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車いすで巡る筑波山地域ジオパークと自然災害 筑波山3-4 筑波山頂(女体山頂)付近の地質・斑れい岩について
筑波山の地質と火成岩の分類
さて、話は筑波山に戻ります。まず、筑波山の地質図を見てみましょう。
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筑波山頂付近には、斑れい岩が分布しています。そして、筑波山麓には花崗岩や土石流堆積物が分布しています。さて、斑れい岩や花崗岩とは、どのような岩石なのでしょうか。
斑れい岩や花崗岩は、マグマが冷えて固まった岩石である火成岩の仲間です。その中でも、斑れい岩や花崗岩は、マグマが地下深くでゆっくりと冷えて固まった岩石である深成岩の一種です。一方、マグマが地表付近で急速に冷えて固まった岩石を火山岩と呼んでいます。火成岩の一般的な分類を下に示します。
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上の表は、中学の理科や高校の地学の教科書に載っている、有名な火成岩の分類表です。無色鉱物(石英・カリ長石・斜長石)は無色または白色をしています。有色鉱物(黒雲母・角閃石・輝石・かんらん石)は黒色または緑色をしています。深成岩は粒子のサイズが大きくなり、火山岩は粒子のサイズが小さくなるのが特徴です。
筑波山頂に分布する斑れい岩は有色鉱物を多く含むので、一般的には黒っぽい岩石です。一方、筑波山麓に分布する花崗岩は無色鉱物を多く含むので、一般的には白っぽい岩石です。
女体山頂付近の斑れい岩
車いすの介助方法
それでは、女体山駅の周辺で斑れい岩を観察しましょう。
女体山駅を出ると、女体山頂へ続く遊歩道があります。下の写真のように、高さ20cmの段差があり、車いすにとってつらい高さですが、周りの人の手を借りてなんとか乗り越えます。
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上の図は、段差における車いすの介助方法です。
段差の上り方
段差に対して車いすを正面に向けます。
介助者はグリップを押し下げながらティッピングレバーを片足で踏み、キャスター(前輪)を上げます。
バランスを保ちながら車いすを前進させ、ゆっくりとキャスター(前輪)を段差の上にのせます。
後輪を押し上げます。
段差の降り方
安全のために必ず車いすを後ろ向きにし、後輪をおろします。
ティッピングレバーを踏んでキャスター(前輪)を浮かせた状態にし、ゆっくりと後方に下がります。
キャスター(前輪)を静かにおろします。
ただし、20cmの段差は、この方法によって乗り越えられる限界の高さです。車いすがかなり傾きますので、乗っている方は恐怖を感じます。ゆっくりと、ほかの人の手も借りて、慎重に操作してください。
参考に、坂道における車いすの介助方法を紹介します。
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上り坂の場合
介助者は脇をしめ、一歩一歩ゆっくりと押し戻されないように進みます。
下り坂の場合
下り坂の場合は、後ろ向きで降りるのが安全です。介助者はグリップをしっかりと握り、後方に注意しながら、ゆっくりと下ります。
下り坂では、後ろ向きに降りるのがポイントです。
斑れい岩の露頭の観察
さあ、遊歩道の山側には斑れい岩の露頭があるので観察しましょう。
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遊歩道に沿って斑れい岩が露出しています。
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粗粒な岩石です。白い鉱物は斜長石です。筑波山は御神体なので、ハンマーは使えません。岩が欠けている箇所を探しました。
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斑れい岩の表面は凸凹しています。直径数mmの穴が開いていますが、これは斜長石が溶けてできた穴です。
筑波山ではハンマーが使えないため、表面の凸凹は、斑れい岩を見分ける際の重要な特徴になります。
また、この凸凹による、「ざらざら」した独特の手触りにより、目が不自由な方でも、斑れい岩を識別することができます。
筑波山の斑れい岩の色の変化
先に申しましたように、斑れい岩は黒っぽい岩石ですが、筑波山の斑れい岩は女体山頂に近づくほど白みがかってくるそうです。
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実は、火成岩の正式な分類法においては、みかけの色は重要視されていません。
火成岩を正式に分類するためには、火成岩を構成する鉱物の量比を顕微鏡下で調べたり、岩石全体の化学的な組成(成分)を調べる必要があります。
深成岩は、それらを構成する無色鉱物の量比を顕微鏡下で測定し、区分されます。よって、白っぽい斑れい岩も存在します。
火山岩も本来は深成岩と同じような分類がなされるはずですが、火山岩を構成する鉱物はサイズが極めて小さく、顕微鏡下での量比の測定は困難です。そこで、火山岩は鉱物の量比ではなく、岩石全体の化学組成(SiO2の量比など)で分類するのが一般的です。
色調による分類は理解しやすいものですが、火成岩を色調だけで分類することは適当ではありません。よって、色調に基づいて、肉眼やルーペで火成岩を正確に分類することには限界があります。火成岩を分類するためには、地質図や論文などと照らし合わせて、その地域の岩石の特長を把握する必要があります。
では、なぜ筑波山の斑れい岩は、女体山頂に近づくほど白っぽくなるのでしょうか。それは、筑波山の成り立ちと関係しています。
筑波山のでき方
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筑波山は、とても珍しいでき方をした山です。7000万年ほど前に、地面の下で冷え固まったマグマの巨大な塊が、地表に現れてできた山です。
マグマが地下に蓄えられ、巨大なマグマの塊ができました。マグマはゆっくりと冷え固まり斑れい岩や花崗岩ができました。
マグマの塊とともに、地面が隆起しました。
隆起した地面が、雨や風などで削り取られました。マグマの塊はとても硬いため、周囲の地面よりも削られずに残り、平野の中に美しくそびえる筑波山となったのです。
斑れい岩は、黒っぽい岩石ですが、女体山頂に近づくほど白っぽくなっていきます。これは、マグマが冷えて固まる際に、黒くて重い鉱物が下に、白くて軽い鉱物が上に集まったためです。
つつじヶ丘駐車場の斑れい岩の巨岩
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さて、つつじヶ丘駐車場に戻ってきました。ここでも、斑れい岩を観察しましょう。
つつじヶ丘駐車場近くの筑波山京成ホテルへ向かう坂道の両脇には、斑れい岩の巨岩・巨礫が並んでいます。
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坂の傾斜は約6°。手動式車いすではつらいです。ここでも、筑波山は御神体のため、ハンマーは使えません。
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女体山駅付近の斑れい岩と同様、粗粒な岩石です。白い鉱物は斜長石です。
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斑れい岩の表面は、女体山駅付近の斑れい岩と同様に、凸凹しています。直径数mmの穴が開いていますが、これも斜長石が溶けてできた穴です。
筑波山ではハンマーが使えないため、表面の凸凹は、斑れい岩を見分ける際の重要な特徴になります。
また、この凸凹による、「ざらざら」した独特の手触りにより、目が不自由な方でも、斑れい岩を識別することができます。
斑れい岩は地下約10kmの深さで、マグマがゆっくり冷えてできましたが、その後隆起して、上に乗っていた岩石が削られると、上から押さえつけられていた力が抜けて、圧縮から解放されました。そして、その時、多くの割れ目(節理)が形成され、割れた岩塊が巨岩となりました。
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筑波山の斑れい岩の巨岩の中には、磐座信仰の対象となっているものがあります。この岩には「立身石」という名前が付ついています。
筑波石
筑波山の斑れい岩の巨岩や巨礫は石材にも利用され「筑波石」と呼ばれています。特に、凸凹が著しいものはガマガエルの背中のごつごつとした肌に例えて「ガマ肌」と呼ばれています。
「筑波石」は、地元では、江戸時代から石垣に使われてきました。「筑波石」は現在でも庭石として根強い人気があります。筑波山京成ホテルの斑れい岩の巨岩・巨礫も、「筑波石」として、人為的に運ばれてきた可能性があります。「筑波石」はつくば市内の公園などでもよく見かけます。
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お読みくださった皆様、ありがとうございました。次回は、筑波山麓の花崗岩と土石流堆積物について、お話をします。よろしくお願いいたします。
参考文献など
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キーワード:筑波山 女体山 火成岩 深成岩 斑れい岩 筑波石 車いす 車いすの介助 地質 ジオパーク