リカレント教育の理論と実践
(1)リカレント教育の意義は何か
リカレント教育は社会全体の改革を志向する理念であるということができ、この点こそが、リカレント教育の最大の特徴といってもよい。主として職業上の知識・技術の習得を通じた産業社会の発展を念頭においていたとしても、その影響は、行政や企業社会も含む社会全体に及ぶものである。さらには一人ひとりの生き方そのものにも影響を及ぼす。逆にいえば、リカレント教育の実現と普及には、社会の各セクターの理解と協力がなければならず、それゆえに、その実現に当たっては、かなりの困難が伴うということである。
(2)フロント・エンド・モデルとリカレント・モデルの違いは何か
フロント・エンド・モデルとリカレント・モデルの違いはP153。一般的に言えば、これまで日本では、終身雇用制を前提とした雇用慣行が定着しており、社会人の人材育成は、この慣行に基づき企業内で実施されてきたといってさしつかえない。これを一人ひとりの「生き方モデル」として概念的に図示してみたものがフロント・エンド・モデルである。これに対し、リカレント教育論が念頭においている「生き方モデル」を概念的に図示したものがリカレント・モデルと呼ばれている。これらを対比させてみると、リカレント教育の「生き方モデル」としての特徴が明確になる。リカレント・モデルは「柔軟性を強調する生き方」であり、多様な社会的役割を経験しつつ様々な人々とのつながりを構築することで、豊かな人生をまっとうできるという考え方を図式化したものである。リカレント教育論は一つの「人生論」ということになる。
(3)リカレント教育が格差を生むとは、どういうことか
リカレント教育を推進する社会的条件が整った場合、それは実践者の職業上のキャリア形成につながるので、リカレント教育に積極的に取り組む人とそうでない人(取り組まない人/取り組めない人)との間に経済的なギャップが生ずる恐れがある。リカレント教育は、原理的に経済的な格差を生むメカニズムを内在しているといえる。
(4)リカレント教育を推進するために、企業や大学が取り組むべきことは何か
教育有給休暇制度や社会人が学びやすい大学院を用意するなど、さらなる条件整備とともに、実践的な課題解決を志向して入学してくる社会人学生の学習要求に対して、大学側の積極的な対応が期待される。
<参考文献>
笹井宏益・中村香『生涯学習のイノベーション』玉川大学出版部,2013