[後編]台所から暮らしをつくりだす衣服-山形/東京 Osode-
※前編はこちら
山形の産地で知った手仕事の世界
民さん(以下/民)
ここからはインタビュー後編です。
「Osode」のデザイナー 位部さんに
引き続きおはなしをお聞きしていきます。
位部恵理さん(以下/位部)
よろしくお願いします。
Osodeを立ち上げるまでには
日本の繊維産地との出会いがあったので、
後編ではその話からさせていただこうかな。
東日本大震災後、出身地の山形に移住しました。
それから、まずしたことは
機屋さんや伝統工芸に携わる方の工房など
山形の地場産業を見て回ることでした。
手横編機によるニット製品が
つくられている工場へも見学に行ったりして。
そういった動きのなかでうまれた
服飾学校出身の若い世代とのつながりから
東京の「セコリ荘」を教えてもらいました。
セコリ荘は日本の繊維産地に興味がある方を
つなぐような「場」で、そこから
全国の産地にも注目するようになり、
山形のほかにも静岡の遠州、兵庫の播州など
さまざまな繊維産地を知っていくわけですが、
その中で出会ったのが広島の「備後絣」でした。
民
備後絣を初めて知ったとき、どんな感想をもちましたか?
位部
第一印象で、「良い生地だな」と。
パッと見るだけでも良い生地だな
ってわかるのは、すごいことですよ。
厚みがふっくらとしていて独特の風合いがあり、
藍染や墨染の色合いもすてきです。
もう一つすごいと思うのは
「手仕事と価格のバランス」が良いことです。
一般的な布と比べると伝統工芸布は値段が高くなりますが
備後絣は、数多くの手仕事によって生みだされる
伝統工芸布なのに普段使いできる価格帯で入手できます。
そもそも、備後絣が昔から日常使いの生地だった
ということも関係しているとは思うのですが。
ちなみに、Osodeを始めたときも
備後絣を使った衣類は評判が良くて
なんでだろう?と考えたら、一着をまとったときに
肌にふれる面積が広いからじゃないかな、と感じました。
伝統工芸布を使った製品の中でも
よく見かけるのはコースターやランチョンマットなど
面積の小さい小物がほとんどだったりします。
その点、割烹着などの大きな面積で布を見ると
その布のもつ「良さ」をより強く感じてもらえますね。
「衣服の自給率」をあげるには
民
さて、そろそろOsodeの話をお聞きしたいのですが
最初に展示会を開催されたのはいつでしたか?
位部
2016年〜2017年に大阪で展示会をしたのが最初で、
10種類ぐらいのデザインを受注販売しました。
洋裁学校を卒業して7〜8年後でした。
そんなにも時間がかかったのは
洋裁学校を出てすぐのときは子育てが大変な時期で
自分のブランドを立ち上げるなんて力量は
ぜんぜんなかった、というのが正直なところです。
あとは、ものづくりの現場を間近に見ると
「工場で衣服を作ること」に難しさを感じてしまって。
それで考えたのは、
「やりたいことは自分でやるしかない」ということ。
私は、衣類は身近な「ツール」だと考えているので、
Osodeではただ、服を作って販売するのではなく
料理のイベントをやってみたり身近なところから
発想することを大切に進めていきました。
民
イベントといえばOsodeのホームページにあった
「婦人会活動」の紹介もとても印象に残っています。
特に、「自分で作ること、衣服の自給率アップも推奨しています」
という一文が強烈でした。「衣服の自給率」ということを
位部さんはどんな風に考えていますか?
位部
たとえば、毎日のごはんを作るように
衣服を作ることができるのか?
というと難しいんじゃないかと思うんです。
ただ、服作りの難しさもわかっている一方で
私がOsodeでパターン(型紙)を販売しているのは
「服は自分でつくるもの」にしたいという想いがあるから。
「おうちごはん」のような作り方の服も考えたいですし、
家で作るごはんと同じようになるべく自然のものを使って
毎日が心地良くなるようなものを作ってもらいたい。
そのために、作りやすいパターンメイキングを心がけています。
家庭料理が「塩梅」で作られるのと同じように、家庭での服作りも
感覚でできる方が日々の生活になじむ、と考えているから
できるだけ感覚的に縫っていける作り方を提案しています。
服ってやっぱり、誰かが縫っているって
気づいている人は意外と少ないんです。
低価格の服もたくさん流通していますが
どれだけ価格をおさえても縫う工程は工業化できない。
できるなら、服は自分で作るものであってほしいと思います。
ちなみに「婦人会」と銘打ってはいますけど
男性も参加ウェルカムです。
Osodeのパターンを使うことで自分で服を作る方が
もっと増えていったらとてもうれしいです。
使い手による生地解説〈後編〉まとめ
Osodeのデザイナー位部恵理さんのお話 後編 では、
国産生地との出会いやブランドを始めたときの
想いなど印象的なエピソードを聞きました。
「家庭での衣服の自給率をあげたい」という
想いをもって、衣服をデザインするだけでなく
「家ごはん」と同じように自分で衣服を
作っていけるような型紙も販売している位部さん。
日常使いの衣服を、もっともっと
「身近なツール」と位置付けて、
手仕事から生み出していける未来を
しっかりとイメージしながら
きょうも位部さんは、台所に立ち
「衣服」の姿を追い求めています。
取材日:2021年12月16日
取材・執筆:杉谷紗香(piknik/民ノ布編集室)
写真:デザイナー提供