障がい者に対応したハザードマップ(2)
今回は前回に引き続き、障がい者に対応したハザードマップについて、お話ししたいと思います。
手話によるハザードマップの事例
聴覚に障がいがある方の中には、文章が苦手な方がいます。意思疎通の主な手段として、言葉や文章のように文字や単語を一言一句表現するわけではない手話を使うことが多いからです。
北海道石狩市
石狩市地区防災マップ(ハザードマップ)には、QRコードが示されており、それを読み込むと、手話による解説動画(YouTube)を閲覧することができます。その内容は、洪水・土砂災害・津波などの基礎知識、日頃からの備え、避難の仕方、避難時の支援、情報の取得方法、地区防災マップの使い方、防災の心得などです。
参考文献など
石狩市.石狩市地区防災ガイド.2022年4月1日.(参照日2022年10月8日)
国土交通省 第1回ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会.資料7-1ハザードマップに関する現状と課題.令和3年12月23日.(参照日2022年10月8日)
やさしい日本語によるハザードマップの事例
障がい者や外国人が理解しやすいように、やさしい日本語によるハザードマップが作成されています。
福井県福井市
福井市は、やさしい日本語版洪水・土砂災害ハザードマップを発行しています。
ホームページのトップには、ハザードマップの見方、災害リスクが高い場所、マイ・タイムライン(住民一人一人の避難行動計画)の作成方法などを、音声や手話、英語・日本語の字幕で解説したYouTube動画が挙がっています。
やさしい日本語版洪水・土砂災害ハザードマップには、Uni-Voiceの音声コードが示されており、下記の内容を聴くこともできます。
参考文献など
福井市.やさしい日本語版 洪水・土砂災害ハザードマップのダウンロードについて.2022年7月20日.(参照日2022年10月8日)
まとめ
前回、述べたように、障がい者に対応した水害ハザードマップの作成率は2.6%と大変低い状態です。パソコンなどの画面表示を音声化するソフト(スクリーンリーダー)が、パソコンやスマートフォンなどに標準で搭載されていますが、地図データを読み上げる機能は有していないため、あまり役に立ちません。
また、障がい者への伝達手法(内容)は音声や点字がほとんどですが、音声や点字では浸水想定区域の平面的な広がりを把握することは困難です。そこで、期待されるのが、立体地図によるハザードマップの普及です。
3Dプリンターで、比較的簡単に立体地図や触地図が作れるようになりました。地理院地図から3Dプリンタ用データをダウンロードして、3Dプリンタで立体地図を作成することができます。また、国土地理院のサイトでダウンロードできる「画像から3Dプリンタ用ファイルを作成するプログラム」を用いて触地図を作製することができます。しかし、触地図の道路は平坦で高低差が不明です。洪水や津波で高台に避難する場合、道路のアップダウンがわかるように、立体地図の上に触地図を描くことができればよいのですが、残念ながらそのようなデータは存在しないので、3Dプリンターでは作製できません。
また、現時点では、3Dプリンターを利用して、視覚障がい者が触ってわかるように浸水想定区域を凹凸のテクスチャーで表すことは技術的に難しく、また、3Dプリンターでハザードマップを製作するには仕上がり具合や造形精度において改良の余地があるそうです。立体地図によるハザードマップは、視覚障がい者だけでなく、晴眼者にとっても、感覚的に浸水想定区域を把握できるため、3Dプリンターの性能の向上が望まれます。
2022年5月25日、障がい者が障がいのない人と同じように情報を得られる社会を目指す「障害者情報アクセシビリティー・コミュニケーション施策推進法」が公布・施行されました。災害時には、避難情報がわからないと命にかかわります。私が住んでいるつくば市にも、障がい者向けのハザードマップはありません。しかし、障がいをお持ちの方から問い合わせがあった場合には、その方に合わせた説明をするとのことです。大阪府堺市は、視覚障がい者が防災担当の窓口に電話をすれば、自分が住む地域の細かな情報、浸水や土砂災害の危険性、最寄りの避難所などを教えてくれる仕組みをつくり、市のホームページに掲載しました。全ての方々に、防災情報が行き渡るように、市役所は日頃から、あらゆる手段で防災情報を積極的に発信しなければなりません。
参考文献など
国土交通省 第1回ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会.参考資料2障害に対応した水害ハザードマップに関する調査結果.令和3年12月23日.(参照日2022年10月8日)
国土地理院.立体地図(地理院地図3D・触地図) 日本全国、3Dプリンタで立体模型に.(参照日2022年10月8日)
国土地理院.立体地図をつくる(ダウンロード編).(参照日2022年10月8日)
堺市.現行のハザードマップ 視覚障害のある方などへ.2022年7月25日.(参照日2022年10月8日)
萩 達也・細川陽一.(2020).「視覚障害者が手で触って分かる立体的ハザードマップの開発―その1 道路が分かる触地図の製作―」.「図学研究」,54(1).27-30.(参照日2022年10月8日)
読売新聞 yomiDr..情報のバリアフリー化で誰もが生きやすい社会に・・・「障害者情報アクセシビリティー・コミュニケーション施策推進法」が5月施行.2022年7月8日.(参照日2022年10月8日)
KAKEN 2018年度 実績報告書.視覚障害者が手で触って分かる立体的ハザードマップ教材の開発 国立大学法人名古屋工業大学 萩 達也.(参照日2022年10月8日)