静かで長い夜

夫が亡くなって初めて、私と子供たち二人だけで夜を過ごすことになった。夫が亡くなってから数週間、絶えず両親や義理の両親、弟、そして妹が一緒に泊まっていてくれた。特に妹はほぼ毎日泊まってくれた。同じ歳の男の子と女の子をそれぞれ2ヶ月違いで産み、子育てを助け合ってきたので、何をしなければいいのか、私が何も言わなくてもわかってくれていた。ご飯を作ったり、お皿を洗ったり、洗濯物をしたり、そういった日常生活の全てを引き受けた上に、子供たちの習い事・学校関連の手続きまで、私に代わってこなしてくれた。大津波で全てが破壊された日常生活のかけらを少しずつ集めてくれて、脆くなった地盤の上で揺れる私たちを支えてくれていた。

そんな妹もいよいよ自分の生活に戻らなければいけなくなり、私と子供たち二人、たったの3人の新しい日常を始めなければいけなかった。

私も久しぶりにキッチンに立ち、ご飯を作った。ご飯を作っていると、あまりにも普通の日常で、長い仮装パーティーが終わり、全てが夫がいる元通りの普通に戻ったような錯覚に陥った。

「セットアップしてー!」というと、息子がキッチンにやってきた。

いつものようにコップやらお箸やらを準備していた息子が「あ、三枚か。。。」とつぶやいて、4枚取り出してしまったお皿を握りしめたまま固まっていた。

スローモーション動画に入り込んでしまったように動けずにいる息子を思わず抱きしめて、二人で泣いた。

静かで長い夜だった。


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