自走する共創の場は僕にとってフットボールだった
猫も杓子も、共創。
なぜ共創が必要で、何をどう進めていくべきなのか。
自走する共創のプラットフォームとは。
共創とイノベーションの関係性を含めて、紐解いていきたい。
はじめに
本書は、「武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第五回(6/15)江渡 浩一郎さん」の講義レポートである。
講師:江渡 浩一郎(えと こういちろう)
日本のメディアアーティスト、情報理工学者。学位は博士。国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 共創場デザイン研究チーム、ニコニコ学会β実行委員会委員長、慶應義塾大学SFC 特別招聘教授、Tsukuba Mini Maker Faire 2020 プログラム委員長。メディアアーティストとして作品を発表する傍ら、研究者としてメディアアート、共創プラットフォームの研究に従事している。
ビジネスを小さな経済圏に留まらせるのか、はたまたそれを突破しブレイクスルーを実現するのか。ビジョンの実現、社会課題の解決や大きな価値を世の中に生み出すためには、どうしても後者が求められてくるはず。そのために、共創型のイノベーションが必要不可欠であり、むしろそのダイバーシティーにおける共創にしか大きな成功はないという。
ダイバーシティにおける共創とブレークスルーの相関性
なぜ共創が必要なのか。そこには、ダイバーシティとブレークスルー創出の相関性がヒントになる。例えば、あるチームの中にいろいろな人たちが含まれるとメンバーが多様化し、そこでプロダクトを作る場合、失敗する可能性が高まり、得られる結果の平均値は下がる。しかし、ブレークスルーと呼ばれるような予想を超える爆発的な大きな成功は、ダイバーシティが高いチームからしか生まれていないといった結果がデータとして出ているのだ。そして、ダイバーシティの少ないチームからは、小さく手堅い成功は出るかもしれないが、大きな成功は出ないという。
私はスタートアップにいて、大きなビジョンを掲げている。普通の方法では到底辿りつかないような視座の高いビジョンの実現には、非連続な成長が必要不可欠である。そのためにはブレークスルーの創出は必然と求められ、ダイバーシティというハイリスクとハイリターンの可能性を兼ね備えた環境を用意することが求められるのだろう。
Wikipediaはパターンランゲージによって共創プラットフォームを成功へ導いた
大きな成功をおさめた唯一無二の共創プラットフォームとして、Wikipediaが挙げられる。同じような仕組みを取り入れた他のサービスはほぼ全て失敗しており、ここから分かるのは、多くの人が力を束ねて一つのものにしていく共創においては、その仕組みだけを取り入れても上手く行かないということ。そして、共創プラットフォームが自走し成長していくためには、パタン・ランゲージという設計手法を用いることが鍵となるというのだ。それを背景としなくては成功することは無いという。
パタン・ランゲージとは簡単に以下のことを言う。
パターン・ランゲージは、状況に応じた判断の成功の経験則を記述したもので、成功している事例の中で繰り返し見られる「パターン」が抽出され、抽象化を経て言語(ランゲージ)化されたものです。そういった成功の“秘訣“ともいうべきものは、「実践知」「暗黙知」「センス」「勘」「コツ」などといわれますが、なかなか他者には共有しにくいものです。パターン・ランゲージは、それを言葉として表現することによって、ノウハウを持つ個人がどのような視点で、どんなことを考えて、何をしているのかを、他の人と共有可能にします。
出典:http://creativeshift.co.jp/
Wikipediaというサービスは、自分が見つけたパターンを書き込み、誰でも書き換えられるという特徴を持ちながら、さまざまな人が情報を育てていくことができる。そうすることで、世界最大の百科事典として非常に大きな存在となったのである。
建築家ではなく利用者が家を作れるようにパタン・ランゲージを作り出した
クリストファー・アレグザンダーという建築家は、建築家が要らなくなる手法を開発した。「どのような建築が望ましいかは利用者が一番よく知っている」という考えから、建築家ではなく利用者が自分で作りたい建築を設計するという考えを提唱した。しかし、利用者が簡単に建築を設計することが出来るはずがなく、そのために、誰でも建築できるようにするための方法論として、パタン・ランゲージを考え出した。
この考え方は一時期に広まり、1971年にオレゴン大学の大規模な改修は約2万人規模のコミュニティーが対象となって、そのパターンランゲージに従ってオレゴン大学の改修を進んだという事例がある。美しさを保ったまま、しかも使いやすい建築を実現できるようになったというのだ。
言語化する能力がビジネスに置いて重要というのは周知の事実だが、言語化の先にあるのがパターンなのだろう。つまり、暗黙知を形式知に落とし込むこと、そしてそれを誰もが扱えるようにパターン化すること、ここが鍵になる。
ニコニコ学会βはユーザー・イノベーションとインクルーシブデザインで共創を促す
ニコニコ学会βが共創型イノベーションを考えるに当たって、2つの大きな考え方を軸に置いている。一つがユーザー・イノベーションで、もう一つがインクルーシブデザインである。
1. マウンテンバイクの「ユーザー・イノベーション」
Photo by:https://bluelug.com/
ユーザーがイノベーションを起こすこともある、という考え方がユーザーイノベーションだ。例えば、マウンテンバイクは今では日常で当たり前に街で見る自転車だが、昔はそうではなかった。1970年代、アメリカの西海岸で山を乗り回すための自転車として遊びとしていたものが、格好いいから自分の分も欲しいということで販売をし、それが発端となって、爆発的な人気を得て世界中にマウンテンバイクが広まっていくことになった。最初はごく少数の人たちが、自分たちの中で「面白い」という理由から作っていたものが新しい分野として広まっていき、ある商品のカテゴリーができる、ということが実際におきたのである。
2. ウォシュレットの「インクルーシブデザイン」
Photo by:https://jp.toto.com/
インクルーシブデザインとはある特殊なユーザーに着目することによって、その人が使いやすいものを作り、それが実は一般的なユーザーを獲得できる可能性もあるのではないかという考え方である。例えば、ウォシュレットはもともとは医療器具を使っていたもので(実はそれほど使いやすいものではなく)、TOTOがそれに着目をして、これを一般の人にも使いやすい形で「ウォッシュレット」という商品名で販売したところ、爆発的なヒットとなり、ウォッシュレットという市場が出来上がった。このように、ある特殊なユーザーの特殊な用途で使われているものであったとしても、一般向けに商品化することによって新たな市場が生まれることがあるのだ。
ニコニコ学会βが目指す「共創型イノベーション」は、その両者を融合させている。ユーザーが生み出した特殊なものを、インクルーシブデザインのように一緒に作り上げていくことによって、今までになかったカテゴリーを創出するという考えである。
フットボールはまさに自走する共創プラットフォームである
ユーザーが遊ぶようにして生み出した新しい商品の価値やカテゴリーを、インクルーシブに社会に適合させていく。そこには誰もがプレイヤーになることができる言語やその手法がパターンとして存在し、一人ひとりが自走した共創の場となる。
共創プラットフォームとは、私にとってフットボールだったのかもしれない。フットボールは、専用のコートがなくても、手を使ってはいけない共通のルールの上で、ボールの蹴り方、止め方、運び方というパターンを用いて、世界中の人々と小さな空き地でも道路でもフットボールを楽しむことができる。いつでもどこでも誰とでも、完全な共創を実装することが可能となる。最低限のパターンを持っていれば、遊び心を持って応用しながら、余白を持って共創できる。11対11のフットボール、5対5のフットサル、ビーチサッカー、フリースタイル、などなど、遊びながら独自の新しいカテゴリーを創出し、それを社会に適合させた事例なのだと思う。
おわりに
私が構想している服が循環するプラットフォームも、多岐に渡るステークホルダーとの共創が必要不可欠であり重要な要素だと考えていた為、今回の講義は非常に学びになった。ユーザーが自走できるためにすべきことは何か、これからも考えて行きたい。