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あさ おきて 気が向くときだけ だんなさまのお弁当をつくり 笑顔でお見送り あとは からっぽの部屋に 四角い機会がおいてあるので 開いて お手紙の整理をして 必要なだけのお返事を書いて 一息ついてもまだ おはようの時間
あなたのあいが いまはわたしのくちびるを こおらせる わたしのあいが いまはあなたのひとみを くもらせる
どうして 記憶は透明になってくれないのだろう 目をこらしても到底 全貌を現しもしないくせに
言葉を発するたび わたしの記憶が捻じ曲がってゆく
気づいたら 目的地に遠い改札口を 無意識に抜けていた わたしが避けたかったのは 毎日通った苦い思い出の改札口
失った者たちの行列の中へ 飛び込んでゆく 誰も見向きもしない それでもようようひとりが 顔をあげて 死ぬときに来るべきだと吐いた