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【読書レビュー】『安藤忠雄 建築を生きる』

著者・書名・出版社・出版年は?


三宅理一『安藤忠雄 建築を生きる』みすず書房, 2019

どんな本? 〜3つの特徴〜


”TADAO ANDO(安藤忠雄)”は、「元プロボクサーで独学で建築を学んだ」という経歴もあって、これまでテレビを含めた多くのメディアに取り上げられてきました。いまや、日本だけではなく、世界で最も有名な建築設計者の1人といってもよいでしょう。

本書の特徴の1つめは、そのようなメディアでは伝えられない部分を深堀りすることで、ANDO建築の豊かな理解をより深めることができる点です。

著者は、長年建築界で教育や保存活動を含めたさまざまな活動に携わってきた建築史研究者です。建築や建築史を学ぶ際の「必ず読むべき本のリスト」にその著作(文末に関連本リンクあり)が複数入れられています。

このような著者が、学術研究的視点から建築史の文脈上でANDO建築を捉えているのが本書の2つめの特徴といえます。生い立ちから現在まで、丁寧かつ実証的なアプローチによって紡がれた安藤論は、作品のみならず、社会背景や同時代の設計者との比較にまで話題が広がります。著者の博覧強記がいかんなく発揮されている評伝といえるでしょう。

とはいえ、そのようなアカデミックな内容を含みながらも、具体的かつ日常的な話題が散りばめられ、建築の専門家でなくても、非常に読みやすいのが本書の3つめの特徴となっています。

何が学べるか?


  1. 安藤忠雄の生い立ちから現在までの軌跡が時系列でわかる

  2. 各章は時系列に沿って、その当時の安藤やANDO建築のトピックが取り上げられている

  3. 安藤とANDO建築を縦糸にして、当時の文化や思想や人脈を横糸として立体的に理解できる

どんなひとにおすすめ?


  1. テレビや雑誌やネット上から得られるANDO情報ではもの足りないひと

  2. 建築の歴史と絡めたときのANDO建築の立ち位置を知りたいひと

  3. 知的な興味の対象としてANDO建築をより深く知りたいひと

目次


第1章 生い立ち
第2章 建築へ
第3章 長屋が世界を変える
第4章 住宅の時代
第5章 旅と文明
第6章 幾何学と光
第7章 生まれ変わる商業施設
第8章 宗教空間への洞察
第9章 批判的地域主義の旗手として
第10章 持続的な集合住宅を求めて――六甲の集合住宅
第11章 木の建築をめざす
第12章 公害の島を生まれ変わらせる――直島での実験
第13章 ミュージアムの建築家として
第14章 阪神・淡路大震災をこえて
第15章 東京大学教授として
第16章 安藤事務所というチーム
第17章 世界に対するメッセージ
第18章 書籍の空間
第19章 フランソワ・ピノーとの仕事――欧州の歴史との対話
第20章 上海へ
第21章 大阪人として

あとがき

感想とか


この本の中に、ウクライナの話がちょっとだけ出てきます。安藤はワシル・ロマチェンコ(Vasyl Anatoliyovich Lomachenko)というウクライナ出身のボクサーを高く評価していて、いろんな人にその話をしていたというのです。本書は出版されたのが2019年なので、既にクリミア併合(2014年)については世界に報道されていて、安藤もウクライナの当時の状況は知っていたはずです。

それにしても、何というか、物事を見抜く鋭い感性があったからこそ、2022年より前からウクライナが気になって、ウクライナ出身のボクサーの強さに共感していたのではないかという思いが浮かびました。

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