[後編]地元の布でつくる、心地よい服-香川県/ツムギ-
※前半はこちらから
お客様の顔が見える服づくり
民さん(以下/民)
ここからはインタビュー後編です。
「ツムギ」のデザイナー 平川さんに
引き続きお話を伺っていきます。
平川めぐみさん(以下/平川)
よろしくお願いします。
前編では2017年に
「ツムギ」を立ち上げるまでの
エピソードをお話ししましたが
ここからは、ツムギの服を
つくりながら日々考えていること
などをお伝えできたらと思います。
民
よろしくお願いします。
では、まずお聞きしたいのは
平川さんが「ツムギ」の
服づくりを続ける中で
やっていてよかった!と
感じたエピソードについて
教えていただけますか。
平川
そうですね。一番は
企業に所属していたときには
できなかったことを
いま、実現できている!と
実感していることですね。
平川
かつて東京で携わっていた
服の仕事とは、やっぱり
ぜんぜん手応えが違います。
東京で携わった仕事では
つくった実感も、売れた実感も
得ることができませんでした。
買ってくれた人の顔はもちろん
1着の服ができあがるまでに
関わった人の顔すらも
見えないというものでしたから。
民
人の顔が見えないと
不安になる気持ち、わかります。
平川
不安にもなるし、続けていても
「何のためにやっているんだろう」
というような虚無感も
少なからずありました。
その点、ツムギの服づくりは
服をデザインして、できた服を
お客様に対面販売するまで
一貫して関わることができる。
顔が見えることのありがたさは
独立してひとりで服作りを始めたことで
かなりしっかりと実感しました。
それに、対面販売で
お客様とお話できることで
デザインをするときも
お客様の顔を想像して浮かんだ
アイデアを服に反映できたりと
良い面がいっぱいあります。
民
着てくださっている方の
笑顔がいくつも浮かんで
くるようなエピソードですね。
平川
「あの人に似合うといいな」と
具体的にイメージしながら
服のデザインをすることも
あるんですよ。
届けたい人の顔が見えるって
大事なことだと思いますし、
「健全」なあり方だと感じます。
民
手元でできあがっていくものが
どこへ届いていくのかが、
わかる服づくりなんですね。
平川
まさにそれは、ものづくりを
やる上での醍醐味だと思います。
対面販売をして気づいたのですが
ツムギの服を気に入ってくださる
お客様の年代も20代から
上は90代までと、幅広いんです。
こんなにいろんな世代のお客様が
手にとってくださるんだ!
ということも、自分自身が
売り場に立たないとわからない。
ツムギの服を届けるべき
ターゲットの姿は、対面販売で
より深く知ることができました。
地元野菜で染める新しい保多織
民
東京から地元・香川に戻ってみて
改めて気づいたことはありましたか?
平川
地元のことなのに
「知らないことだらけ」というのは
東京から戻ってきて痛感しました。
香川で生まれ育っていても
見逃していたことが、山ほどあって。
それに岡山の児島や愛媛の今治など
世界に誇る技術のある町って
香川から車ですぐ行ける距離なんです。
繊維産地も西日本エリアにたくさんある。
でも、この仕事を始めるまでは
そんな貴重な場所が近くにあるなんて
全然気づいていませんでした。
得ようと思わないと得られない。
インターネットで探しても出てこない。
自分の足で行って、現場の人と
話してみないとわからない。
――繊維関係の現場って、ほんと
そんな感じなので、気になったら
自分で動いてみるのが一番いいです。
民
行動あるのみ!ですね。
平川
思い切って行ってよかった!と
思うことが多いです。
そして、いま行っておかなきゃ!
という気持ちは産地を訪れるたびに
どんどん強くなります。
職人さんも高齢化が進んでいますし
残された時間も限られています。
そうやって生地がうまれる
現場を見て、作り手と話して
確かめたこと、気づいたことを
もっと発信していきたいという
気持ちが最近強くなっていて。
今後は、中四国エリアで
一体となって発信していく
おもしろさや醍醐味を感じる
取り組みをしていきたいですね。
民
地元とのコラボなども
積極的にされていくのでしょうか?
平川
いま、いくつかのプロジェクトに
取り組んでいるところです。
2021年の春夏コレクションから
スタートしたのは地元の野菜で
染めた生地での服づくり。
「まんば」と呼ばれる葉物や
香川が生産数 全国シェア
約70%といわれる金時人参など
香川の特産野菜で染めた生地で
服を仕立てることで
地元の野菜と布、どちらにも
興味をもっていただける
きっかけになれば、と
始まったプロジェクトです。
この新しい生地を作る取り組みは
2020年の「新かがわ中小企業
応援ファンド等事業」に選定され
助成金を使って進めています。
民
先ほど、野菜染めの生地で
できた服を手にとって
見せていただいたのですが
色合いがやさしくて、
洗いがかかっているから
ほかの生地とは
手ざわりがちがいました。
平川
ありがとうございます。
天然染料100%で染めたものを元に
いまの生活に合わせて
化学染料を加えて色を調整しました。
仕上がりは化学染料だけでは
出せない微妙なニュートラルカラー。
いい具合に染まりました。
保多織となにかをかけあわせて
新たな価値をうみだす
という考え方は、岩部社長と
日々やり取りする中で
出てきたもの。
岩部社長も、新しい保多織を
つくっていきたいという想いを
強くもっていらっしゃるので
たくさんアイデアをお持ちですし
社長とのやりとりを通して
刺激をいただくことが多いです。
今回は地元野菜で染めた生地
ということで、地元メディアの
取材を受けたりと反響も上々です。
見たことのない保多織をつくる
民
ツムギのものづくりを通して
これから取り組みたいことを
最後に聞かせていただけますか?
平川
今年からは、これまでにない
保多織をつくってみようと
岩部保多織本舗とツムギで
共同開発を進めているんです。
民
共同開発!? すごい!
これまでにない保多織をつくる
革新的なプロジェクト
なのでしょうか。
平川
先ほどご紹介した野菜染めは
従来の保多織を使っていますが
この共同開発は新たな生地を
一からつくっていくので
プロジェクトを進めながら
わたしも、ワクワクしています。
共同開発している生地は
いくつかあって、1つ目は
スラブ糸で織ったぶ厚い保多織。
一本の糸の中に、細い部分と
太い部分を不規則にもつのが
「スラブ」糸ですが、
そのムラのある糸で
保多織を織ると手織りのような
雰囲気があらわれて
おもしろい風合いになります。
また、スラブ糸で織った生地の
特徴に「肌離れのよさ」もあり
保多織の織り方との相性もよい。
製品化できる日が楽しみです。
民
糸と織り方の組み合わせ次第で
新たな生地がうまれていくんですね。
平川
そうですね。生地を織る段階で
柄を織るのか、無地にするか
岩部社長にいろいろと実験を
していただいているところです。
もう一つ、計画しているのは
「極薄保多織」です。
民
ネーミングがすでに
キャッチーで惹かれますね!
平川
スラブ糸のぶ厚い保多織と
対極にあるのが極薄保多織ですね。
岩部社長のインタビューでも
お話しされていたかと思いますが
厚みのある生地は保多織らしい
凹凸が生地により強く現れます。
そこで考えたのは、
生地をとことん薄くしても
保多織らしさって生まれるのか?
ということでした。
これはまだ実験段階ですが
製品化できたらおもしろい
と思っています。
民
ツムギさんの思い描く
見たことのない保多織、
手に取る日が楽しみです!
今日はありがとうございました。
使い手によるブランド紹介〈後編〉
地元・香川が誇る伝統工芸品
保多織のよさに惚れ込み、
ご自身でブランドを立ち上げた
「ツムギ」のデザイナー、平川さん。
お客様の顔が見えることが大切、と
対面販売を通して、仕立てた服を
直接届けることにこだわる
真摯な姿勢が印象的でした。
また、服のデザインだけでなく、
生地そのものを新たにつくる
プロジェクトをスタートした
エピソードもおもしろく、
織りや染めの職人たちと共同で
「未来の保多織」をうみだそうと
奮闘するエネルギッシュさに感服!
その行動力の根っこにあるのは
「保多織ってこんなにおもしろい!」
とたくさんの人に伝えたい気持ち。
保多織の魅力の奥深さに
改めて驚いたインタビューでした。
取材日:2021年5月28日
取材・執筆:杉谷紗香(piknik/民ノ布編集室)
撮影:岩崎恵子(民ノ布編集室)