IT技術者から、心理学の研究者へ、そしてマインドフルネスへ Part2 〜講師トレーニングを通じた実践の深まり〜
当センターでは、ドイツのthe Institute of Mindfulness Based Approaches(IMA)と連携し、2021年4月からマインドフルネスストレス低減法(MBSR)講師養成講座を開催しています。
その1期生として2022年10月にトレーニングを終え、MBSR講師となった江崎さんにご寄稿いただきました。公認心理師、産業カウンセラーとして、専門学校や短大での講師業務、企業、医療機関へのメンタルヘルスサービスを提供されている江崎さんが、MBSRを教えることを学び、感じていることとは。(ご本人プロフィールは文末)
2023年3月10日(月)から月曜夜のMBSR8週間コースを開講予定です。
>>詳細こちら
以下、江崎さんがへインタビューをさせていただきました。その2回目です。前回は、エンジニアとして働き始めた江崎さんが、心理学の研究のため大学院にもどり、生理心理学から臨床心理学へシフトし、そしてマインドフルネスを実践するまでをお聞きしました。ここからは、講師トレーニングを経て、マインドフルネスを伝えるまでをお話しいただきました。
1回めはこちらより。
インタビューアー:宮本賢也
―――ここまで、MBSRを受講されたところまでお伺いしました。その後、MBCTのクラスにも参加されましたよね。
もともと、認知行動療法に取り組んでいたので、MBCTに興味を持っていました。また、外国人の先生だから、素晴らしいというバイアスがかかっているのかも、と思ったこともあり、清子さん(注:井上清子先生)のMBCTを受講しました。
―――MBSRやMBSRを受講して感じられたことはどのようなことだったでしょうか。
いろいろあるのですが、シンプルに言うと、自分の中に帰ってくることのできる場所ができた、ということだと思います。丁寧に戻って来ることのできる場所、という感じです。それが最初にMBSRを受けた時に種が植えられ、それがこれまでの時間をかけて、少しずつ大きくなってきたように感じます。
日常生活の中で、何か難しい局面にであっても、一旦、戻る場所があるという感じです。
ともすれば、知識武装して問題を解決しようとする傾向があるのですが、それがうまくいくときもあれば、そうでないときもあります。知識や理論で解決するのと異なるアプローチとして、ただ今の状態に気付く、それにより、自分の中に何が起きているのかが少しずつ感じられ、自然と次のアプローチが見えてくるということが生じてきます。他者との関係で、自分が傷つくような場面でも、平気なふりをして強く振る舞っていたこともありましたが、いまでは、その自分自身に気づき、そこにやさしさやいたわりも向けながら、より自然に物事に対処出来るようになってきたように感じます。
―――その後、少し時間をおいて、人生のためのマインドフルネス認知療法(MBCT for Life)、マインドフルネスに基づくコンパッションのトレーニング(MBCL)といった8週間コースも受講され、様々な角度から実践を継続されています。そして、MBSR講師養成プログラムにも参加されました。これはどのような思いだったのでしょうか。
メンタルヘルス・マネジメントの専門家として仕事をする中で、最初は、自分を安定させる選択肢が一つ増えれば、という思いでマインドフルネスを学び始めました。そのうち、マインドフルネスは、これ単体でもクライエントに提供できるようなものだと思うようになりました。
そして、講師養成に参加することで、マインドフルネスの理解を深め、自分自身がマインドフルネスを体現することが出来るようになるのではないかと思ったのです。
参加するかは大分迷ったのですが、最終的には取り組んでみたいとおもい、参加しました。
―――参加されてどのような体験があったでしょうか。
講座を提供いただいたthe Institute of Mindfulness Based-Approaches(IMA、ドイツ)とInternational Mindfulness Center Japan(IMCJ、日本)の、様々な背景や経歴を持つ先生方に教わることができたのは素晴らしい体験で、十二分に満喫しました。
また、受講者の皆さんも、医療職に心理職、ヨガの先生や主婦の方など、本当に様々な分野の方が集まっていて、刺激的でした。
4人一組のピアグループで1年半定期的にあつまり、その中で切磋琢磨し、迷ったり悩んだり、学びを深める貴重な体験になりました。
―――そして、その一環として、既に正式なMBSRコースを1回実施されました。教えるという体験はいかがだったでしょうか。
自分自身が鍛えられた、という感じがしました。人によって考え方、感じ方、取り組み方も様々で、その多様性に触れました。マインドフルネスでは、実践者のための7つの態度(*)というものがありますが、これは講師自身にも強く求められるものだということを痛感しました。
そして、MBSRを最初に教えて頂き、またトレーニング中のスーパーバイザーでもあったAmir先生からも言われたことですが、「講師」は、教えることよりも、受講者と一緒に取り組む立場の人なのだ、ということを感じました。講師の立場でクラスを運営していても、うまくやらないといけないとか、受講者にこうなってほしいと思ったり、そしてそのことに自分でダメ出しをしたり、そういった気持ちは自然と浮かんできます。そこにどう関わっていくか、ということ自体がマインドフルネスの実践そのものです。
(*)7つの態度
ジャッジしない、頑張りすぎない、受け入れる、フレッシュな目を持つ、気長に待つ、手放す、信頼する
―――そのような体験を振り返った時に、講師養成トレーニングにはどのような意味があったと思われますか。
各モジュールで痛感したことは、MBSRのそれぞれのセッションに意図があって、それがつながって8週間のコースが構成されているということです。前の週にやったことが土台となって、今週の実践やワークがあり、それがまた次の週の土台になるというようなつながりがあります。
MBSRの表に見えているカリキュラムの裏側にある基本的な考え方を体験的に理解することで、受講者の方の悩みなど共感しやすくなったり、こういう問いかけをするとMBSRのテーマに沿って受講者の方が自身を探索するサポートになるということが自然と感じられたりします。受講者が、しっかりと実践に取り組み、気づきを得ていくための、環境を作るお手伝いをすることが講師の役割だと感じます。
初めて受講者として受けた時のにはぼんやりとしていた部分が、徐々にクリアに見えていくような、そういった体験がトレーニングの中で起きました。ここがこういうふうにつながるようにデザインされているのか、と。
―――トレーニングは1年半ほどかけて行われます。それだけの期間をかけることにはどのような意味があると思いますか。
先程言ったような、MBSRの核心部分を理解するには、腑に落ちる、というような体験的な理解が欠かせません。頭で理解するだけは足りないと思います。
そのためには、MBSRが毎週1回、8週間かけて行うように、学びと実践の間にスペースが有り、そこで自身に落とし込み消化していく時間が必要です。やってみて、疑問をピアグループで話し合って、またやってみて、そしてモジュールでその疑問に改めて取り組む。1年半というのは、一見長いようですが、必要な時間軸なのではないかと思います。
―――お話を伺っていて、「有機的」という言葉が思い浮かびました。認知的に学ぶだけでは得られない、ご自身で実践者として瞑想を行い、教える練習も繰り返し体験的に行い、その両者が有機的に組み合わさって講師としての役割を果たす準備が出来ていくように感じます。
これから、どのようにマインドフルネスに関わっていきたいですか。
これから、どのようにマインドフルネスに関わっていきたいですか。
いろいろなレベルで言えるのですが、一つは、講師として教えることもありますが、まずは自身が実践者としての時間を積み重ねていくことを行っていきたいと思います。いま私のいる東北地方では、マインドフルネスに触れられる機会もあまり多くありません。私が普段メンタルヘルスやカウンセリングなどのサービスを提供している医療機関などでも、マインドフルネスについての興味も高まってきているように思います。この地域に、マインドフルネスがより広がっていくサポートができればと思っています。
―――本日はありがとうございました。
講師紹介 & 江崎さんのMBSR8週間コース
江崎さんのMBSRコースは以下にて実施されます。無料のオリエンテーションも行っていますので、ご興味あればご参加ください。
(以下をクリックしていただくとコースの詳細へとびます)