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医師、中小企業診断士を目指す

55歳の正月、医師として臨床と研究の両方で働いてきた彼は中小企業診断士の資格を取ろうと決意した。

長年医師として働いてきて、彼は製薬会社の在り方に改善の余地があると考えていた。製薬会社は患者のために薬を作るが、その薬を医師に売ろうとする。しかし薬を必要としているのは患者だ。製薬会社が直接患者に薬を紹介し、患者が薬を選べるように仕組みを変えるべきだ。患者と製薬会社を繋ぐ役割が必要だ。
彼はそう考えた。

では、どうすれば仕組みを変えることができるか。
中小企業診断士の資格を取れば、製薬会社と患者を繋ぐコンサルタントとして、厚生労働省の内部に入れる。厚生労働省の中から仕組みを変えてしまおうという計画である。

それは、医学の世界で20年以上働いてきた彼にとって、一大転換点だった。
中小企業診断士の試験は7科目あるが、経済だの経営だの会計だの、理系純粋培養の彼にとって完全なる未知の分野だ。55歳、老眼、専門外、いくつものハンデ。
それでも彼は挑戦を開始した。

iPadとワイヤレスイヤホンを持ち歩き、過去問を解いたり動画を観たり、隙間時間があれば勉強する生活が始まった。
入院病棟のある病院に勤める医師は、ほぼ例外なく家に帰れない。一か月に一回パートナーと過ごす時でさえも、彼は勉強を絶やさなかった。

中小企業診断士の合格を目指す人が早朝にオンライン勉強会を開催していることを知った彼は、試しに参加してみた。
参加者の中で、医師などという完全なる門外漢は彼一人だった。
しかも参加者はそれぞれ使っている教材が違うので、それぞれ進捗がバラバラだった。
それでも彼は、オンライン勉強会に参加することを日課にした。出勤前にオンライン勉強会に参加し、その後20キロほど走りに出かけてリフレッシュし、勤務中は業務の合間に勉強したり仮眠を取ったりという、ストイックな生活だった。

2024年、受験。
実際に受験すると、医局の反応が変わった。今までは引退したいと言っても聞く耳を持たなかったのに、「こいつ本当に受験したぞ」と驚き、「本当に引退するなら引退計画を作れ」というところまで変化した。

目の前にいる10歳の患者が薬を必要としている。
海外では承認されている薬が、日本では承認されない。
厚生労働省の認可が下りない。
無力感にさいなまれながら、彼の闘いは続く。
患者のための医療を目指して。



#かなえたい夢

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