2023/08/19の切り抜き
名字の言 「水瓜の善悪は叩いて知る」2023年8月19日
酷暑が続き、スイカがおいしい季節。先日、青果店で風情がある場面を見た。従業員が大玉を軽くたたき、「これはおいしいよ」と売り込んでいた▼そのほほ笑ましい情景を眺めつつ、文豪・夏目漱石の言葉を思い出した。「水瓜の善悪は叩いて知る。人の高下は胸裏の利刀を揮つて真二に割つて知れ」(「愚見数則」『学生諸君!』所収、光文社)。人間の真の価値は外見や評判ではなく、心の内にこそあるということだろう▼かつて、スイカ農家を営む友を取材した。就農1年目は、出荷可能なスイカを一つも収穫できなかった。冷害には何度となく泣かされた。さらに一緒に働いてきた妻が病に倒れ、看病と農作業を1人でやり切ったことも。苦労は尽きなかった▼それでも“私の使命の舞台である、このスイカ畑で見事な実証を示し、一切を変毒為薬する!”との決意が揺らぐことはなかった。その後、元気になった妻と栽培に汗し、今では毎年、収穫を待ちきれない顧客からの事前注文が全国から殺到するまでになった▼漱石は先の言葉に続けて“事を成すには「時」「場合」「相手」を見抜け”と訴える。自然相手に毎年異なる条件下での連続闘争に燃える夫妻。その姿に偉大な挑戦者の風格を見た。(代)
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