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プロテインレストの必要性①-Modification-

プロテインレストの工程は、Modification技術の向上により重要視されていません。モルトメーカー自身も必須ではなく“オプション”で行う工程であることを述べています。
ではその“オプション”の判断材料はどこにあるのでしょうか。
プロテインレスト(タンパク質分解)の意義や、その他の影響についてまとめてみました。
※長くなってしまったので4部構成としました。
※2部より有料とさせていただきますが、
 情報交換いただいた方には返金します
1部:Modification
2部:アミノ酸(※有料)
3部:Form・Haze・Body(※有料)
4部:検証実験(※有料)

タンパク質分解(プロテインレスト)の目的

糖化工程で麦芽に含まれる酵素は、麦芽内のデンプンを糖に変えます。
ですが、デンプンを変える際に同様に含まれる高分子タンパク質の影響で、酵素はデンプンへのアクセスが上手くいかず、糖への変換が困難となります。
そのため、高分子のタンパク質を中分子のタンパク質へ分解することで、酵素はデンプンへのアクセスができるようになるため、タンパク質の分解工程自体はビール造りにおいて重要な工程となります。

また、酵素がアクセスしやすくなるという点以外にも重要な作用があります。それはアミノ酸の取得です。

アミノ酸はイーストの栄養素として発酵へ影響を与える他、ビールのフレーバーにも影響を与える重要な要素の一つになります。タンパク質は20種類ほどのアミノ酸によって構成されており、タンパク質分解工程によって、ペプチドそしてアミノ酸へと分解されていきます。

ビールの見た目(Haze、Form)、口当たり(Body)においてもタンパク質は大きな影響を与えます。
タンパク質の分子量がHaze、Form、Body形成の一因となるため、酵素変換やアミノ酸の取得といった、タンパク質分解の目的を把握した上で目指すビールに合わせプロテインレスト工程の有無を設計する必要があります。

Modificationの改善

現在のモルティング技術は進歩しているので、十分なModificationによりプロテインレスト工程は不要と言われています。
そもそもModificationとは何なのか、そして、“十分な”Modificationとはなんなのかをモルトのスペックシートと合わせて考えてみます。

まずModificationとは、胚乳が分解する程度を示します。
モルティングプロセス中に酵素(ベータグルカン、エンドプロテアーゼ)は、胚乳のタンパク質を分解し、その後のマッシングプロセスにおいてデンプンを酵素(アミラーゼ)分解できるように改変を行っています。

次からは、モルトのスペックシートを参照しながら、
①十分なModificationの指標
②プロテインレスト有無の判断となる指標
という点について考えてみます。

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表はDingemansのPILSEN MDのスペックシートです。 

①十分なModificationの指標について、特に重要な指標の一つとして、Kolbachがあります。
これは麦芽中の総タンパク質に対する可溶性タンパク質の比率を示し、「S/T」とも言われます。
基準として、~35%:不十分な、35~45%:高度な、45~%:過剰なModificationと言われています。不十分だと高分子タンパク質が多く、可溶性タンパク質が少ないので、アミラーゼ酵素の分解に困難をきたします。
過剰だとタンパク質量が少ないので、ボディが薄くなりまた、デンプン分解がしやすくなるので、High Gravityな麦汁ができます。
DingemansのPILSEN MDは35-45%であることから、高度(十分な)にModificationされており、質の良いモルトだと言えます。

②プロテインレスト有無の判断となる指標については、Kolbachの元となる、Total protein、Soluble proteinとDiastatic powerより判断を行います。
Total proteinは総タンパク質量を表し、通常は<5.0%を示します。Soluble proteinは可溶性タンパク質量を表し、最大13%、11.5%ほどが望ましいといわれています。

①でのS/TとはSoluble protein/Total proteinのことになります。

Diastatic powerはマッシングプロセスにおいて、酵素がデンプンを糖に分解する能力を表し、115<でマッシュを処理するのに十分な能力を持っているということになります。
参考として、イギリスのベースモルトでは30-50、ヨーロッパのピルスナーモルトでは60-100、北米のベースモルトでは130ほどとなっているようです。

どのように判断するかですが、答えとしては確実な答えはないようです。ビールスタイル、イメージに合わせた選択をする他ないでしょう。
ですが、それでは答えにはならないので、各々の数値よりビールに与える影響を考えることにします。

プロテインレストを行うということは、タンパク質を分解するということですので、特に影響を与えるのが、Soluble proteinになります。
DingemansのPILSEN MDでは3.8-4.7%であり、プロテインレストを行うことで、この値が上昇します。つまり、Kolbachの35-45%が上昇するということであり、上昇することで、Diastatic powerの酵素デンプン処理能力も上昇する。
よってビールとしてはデキストリンが残りにくい、Attenuationの増加、High Gravityな麦汁になる可能性があるということが言えます。

プロテインレストを行うことで%としての数値上の上昇率は不明ですが、タンパク質量を頭に入れた上で使用する麦芽、目指すビール像によって選択が必要になるといえるでしょう。

まとめ①

現在のMalting技術では一般的なビールを作る上ではプロテインレストを行う必要はないと言える。ただし、使用するモルトと造る(目指す)ビールにより行うか判断すべき。


今回もご視聴いただき、ありがとうございました。
内容間違いの指摘、他情報がありましたら教えていただけると嬉しいです。

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