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ガールミーツイージ
「やあやあ!俺はこの街イチの風来坊!泣く子も黙る傾奇者!名をグレート八郎!!
俺の前で困り顔晒すお前さんは運がいい。今宵はすこぶる気分がいいので助太刀いたそう!
さあ!俺に助けて欲しいのは、一体、どこのどいつだあああ!?」
不夜街路地裏の行き止まり。高く積まれたゴミ山の上。長身巨体の大男がこちらを見て大名乗りをあげる。
「私です!助けて欲しいです。
悪い奴らに追われているの!」
嘘だけど。
「ほう?俺の目には奴ら警官に見えるのだが、悪い奴とな?」
バレてた。憎たらしい目つきでニマニマしてくるこいつ、腹立つ。
「いいから!助けてくれるんでしょ!?」
「おうとも!男に二言なし!!
さあ!俺の手につかまれぇ!!」
ゴミ山の上から、私の腰くらいありそうな上から、私の顔くらいの掌が差し出される。
迷わず掴み取る。
次の瞬間私は空を飛んでいた。男のひとっ飛びは周囲のビルを優に足元に捉え、次の一蹴りは何もないはずの空を弾いた。つまり、このグレート八郎なる男は空を駆けた。
八郎が何か言っているが風を突き抜けて進む私の耳には届かない。
ので、八郎の耳元で、大声で叫ぶ。
「何言ってるかわかんなああい!!」
八郎は一瞬体勢を崩しかけたが何とか持ちこたえて、不夜街で一番高い「メダチビル」の屋上に降り立った。
「ちょっと!何落ちかけてんのよ!死んじゃうでしょ!」
「誰のせいやと思っとんねん」
あ、素は訛ってるのね。
「ま、いいわ。助かったわ、ありがとう」
「おう!気にすんなや!
でも姉ちゃん、なんしてあんなに警官に追われとったんや?」
「あんたに関係ないでしょ」
「助けてやったやん。手間賃ってことで教えてや」
・・・仕方ない。こんなのに頼った私が悪いのだ。
「私、泥棒なの。警察に追われるのは当然でしょ?」
「何盗んだん?」
「政府の恥部」
ブフッッー!と八郎は吹き出した。何かツボに入ったらしい。
「何が可笑しかった?」
「いや、お前さんみたいな、別嬪が顔色一つ変えずに、突然『恥部』っていうから、なんか面白くてな」言いながら尚笑いが止まらない様子だ。
「よく分かんない」
「ほんとやな。俺も何が面白いか自分で分からんくなってきた。
政府の恥部って、具体的には何なん?」
「秘密。そこまで教える義理は無いわ」
「じゃあその秘密はどうなるん?」
「もちろん晒してやるわよ。今はネットっていう誰でも発信できる優れモノがあってね、知ってる?ネット」
「ふーん。
でもそれってあれか?義賊的な事やっとるんか?」
「そんな褒められたもんじゃないわ
私はただ、憎い奴らが吠え面かいて歯噛みするところが見たいだけよ」
「ふーん。そんなもんか」
「そうよ」
そう。そしてこんなもので終わりではない。私が奴らに貸している者は死んでも取り立てる。その為だったら何でもする覚悟はある。
・・・柄にもなくベラベラと喋り過ぎてしまった。
まあもともと利用した後は消すつもりだったが。少しだけ、申し訳なくもある。
「おい、このビルほんとたっかいなあ。『人がアリのようだ!!』ってやつやん」
八郎はのんきな顔ではしゃいでいる。
懐から毒のついたドスを抜いて、後ろ手にそっと近づく。
「そうね、虫のようだわ」
一振りで終わらせようとしたその時、さっきと変わらない陽気な調子で八郎が声をあげた。
「手伝ってやるよ。お前の泥棒」
「・・・・はあ?」
「俺も一緒にやってやるって言ってんだよ。不満か?」
「あんたには関係ないって言ってるじゃない!」
「結構追い込まれとるんじゃないんか?警察に顔割れとるみたいやし、上手くかばっとるつもりかもしれんけど足引きずっとるしな」
この男、意外と目ざといなちくしょう。
「図星やろ。俺の助けがあったほうがいいんじゃあないか?」
「・・・あんたのメリットがないわ」
「面白そう、これだけで十分だ。ゴミ山暮らしも満喫したし。あとお前さんが古い知り合いに似とってほっとけんのや」
「何よそれ」
「まあいいやん。
で、どうするん?仲間にしてくれるん?」
困った。部外者に足を引っ張られるのは勘弁だけど、今足が動かないのは私の方だ。この男の言うことは一理どころか私の理が大きすぎる。ぐぬぬ。
八郎が振り返ろうとしたので慌ててドスを隠す。
目の前の男は、やはり憎たらしい笑みを浮かべていたが、その顔を見ているとなんか細かいことを気にしているようで阿呆らしくなってきた。
「いいわ、好きにしなさい」
「よっしゃあ!面白くなってきたのう!」
変な男だ。突然見ず知らずの女を警官から助けて、あまつさえ泥棒の助力をすると。
まあいいか、何でも。
私は私の目的さえ果たせれば。
「じゃ、行くか」
「え。どこに?」
「どこって晒しに行くんやろ?アジト的な場所無いんか?それともあれか、今時河原にでも行くんか」
「あるわよアジト」
「案内してくれや」
「ちょっと待って」
八郎に見えないように後ろを向いてドスを懐にしまう。
「何しとるん?」
「うるさい変態。覗いたら殺すわよ」
「おおこわ」
これでよしと。納刀完了。
「じゃあ行くわよ」
「おう!しっかりつかまれや!
・・そういえば、姉ちゃん名前なんて言うんや?」
「イージ・ジャッカルよ」
「え。それ本名?」
「んな訳あるか!コードネームに決まってるでしょ」
「『イージ・ジャッカル様』って呼ぶわけにもいかんし名前教えてや」
「舐めてたらしばくわよあんた。
・・・・・・・キリィ」
「声ちっちゃ!
でもキリィか、可愛らしい名前やん」
『ボコッ』
「いったあ。殴ること無いやんけ」
「もう可愛いとか言わないでね」
「はいはい。
そんじゃキリィ!しっかりつかまれよ!」
八郎の大きな腕が私を包む。強く締められている訳ではないが、不思議と落ちる気はしない。
「さあさあ!漢グレート八郎、これより大泥棒キリィの手足となり獅子奮迅の大活躍を歴史に刻む事、いまこの世に誓おう!
この一歩は初めの一歩!
いざ往かん!!」
飛ぶ。私の身体が。八郎の巨体が。
一蹴り一蹴りが空を掴んで次の一歩へと踏み込んでいく。
ああ、他人に本名を教えたのはいつぶりだろう。私も焼きが回ったかな。
ボロが出たら、こいつにはしっかり責任を取ってもらわないと。
「一回死んだようなものだしね」
「ああ?なんかいったか」
うるさっ。あんた声デカいのよ。耳が痺れた。
なので私は顔を八郎の耳元へ近づけ、仕返しのごとく大声で叫んでやったのだ。