履きで過ごしていた。
校内は勿論のこと、商店街、ゲームセンター、図書館、果ては近所の夏祭り、、。
学校でついたあだ名が上履き王子!
「僕も上履きは好きです。それならばこうしませんか!?〇〇〇〇〇〇〇〇!」
「まぁ、それは素敵ですわね!」
〜1ヶ月後〜
煌びやかな会場に一際異質な2人が現れた。
ドレスアップした衣装とは裏腹な足元はくたびれた上履きの2人。
この日のパーティーの主役は他の誰でもない、
学生時代に愛した履物で会場を走り回った僕らであった。