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「シリーズ・現代社会学の継承と発展」の趣旨と概要
2023年9月、『都市とモビリティーズ』(吉原直樹編著)、『福祉と協働』(三重野卓編著)の刊行を皮切りに小社の創立75周年企画「シリーズ・現代社会学の継承と発展」(全6巻、代表編者:金子勇・吉原直樹)が始まりました。現代の複雑な社会現象を捉えるとともに、社会学知の世代間継承も目指した本シリーズは、2024年11月に『ジェンダーと平等』(江原由美子編著)の刊行をもって完結となり、これを受けて、11月10日(日)、第97回日本社会学会大会(於:京都産業大学)においてシリーズ執筆陣によるテーマセッション「現代社会学の継承と発展」が開催されました。本noteではその発表の記録をお届けします。まず第1回として、セッションで座長を務められた金子勇先生(北海道大学名誉教授)にシリーズの趣旨を語っていただきました。
「社会学講座」で学んだ団塊世代
1970年代に団塊世代が社会学を学び始めてから、コント以来の内外の碩学の単著、共著、編著、翻訳書はもちろん、日本的出版文化の結晶である「社会学講座」がほぼ10年ごとに学界に提供されてきた。それらは入門用ではなく、いずれも本格派の専門論文の集合体であり、私たちはそれらを取捨選択しながら、学説、理論、実証的方法、得られた成果などに触れて、自らの社会学を磨き上げることに努め、還暦まではその延長上に実証的でオリジナルな研究成果をだそうと心がけてきた。
世代間継承最優先の社会学講座
そして時は流れ、還暦を迎えてからは自らの個別研究のまとめと並行して、諸分野における共有・伝達可能な研究成果の世代間継承を意識して、私もいくつかの「社会学講座」を同世代の方々と一緒に企画・刊行することができた。そこでは、学界として継承したい業績・成果を選び、それらを踏まえて近未来を見据えての創建的な知見を提示することを心がけた。今回も同じコンセプトにより、院生時代から親友であった吉原直樹氏とともに全6巻のテーマを決めて、それに最適な編者にご依頼して快諾していただいた。
全6巻に絞り込む
それが、3年がかりで構想・企画した「シリーズ・現代社会学の継承と発展」である。全6巻の先に「未来を予測し、可視化し、念入りに構想しようとする多くの営みを描き出す」(アーリ、2016=2019:12)に挑戦すべく、団塊世代とそれに近い世代が次世代次々世代を巻き込み、約1年がかりでそれぞれが論文を書き上げた。2023年9月に2冊が同時刊行され、最終的には24年11月初旬に第1巻の江原由美子編著『ジェンダーと平等』を得て、全巻完結となった。
各巻編者と執筆者のご協力、およびミネルヴァ書房編集部のご尽力に心から感謝申し上げる。
「シリーズ・現代社会学の継承と発展」がもつ6つの特色
これまで私たちが精読してきた各種「社会学講座」の経験から、団塊世代なりの個性・特徴を出せるようにした。一つは、『都市社会学』や『家族社会学』ではなく、社会現象が複雑に融合してきたという現実を意識して、『都市とモビリティーズ』や『世代と人口』というように各巻の構成にも複合性を重視した。
二つ目には「社会学の継承と発展」を謳い上げるからには、多世代の協力を軸として全巻を構想した。第三には、従来の「社会学講座」には不可欠だった「学説」、「理論」、「階層」、「格差」などの巻を省略して、これらの課題はすべて執筆者が取り上げたテーマに落とし込んでいただくことにした。
そのために第四として、それまでの講座各章の論文がほぼ20,000字前後であったことを踏まえて、本講座では各章とも『社会学評論』の論文2篇分に匹敵する40,000字に倍増することにした。したがって、各巻5名となり、200,000字の共著という姿が浮かんできた。五つには、今日の出版事情に鑑み、講座は全6巻に限定した。
さらに第六番目としては、それまでややもすれば10年~20年を要していた講座完結の実態を踏まえ、全巻完結のスピード化を図るために、各巻の編者が執筆者を依頼する際には1年程度での脱稿が可能な方にお願いしていただくことにして、編者諸氏もこれを了承された。
まずは全巻の精読から
これら全巻の精読に挑戦していただければ、それぞれの専門性を深く掘り下げながら、自らの創造的な研究へのヒントがたくさん埋まっていることに気が付かれるはずである。「あこがれ、待ちこがれているだけでは何もできなかったのだ、だから、やりかたをかえて、われわれの仕事にとりかかり、『時代の要求』をかなえるようにしようじゃないか」(ウェーバー『職業としての学問』)。これはまた、全6巻に共通した編者たちの願いでもある。
【参照文献】
Comte, A., 1822=1895, “Plan des travaux scientifiques nécessaries pour réorganizer la société. ”Système de politique positive. Ⅳ. Société Positive, Paris, Appendice Général.(=1980 霧生和夫訳 「社会再組織に必要な科学的作業プラン」清水幾太郎編集『コント スペンサー』中央公論社):51-139.
金子勇, 2023, 『社会資本主義』ミネルヴァ書房.
Urry,J., 2016, What is the Future?, Polity Press Ltd.(=2019 吉原直樹ほか訳『<未来像>の未来』作品社).
Weber, M., 1919, Wissenschaft als Beruf.(=1962 出口勇蔵訳 「職業としての学問」訳者代表出口勇蔵『世界思想教養全集18 ウェーバーの思想』河出書房新社):129-170.
金子 勇(北海道大学名誉教授)